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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
109/113

 挿話③ 恋愛の魔法士 

 サトゥーザは陰鬱な気持ちを抱えた状態で、城門を潜り、その足で王城へと向かう。


 本来ならば、事前に来訪した旨を伝え、日を改めて先方の招致に合せるのが礼儀だが、ギアナードを襲った魔法封印事変、そして突如として発生したゴブリンなどの緊急事態が立て続けに起こったということもあり、それらを敢えて無視したのだ。


 魔法が使えなくなったことは、製作や加工、または大工業といった生産業に影響こそ与えたが、ギアナード自体がさほど魔法に頼る国ではなく、むしろ魔法が使えない者も多いことから、街の機能が完全停止するといった状況にまでは陥っていなかった。


 また、近隣に兵を派遣して対応するというまではできていなかったが、それでも王都インペリアー内部の状況は持ち直し、騎士団によるゴブリン討伐部隊も編成されている。


 客間に通されると、大臣たちが“クルシァンからの情報を得たい”という下心丸出しの顔で、挨拶もそこそこにあれこれと質問してくるが、今回の事態については何も知らないこと、クルシァンとしての対処はこれからだということを伝えると、ガッカリした様子で部屋を後にしたのだった。



「サトゥーザ殿。ろくなもてなしもできず、まことに申し訳ない」


 大臣たちの後に入って来た、王国軍将軍デトロイト・バックドロッパーは申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえ、急に来訪をしたわけですから、むしろ謝罪するべきは自分の方です」


 サトゥーザが椅子から立ち上がると、互いに略式で挨拶を交わす。


「【投函】も使えませんからな。仕方ないことであると理解しております」


「かたじけない」


 バックドロッパーがどう思っているかは知らなかったが、サトゥーザはこの生真面目な将軍には好感を抱いていた。


「このような異常事態に際し、団長という立場にありながら、すぐに聖騎士団を派遣できぬこと。心苦しく思っております」


「いや、お気持ちだけで充分です。我々も手をこまねいているわけでも…」


「サトゥーザ団長!」


 形式張ったやり取りをしている最中、空気の読めない声が遠慮なしに扉を勢いよく開いた。


「よくぞ来てくれた!」


 ギアナード国王ゼロサム・ウィンガルムは歯を見せて笑い、両手でサトゥーザの手を取る。


 以前は口を開けると歯の1本が抜けていたが、今は治療して全ての歯が揃っていた。


「ゼロサム陛下。ご無沙汰しております。この度は…」


「堅苦しい挨拶は無用だ! 楽にしてくれ!」


 ゼロサムは大口を開けて笑うと椅子に座り、バックドロッパーは「王…」と呟いて額の汗を拭った。


「んん? 団長殿だけか? ジョシュアはいないのか?」


 ゼロサムに問われ、サトゥーザは一瞬だけ悲しそうに目を伏せたが、ふたりがそれに気付かないうちに元の表情に戻る。


「ジョシュア・クシエは別の任務に当たっており、本日は私だけです」


「そうか…。それは残念だな」


 ゼロサムは落胆を少しも隠そうとせずそう言った。

 剣を交えて以来、ジョシュアはとても気に入られていたのだ。


「それで用件があって来たのだろう? 話してくれ」


「ええ。まず、此度、巫女の“弔問”を認めて下さったことを…」


「ああ。大したことはしてないぞ。“クルシァンの貴族”が当領地で亡くなったとすれば当然の話だ」


 ゼロサムはそれを遮るように被せて言う。


 嘘は言っていないが、それが“カダベル・ソリテール”のことだとは言えず、サトゥーザは少しだけ罪悪感を覚える。


 “展墓”ではなく“弔問”としたのは、カダベルのことを追求されぬようにする為で、元クルシァン貴族のロッジモンドが統括していた領地であったこともあり、特に不審に思われることもなく、仔細を聞かれなかったのは僥倖だった。


