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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
111/113

091 ドラゴンとの戦い

「ウソ⋯⋯だろ。ドラゴン、だと?」


 ドラゴンという存在がこの世界に存在することは知っていた。


 空を翔ぶ巨大な生物で、滅多に目撃されることはなく、元カダベルの長い生涯の中ですら一度も遭ったことはない。


 だからこそ、平定の大魔法師ワーゲストや賢者(ワイズマン)、魔女たちのように神話や絵本の中でしか描かれないのか“竜”なのだ。


 だが、これは……


「う、ウナギじゃん…」


 そう。空にとぐろを巻くようにして旋回している巨大生物は巨大なウナギだった。


 しかも、丑の日に食べるニホンウナギじゃない。ヌタウナギとか、ヤツメウナギっぽい。愛嬌の“あ”の字も感じさせない風貌のヤツだ。


 皮膚はウロコで覆われているわけではなく、ヌメッとした質感で、色合いに至っては灰色がかった肌色と気持ち悪さに拍車を掛けている。


 蛇みたいな東洋の竜と比べても、細長いというだけしか共通点がない。


「これがドラゴンだって?」


「間違いねぇ。昔、ガキの頃に読んだ本の挿絵にあったヤツだ」


 こんなトラウマモンスターが描かれている絵本ってどんなんよ。


「しかし、あの巨体……たぶん軽く20メートル近くはあるとは思うんだが、どうやって飛んでるんだ?」


 見たところ、翼どころか手足もない。それでも空中を水の中のように自由気ままに泳いでいる。


「ん? あれは…」


 集中してみると胴体の脇にヒラヒラと半透明のものが揺らいでいた。

 布切れのような薄っぺらいものが、胴体の横側面に帯のように波打っているのだ。


「どこかで見た記憶があるなぁ……。あ、そうだ! スカイフィッシュ! UMAだ!」


 未確認生物[Unidentified Mysterious Animal]だ。テレビ番組で見た眼にも止まらぬ速度で飛翔する生物で、想像図であんなヒダみたいな羽根がついてて、空気抵抗をうんぬんかんぬん……といった話を思い出す。


