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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
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084 さようなら、サーフィン村

 一番車の方に向かうと、ライゲイスとふたりの聖騎士が待っていた。


「デパタとリブだ」


 耳にピアス、癖毛の短髪黒髪、切れ目が特徴的なデパタ。


 ぽっちゃりとした小柄の茶髪の坊ちゃん刈り、まだあどけなさの残るリブ。


 ふたりともジョシュアと変わらないか、少し上ぐらいだろう。


 この少数精鋭の中に選ばれたんなら、かなり優秀なんだろうと思っていると…


「聖騎士団も人材不足でな。雑用は任せられるが、戦闘じゃ期待すンな」


 ライゲイスにそう言われ、デパタは口をへの字にし、リブは頭をかく。


「他の馬車の奴らも同じだ。ジョシュアよりは劣る。聖撃も使えねぇ」


「巫女の護衛なのに?」


「だから、団長が出張ってンだろ」


「なるほど」


 俺と戦闘するつもりはなかったとしてもどうなんだろうかと思うが。そんなもんなのかね。


「出発しないのかい?」


 いつまで経っても動き出さないことに、「お前が急かして呼んだんだろ」と言いたくなるのを堪えて尋ねると、ライゲイスは顎をしゃくって示す。


「後ろだ」


「後ろ?」


 振り返ると、サーフィン村の皆が花畑に集まっていた。


 二番車からロリー、三番車からはゴライ。それぞれ顔を出している。


 村人たちは馬車の方には近付いて来ない。


 別れはさっきすませた。顔を間近で見れば、余計に名残惜しくなるからだろう。


 モルトやキララが目一杯に手を振っている。顔を涙や鼻水でグシャグシャにしながら、大声でなにかを言っているがここまでは聞き取れない。


「いい村だな」


「ああ、自慢の村だよ」


 いいや、やはり訂正しよう。なにを言ってるかは“聞き取れた”。


 けど、俺はそれに“応えない”。


「…オイ。同じように手ぐらい振ってやったらどうだ?」


 俺がそのまま背を向けて馬車へ乗ろうとすると、ライゲイスが手が千切れんばかりに振っているロリーとゴライを指差す。


「いらんよ」


「そうなのか?」


「死者は、死者に葬らせよ…さ」


「ン? どういう意味だ?」


「俺も知らん。けど、最も今使うのに相応しい言葉だと思う」


「アァン?」


 俺は肩を竦めると、そのまま馬車に乗り込む。


 【反射】を使い、こっそりと村を見やる。


 本当に良い天気だ。澄んだ青い空。


 俺は源核に刻み込むぐらいつもりで、村を隅々まで真剣に眺めた。


 そして、心の中で呟く。



 ──さようなら、今までありがとう。サーフィン村。




──




 聖騎士たちと馬車が進み出す。そして、花畑の向こうの林の中に彼らの姿が消えるまで皆が手を振った。


「行っちゃった…」


 モルトは鼻水をズッとすすり、涙をシャツの端で擦る。


「なぁに、すぐに戻って来られるさ。前もそうだったろう」


 ゾドルがモルトの頭を撫でながら言うと、モルトは大きく頷く。


「ほら、キララ。いつまでも泣いてないで…」


 サーナがいつまでもグズグズと泣いているキララの手を握る。


 それでも、キララは泣き止まず、ずっとしゃくりを上げて、まるでこの世が終わってしまったかのように泣き続けていた。


「どうしたんだい? いくら別れが悲しいからって…」


 その普通じゃない様子に、ミライは眉を寄せる。


「だって、カダベルさま、もうもどってこないもん!」


 キララが叫ぶように言うと、皆がギョッとした顔をする。


「キララ。なに言って…」


「カダベルさま! 前にお兄ちゃんが早く帰って来てって言ったら、『もちろんだとも』って言ったもん! それなのに今日はなにも言わなかったもん!」


 モルトは「あ…」と呟いて青ざめる。


「そ、そんなのたまたまじゃ…」


 ゾドルは笑い飛ばそうとして、子供たちの真剣な顔に息を呑む。


「そんなまさか…」


「あんた…」


 ゾドルもミライも信じられないといった面持ちでうなだれる。


「……ああ、信仰心なんて持ち合わせちゃいなかったが、今なら祈るって気持ちが少しはわかるかね」


 ミライは、セイラーを邪険にしたことを後悔しつつそう呟く。


 村人たちは誰からというわけでもなく、両手を組んで合わせる。


「どうか、カダベル様たちが無事でこの村に戻って来ますように…」



 村人たちから少し離れたところで、ルフェルニとミューンも彼らの旅立ちを見守っていた。


「……儂は魔法談義でカダベルをまだ論破しとらん」


「ミューン?」


「あやつには“生きて”戻って貰わねば困るという意味じゃ」


 赤く眼を腫らしたルフェルニが眼を大きく開く。


「…私もカダベル殿に想いを…伝えられてません」


 以前よりも膨らみを増したルフェルニの胸を見やり、ミューンはツルリとした顔を撫でる。

 

「儂らは儂らにやれることをやるぞ」


「はい!」


 ルフェルニは自分の頬をピシャリと叩いて頷く。


「うん? なんじゃ?」


 村の方から、誰かが血相を変えて走ってくるのが見えた。



「村長!! 大変です!!」


「なんだ!? ビギッタ! こんな大事な日にお前というヤツは!」


 駆けて来たのがビギッタとわかるやいなや、ゾドルは顔を真っ赤にして怒る。


「ち、違うんだって!」


「なにが違うと言うんだ!?」


「ナッシュ!! ナッシュの野郎が大変なことをしでかしやがった!!」


 ビギッタは手にクシャクシャになった書面を握りしめ、馬車が消えた方向を指差したのだった──。

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