「そして、陛下に何の挨拶もなく、我々がこの国から撤退した件。改めて謝罪を…」


「謝罪などもいらん」


 また途中で遮り、「つまらん」とばかりに、ゼロサムは片手を大きく振った。


 王の性格を考えればそう言うだろうとサトゥーザは思っていたので、さほど驚きはない。


 実はすでに詫び状を送ってはいたのだが、ギアナードからは忘れた頃に「不問である」と短く返信が来ただけである。


「元はと言えば、この国で起きた問題だ。この国で解決しなければならん…そうだろう? バックドロッパー」


 ゼロサムがそう投げかけると、バックドロッパーは大きく頷く。 


「……で、だ。腹の探りあいというのは俺は苦手でな」


 少しだけ前屈みになり、ゼロサムは続ける。


「建前はなしで、お互いに率直に話そう。……ずばり、貴殿が来たのは屍従王の件なんだろう?」


 サトゥーザだけでなく、バックドロッパーも眼を丸くする。


「王。屍従王は滅びたわけですから…」


「そんなわけあるか」


 ゼロサムが真顔で言うのに、バックドロッパーは眼を瞬く。


「もし本当にそうだとしたら、俺はもう王座に居ない」


「それはどういう意味で…?」


「そのままの意味だ。屍従王がいなきゃ、俺はとっくに暗殺されている」


 バックドロッパーが口をあんぐりと開くのに、ゼロサムはニヤリと笑ってサトゥーザを見やる。


「そうだな。この国の今の状態。そして、屍従王。これらは無関係ではないんだろう。大臣たちもそう騒いでたしな」


 そういえば、大臣たちがやたらと屍従王について知らないかと聞いてきたことをサトゥーザは今になって思い出す。


「サトゥーザ殿はそれについて何か知っているから話に来た……それぐらいは、俺にもわかる」

 

 ゼロサムは椅子に大きく寄り掛かって息を吐く。


「……だが、あまり難しいことはわからん。俺にもわかるように話して貰えるだろうか?」


「それはもちろんです。ゼロサム王」


 サトゥーザは頷くが、ゼロサムは顎に手をやったまましばらく考えるような素振りを見せた。


「……サトゥーザ聖騎士団長!」


「は、はい?」


 いきなり大きな声で名を呼ばれ、サトゥーザは少し驚く。


「よし! それでは、この後は剣で語って貰うとしよう!」




──




 承諾するもしないもなく、サトゥーザは訓練所へと案内される。


「こんなことをしている暇はないというのに…」


 早く用件を済ませ、セイラーたちに合流せねばならないという焦りがサトゥーザの胸中にあった。

 こうしている間にも距離は広がり、追いつくまでに余計に日数が掛かることになってしまう。


「無理難題を言って申し訳ない」


「あ。いや、今のは決してそういう意味では…」


 バックドロッパーが側に居るのに軽率だったと、サトゥーザは気まずそうにする。


「王は一度言ったら聞きませんから。…サトゥーザ殿。ぜひ本気でやって下さい」


「本気? いや、そういうわけにはいかないでしょう。万が一のことがあったら困ります」


 相手は一国の王だ。サトゥーザは儀礼的な訓練で終わらせるつもりだった。


「なにがあっても責任は我々にあります。王も承知のこと。お願いします」


「しかし…」


「そうでないと王は納得されません。手を抜けば気づきます」


 面倒なことになったとサトゥーザは小さくため息をつく。


 向かいに立つゼロサムは、部下が防具を着けようとするのに「くどい! いらんものはいらん!」と叫んでいる。


「待たせたな!」


 結局、ゼロサムはそのままの格好で木剣を構える。


(“剣で語る”……意味がわからんが、致し方なし、か)