 確か実は未確認生物じゃなく、正体は虫の残影がそう見えたというオチだった気がしたが。


 コイツの見た目は、そのスカイフィッシュを馬鹿みたいに延長したバージョンだ。


「不思議生物であることに間違いはないが…」


 俺は懐の魔力測定機が反応しているのに気づく。


 あんな羽根じゃ物理的に浮かんだり、ましてや滞空状態を保つなんて無理だ。


 そりゃ、少し考えればわかることじゃないか。


 見た目が人間じゃなくても、コイツは“魔法を使える生物”だなんてこと。


「魔力を放って空を翔ぶ。さっき【集音】で聴こえたのがコイツの魔力だとしたら……」


 俺は背筋が薄ら寒くなるのを感じる。


 ライゲイスたちは武器を構え、警戒してこそいたが、それでも初めて見るドラゴンに圧倒されていた。


 そしてドラゴンがこちらを見ていない雰囲気なのもいけなかった。


 “敵”はもう動き出していたんだ──


「避けろぉ!!」


 俺は走って行き、リブを馬車の側から引き剥がす。


 ふたりして地面にひっくり返ったその直後、馬もろとも馬車が蒸発したように消えた。


「な…なにが…」


 リブはフラフラしているが、構っている余裕は俺にもなかった。


「ライゲイス! 戦闘態勢だ! 攻撃だ!」


 俺が言わずとも、ライゲイスはすでに動いていた。


「セイラー様を守れ! リブ! ネイソン! ルビオラ! 迎え撃つぞ!!」


「戦うつもりか? 逃げる方が…」


「どこにだ!? 逃げるにしても弱らせねぇことににゃどうにもならねぇ!!」


「確かにそれはそうだが…」


 聖騎士団は世界最強だ。


 だが、それは地上戦での話だ。


 空を翔ぶモンスター相手に戦う訓練をしていないのは、ジョシュアと戦った俺は知っている。


 ドラゴンは距離を保ち、悠々と旋回している。強者の余裕ってやつかよ。


「今の見えない攻撃はなンだ? 魔法なのか? 手前は事前に察知したな! 教えろ!」


「魔法ってより、もっと原始的なもんだ。たぶんだが、周囲に撒布した魔力を一点に集中させて放ったんだろう」


 俺はドラゴンの高度が一瞬落ちたのを見逃さなかった。飛行の魔力を攻撃に回したんだろう。あれだけの質量を浮かばさせるエネルギーだから、それは一撃必殺になりうる。


「ただ連発はできないハズだ」


「なンでそう言い切れる!?」


「魔力そのものを放つ方法は俺もずっと研究している。実現しないのは、現実的じゃないほどの膨大な魔力を必要とするからだ」


「時間が必要ってことか? なら、その前に叩けって話だな!」


 さすがだ。ライゲイスはすぐに理解したようで頷く。


「あの形状から接近戦はないと思っていいだろうが、どうやって戦う? 敵は空を翔んでいるんだぞ」


 他の聖騎士たちは弓を持って来たが、あの巨体に対してなんとも心許ない武器だ。


「手前の魔法は?」


「俺はこう見えて遠距離攻撃は持ってないのよ」


「そうか。ならそこで見てな!」


 ライゲイスはニヤッと口端を見せて笑うと走り出す。   


 走ってる最中に、その持っている槍斧の刃先が発光し始める。


「合わせろ! 聖技(ルク)(バースト)』!」


 ライゲイスが槍斧を振るのと同時に、聖騎士たちが矢を放つ!


 前にサトゥーザが使った『シャープ』とかいう遠距離の聖撃に似てると思ったが違う。


 槍斧から放った光る剣撃、そして放たれた矢も同じ色に光ったかと思いきや、ドラゴンに触れる瞬間に爆発を起こした。


「オオオオオオオォーーンッ!!!」


 ドラゴンは堪らないという感じに悲鳴を上げる。なんか野太い声で、オッサンが断末魔を上げてるみたいで気持ちが悪い。しかも口からってより、全身から叫んでるみたいに音が反響している。


「よし! ダメージは通るみてぇだな!」


「凄いな。神様の“加護”ってのはこんなこともできんのか。これ使ってたら、俺と戦った時に勝ってたんじゃね?」


「ハッ! なに言ってやがる! 己様が聖撃を使うのを手前が見逃すってのか?」


「まあ、そうね」


 聖技は確かに強いが、発動するのには大きな隙が出来るのは知っていた。


 俺は前から対サトゥーザ戦を想定していたから、よほどトリッキーなものじゃなければ対処できるとは思う。


「敵は怯んだ! この機を逃すな! 続けてブチかまして…!?」

 

 続けて聖技を使おうとしたライゲイスがハッとする。


 ドラゴンは苦痛にのたうち回っていたかと思いきや、地面スレスレを滑空し始めて……


 なにか身体の周囲を覆っている?


「! まさか…」


 地面に落ちている倒木、枝、石、土、小動物…そういったものが、半透明な羽によって巻き上げられ、それらがドラゴンの周囲を浮遊していた。


「こりゃ、マズイぞ…」


 俺は後方を見やる。二番車、三番車の方は気付いていない。


 そうだ! フェルトマン!


 【遠心通話】が使えるだろうに!


 どうして俺に連絡してこねぇんだ! あの野郎は! クソッ! まったく使えねぇな!!


「ゴライーッ! 防御だ!!」


 俺はそう叫ぶ。


 ゴライであれば……


 ライゲイスは俺の慌てようを見て、大盾を持って俺や周囲の聖騎士たちを庇うように立つ。


 そして──


 ドラゴンが真っ直ぐにこちらに向かって飛翔してくる。


 纏わりついた無数の瓦礫は、俺たちの頭上に向かって降り注ぐ。


 そうだ。これは“土石流”だ!


「ウグオオオオッ!!!」


 この攻撃に俺はどうすることもできない。一際、身体のデカいライゲイスに守って貰うしかないが、他の聖騎士たちも身を屈めて耐えるのがやっとという有様だ。


 “天災”が相手では、聖騎士も魔法も対処のしようがない。


 ドラゴンが通り過ぎ、ようやく嵐が過ぎ去る。


「全員無事か!?」


 周囲の景色は、台風が去った後みたいだ。


 ライゲイスは片膝をついてるが、大きな怪我はしていない。


 他の聖騎士たちも、礫が額に当たったり、枝で肩口を切ったりしているが命に別状はなさそうだ。


 三番車は……ゴライがいるんで大丈夫だ。


 問題は二番車だが、周辺が緑色の膜みたいなので守られている。あれは【防風膜】か。やったのはフェルトマンかな。

 【断膜壁】より防御力に劣るが、全方向攻撃が相手なら適切な選択だ。八翼神官の名は伊達じゃないといったところか。


「ンの野郎ォ。ふざけやがって…」


 【小治癒】でライゲイスは自分の傷を手当てしながら膝頭を叩く。


「こっちの攻撃はノーダメかよ!」


「いや、ダメージは受けている。今のは苦し紛れの攻撃だったんだろう」


「アァン? なンだと?」


 俺は魔力測定機で、ドラゴンの魔力を測っていた。総魔力量は10,000前後で、今は5,000を下回っている。あの“”魔力圧縮砲”と、“魔力土石流”で相当消費したんだろう。

 無理をすればあと2発は撃てる計算だが、奴は空中の移動にも魔力を使っている。高速移動すると目に見えて魔力が減る。


 魔女ジュエルなどは桁違いの魔力だったし、人間サイズで数万を超える魔力を持っているのはヤバイと感じるが、あれだけの巨体で10,000程度の魔力が多いのかと言われれば微妙な気もするな。

 

 生命維持と活動力……それにも魔力を使っているとしたら、これ以上に使うのは危険だと本能では理解しているはずだ。


「まあ、俺たちを基準にしては考えられないな。魔力は少しずつ回復しているみたいだし」


 数秒ごとに魔力が微量だが回復している。これは人間や魔女じゃまず考えられないことだ。


「飛行に魔力を使っているから、自然に回復するための器官でもあるのかしら? いや、解剖したら色々とわかりそうな気がするなぁ……」


「オイ。なに嬉しそうに言ってやがる!」


「んー、生け捕りは無理そうだからなぁ。…とにかく、さっきの攻撃で畳み掛けるのは正解だ。回復する暇を与えちゃいけない」


「ンなのはわーってる! もう一度やるぞ!」


「いや、待って」


 走り出そうとしたライゲイスが途中で振り返って俺を睨む。


「さっき、使った聖技…」


「『(バースト)』か?」


「そうそれ。あれってどういう仕組みで、他の矢も爆発したの?」


「仕組みなんて知らねぇよ! 己様の投擲に合わせて爆破させる祝福だ!」


 爆破させる祝福だなんて物騒な神だな。


 聖技や聖撃とやらの原理はよくわからんが、俺の見立てが正しければ魔法の一種だ。


 他人に魔法を使わせるってのは魔蓄石ぐらいしか方法が思いつかんが、魔法研究家カダベルですら知らん魔法もそりゃあるだろう。


「まあ、とにかく、ライゲイスの投擲に合わせれば俺がやっても爆破効果は出るのかい?」


「アァン? …聖騎士以外で試したこたぁねぇが、たぶン出来ると思うぜ。ババアには“投擲に合わせる”のが条件だとしか聞いてねぇ」


 ババア…って、ああ。総団長のことか。


 聖撃とかって、総団長から学ぶもんなのか。ふーん。


「なら試す価値はあるな」


「なに言ってンだ?」


 俺はポケットから砕けてバラバラになった魔蓄石の入った瓶を取り出す。


「それでは、ここは屍従王と聖騎士のコラボ技といきますか!」

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