 サトゥーザもそれに合わせるかのように、胸当てと肩当てを外し、木剣を構えた。


「では、参る!」


 相手が聖騎士団長であるという気後れもなく、王はいつものように突貫する。


 決してゼロサムは弱いわけではない。生まれ持って恵まれた体格、上背も膂力も並の男以上であり、そこに弛まない訓練が加われば強くならないわけがない。

 間違いなくギアナード王国騎士団で最強であり、真正面から戦えばバックドロッパーでも勝てはしないだろう。


 しかし、今回は相手が悪かった。なぜならば、クルシァン聖騎士団は世界最強だからだ。そして、サトゥーザはその上位に君臨しているのである。


 ゼロサムが上段で振りかぶってくるのを、サトゥーザは横薙ぎに胴を払う。


「グヌッ!」


 手加減はした。だが、それでも青アザにはなる威力だ。


「これで終わ…」


「ウオオッ!!」


「ッ!?」


 実力を示せればいいと思っていたサトゥーザは、ゼロサムが未だ戦意を失わず、そのまま木剣を振り下ろすのを見て後ずさる。


 後ろでバックドロッパーが「本気で!」と叫んでいた。


(……クソ。なんで私がこんなことを!)


 サトゥーザは自身の髪を払うと、素早い連撃でゼロサムの手首と肩、脚の腱といった致命傷にはなり得ない部分を打ち据える。


「まだまだッ!!」


「な…!」


 ダメージは与えたはずなのに、ゼロサムはまるで痛みを感じていないかのように攻撃に転じる。


(本物の剣を使ってたら、今ので終わってたぞ!)


 筋を斬られてしまえば、回復魔法でも使わねば戦闘継続は難しい。聖騎士たちの模擬戦でも、ここを打った時点で負けというのが通常だ。


「ウオオッ!!」


 野獣のような咆哮、力任せの剣撃。それはおおよそ剣術を知っているとは思えない攻撃だ。

 しかし、サトゥーザはそれを脅威とは思わない。そんな手合いは何人も相手にしてきたからだ。


 しばらく、ゼロサムが突っ込み、サトゥーザが避けて打つという単調なやり取りが続く。


 これだけ打たれれば、少しは堪えるだろう……そう思っても、ゼロサムの眼の光は一切消えることはない。


(聖騎士の中でも、ここまで胆力を持つ者はそうはいないぞ)


 サトゥーザの中で、少しずつゼロサムの評価が変わる。

 猪突猛進な馬鹿王…そんな噂は聞いていた。だが、団長以外の聖騎士たちの中で、ここまで自分に喰らいついてこれる者がはたしているだろうか。


 しかし、何事にも終わりは訪れる。


「……失礼。動けなくさせます」


 このままでは埒が明かないと察したサトゥーザは、少し本気になってゼロサムを打ち据える。


「ガッ!」


 背筋を打たれ、ゼロサムは白眼を剥いてその場に前のめりに倒れた。


「これで……」


「まだまだ、だ!」


「なッ?!」


 気絶させたと思いきや、ゼロサムはヨロヨロと身を起こす。


「王!」


「邪魔するな! まだ終わってない!」


 心配する家臣たちを振り払い、ゼロサムは木剣を杖にして立ち上がる。


(実力差は明白だろうに…。なにがこうまでさせるのだ……)


 サトゥーザの顔に苛立ちの色が浮かぶ。

 

 ここまでやる必要が感じられない。意地になるにしても、あまりにも短絡的すぎやしないか…そんな想いが彼女の中で渦巻く。


(短絡的…それは私も同じじゃないか) 

 

 ふと、結果は見えているのに同じ事を繰り返す…そんな王の姿が、ジョシュアに無意味なアプローチを続けている自分と重なって見えた。


(……決して報われない。そんなこと、自分が一番わかっている!) 

 

 ジョシュア、カダベル、セイラー、そして、いけすかない神官たちの顔が浮かんでは消える……


 このところ、サトゥーザは無意識のうちに怒りを溜め込んでいた。思うようにいかない出来事への鬱憤が蓄積していたのだ。


 なぜかそれらが、どうあっても立ち上がってくるゼロサムに対する怒りとして燃え上がる。


 サトゥーザは気がつけば木剣を振るっていた。


 それも手加減ひとつない渾身の一撃だ。


「……あ」


 ゼロサムが吹っ飛び、石壁にめり込んだ瞬間にサトゥーザはようやく我に返る。


「わ、私はなにを…」


 自分の震える手を、サトゥーザは信じられないものを見るかのような眼で見つめる。


 感情をコントロールできず、暴発させるなど“滅私”を旨とする聖騎士団長にあってはならないことだ。


「お、王!」


 バックドロッパーが慌てて、壁にめり込んでグッタリとしているゼロサムを引っ張り出す。


「ここまでするつもりはなく…」


「い、いや…」


 サトゥーザは自分で言い訳がましいと思ったが、手加減をするなと言ったバックドロッパーもなんとも気まずそうな顔をしていた。


 待機していた医官たちが走り寄って手を触れようした瞬間、ゼロサムはパチリと眼を開く。


「お、王? ご無事で…?」


「ゼロサム…陛下?」


 バックドロッパーとサトゥーザが心配そうに覗き込む中、ゼロサムは上半身だけをムクリと起き上がらせた。


「た、大変な失礼を…」


 サトゥーザが謝罪しようとした時、ゼロサムは歯を光らせて笑う。


「……強い!」


「え?」


「素敵だ!」


 面と向かってそんなことを言われ、なぜかサトゥーザの胸がトクンと高鳴った。


「ええと…」

 

 ゼロサムは居住まいをただして正座すると、サトゥーザに真正面から向き直る。


「ここまで完膚なきまでに俺を倒してくれたのは貴殿だけだ! どいつもこいつも“接待”ばかりで、そんな中、俺の剣と真正面から向かい合ってくれたのはサトゥーザ聖騎士団長! 貴殿だけだった!」


 ゼロサムの言っている意味はわからなかったが、これだけ喋れるということは大した怪我をしていなかったのだとサトゥーザはホッとする。


「俺は剣でしか語れん男だ……」


 急にゼロサムは声のトーンを落として言う。


 いつもの王らしくない雰囲気に、バックドロッパーたち家臣は面食らう。


「サトゥーザ聖騎士団長」


「は、はい」


 口を真一文字に閉じ、ゼロサムは真剣な顔をする。


 声が大きく、歯茎まで見えるほどにいつも大口を開けているイメージしかないゼロサムだったが、口を閉じて真剣な表情をしている限りは、整った容姿のお陰で聡明な君主のように見える。


 そんなギアナードの王の威厳に当てられ、さすがのサトゥーザも少し怯む。


「……そ、そのだな」


「はい」


「つまりは…俺は…」


「はい」


「あー…」


「ゼロサム陛下。どうぞ、いつものようにお話し下さい」


「お、俺と……」


「俺と?」


「食事でもどうだッ!?」


 ゼロサムが思い切って言うのに、サトゥーザだけでなく、バックドロッパーたちも眼を見開く。


「ば、晩餐会へのご招待であれば謹んで…」


 貴賓、騎士爵としての立場からサトゥーザは応える。


「違う。ふ、ふたりで…ふたりだけで……しょ、食事がしたい…」


 ゼロサムは鼻の頭の赤い線を掻きながら言う。


 サトゥーザは一瞬だけ呆気にとられたが、それがすぐにデートに誘われているのだと気付き、「ああッ」と間抜けな声を上げた。


「わ、私は…そのようなッ」


 反射的に断ろうとしたサトゥーザの脳裏に、ある言葉が浮かび上がる。

 


──次、もし他の誰かから食事に誘われたら断るな──



「……私のような者……で、よろしければ、喜んで…」


 意識せずにそう答えてしまい、サトゥーザはハッと自分の口元を覆う。


「ほ、本当か!?」


 ゼロサムは驚いたかと思いきや、嬉色満面の笑みを浮かべて飛び上がる。子供のようにはしゃいでいる王を前に、サトゥーザは「間違いだった」とはとても言えない。


(か、カダベル…! あの時、何か私に得体の知れぬ魔法でも掛けたのか!? そうだ、そうに違いない)


 そんなことを思いつつ、ゼロサムに手を取られ、ブンブンと上下に振られているサトゥーザの顔は、そう満更でもなかったのだった──




──




 カダベルを中心にし、ジョシュアとデパタを除いた年若い聖騎士たちが車座になって座っていた。


「……それで、今回の旅に出る際にケンカになったと言うわけだね」


 カダベルが焚き火に折った枝を放りつつ言うと、リブはしょんぼりしたように頷く。


「それは君を心配したからだよ」


「い、いや、彼女…本当に怒ってたし…」


「そりゃそうさ。危険な任務に出るって話なのに、事前に伝えることもなくいきなり言ったんだろ?」


「手紙も書いたのに…受け取って貰えなかったし……」


「ケンカした翌日に直接に手渡すなんてナンセンスだろ。なにより気まず過ぎるし、彼女からすれば“本人を目の前にしてなによ”ってなるぞ」


 カダベルが肩をすくめると、リブは「はー」と大きくため息をついた。同僚たちが慰めの言葉を掛ける。    


「君と彼女には共通の友人……幼馴染とかはいないのかい?」


「ドネツク?」


「そう、それ」


 カダベルは、ペキッと指を鳴らす。指を弾いたのだが、骨同士が擦れてそんな音を立てたのだ。


「こういう時はさ、まずドネツクくんに手紙を渡すんだ。そして、君が旅立った後しばらくしてから、彼女にと渡してもらうんだよ。こういうワンクッション……これが大事なのよ」


 カダベルがそう言うと、聖騎士たちは「なるほど」と頷く。


「彼女は手紙を受け取りたいんだ。リブくんの気持ちは知りたい。けど、急な話を聞いて動揺し、つい怒鳴ってしまった。心配のあまり怒りが先立ってしまったんだね」


 カダベルは「うんうん」とひとり頷く。


「ここでしばらく冷却期間を置いて、ドネツクくんから渡される手紙。それを震える手で受け取る彼女」


 カダベルは、恐る恐ると手紙を受け取るジェスチャーを行う。


「手紙を持って小走りで帰り、暗い小部屋でそっと開き、小さなロウソクに照らして読む」


 わざわざ【照光】で仄かな光まで作って見せる。


「そして、知る。リブくんの本心を! 後悔に塞ぐ彼女! しかし、リブくんはもう旅立ってしまった後……」


 胸に手を当て、カダベルは「嗚呼!」と感嘆の声を漏らす。

 その演技に魅入られ、リブはグスッと涙ぐむ。


「ま、まだ大丈夫でしょうか? シェペリとやり直せるでしょうか!?」


 リブは縋るように、カダベルの足元へと跪く。


「無論だとも! 君の信頼は取り戻せる。大丈夫。この“恋愛の魔法士”と呼ばれた俺のウルテクを使えば、仲直りどころかワン・ツー・スリーで次の段階にだって進めるさ!」


 カダベルが自信満々に言うのに、「おおっ!」と感嘆の声が上がる。


「お、俺も相談に乗って欲しいです!」


「私もです!」


 次から次へと手が上がるのに、カダベルは「まあまあ、順番に」と宥めた。


 そんな中、不審な影がフラリと近づく…


「カダベル様…」


「ん? あ、ナッシュ…」


 それはゲッソリとやつれ、今にも倒れそうなナッシュだった。


「カダベル様に教わった方法…ぜんぜん…ダメでした…」


「え?」


「ろ、ロリーシェ。ぜんぜん、興味ないって感じで……」


「う、うそ…」


 動揺するカダベルに、聖騎士たちは胡散臭気な眼を向ける。


「……行こうぜ」


「……ああ」


「ま、待って。これには…」


 立ち上がって解散する聖騎士たちに、カダベルがオロオロとする。


 リブもキョロキョロと当たりを見回すと、残念そうな顔を浮かべ、肩を落としたまま行ってしまう。


「ナッシュ! お前は俺の立場というものを少しは考えてだなぁ…」


「だって、まったく効果なかったんですもん…」


「おかしいなぁ。うーん」


「……ちなみにカダベル様はそのテクニックを使って成功したことあるんですか?」


「え? あー、ないよ」


「は? ないって…それは…」


「大丈夫。恋愛マニュアル本は何冊も読破してるから問題ないよ」


「も、問題おおありですよ!」


「まあ、いつかそれが報われることもあるから」


「なんて無責任な!」


 ナッシュが叫ぶのに、カダベルは腰に手を当て、誤魔化すように笑ったのだった──。

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