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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
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084 馬車の人員配置

 村人たちの見送りを受けながら、久しぶりに村の外へと出る。花畑の方に馬車が3台停まっていた。


 輓馬は…もちろん、この世界ではケンタウロスのようなサラブレッドじゃない。むしろヤギやシカの方に似ていてスリムで、その上に力強い。起伏の激しい山道を難なく踏破できるのは、この身軽さと力強さのおかげだ。


 馬車の前に聖騎士たち。その側にセイラーにサトゥーザ、フェルトマン。


 あの猫娘のジャシィーもいるが、俺の姿を見るなりそっぽを向いちゃった。


 ロリーとジョシュアの姿はないな。村人たちとまだ話をしているんだろうか。


 そして、一番先頭にシベリアンハスキー…もとい、団長ライゲイスが腕を組んで仁王立ちになっていた。

 感電のダメージは残ってはないだろう。あれはヒューマン向けに作った装置なんで、リュカオンみたいな筋肉質な巨躯にはなおさら効果が薄いと思う。


 まあ、たぶん大丈夫だろうが、少々気まずいな。あんな戦いは無効だとか言ってきたら面倒くさいしなぁ〜。


「オイ」


「……」


「そのデカいのの後ろに隠れてンじゃねぇーよ」


 ゴライの影に身を隠していると、ライゲイスが一声吠える。


「……怒ってない?」


 俺が指を突き合わせながら上目遣いに尋ねる。


「アァン? 怒る…だと?」


 ライゲイスは無表情で腕を組んでる(元から表情があるのかも知らん。怒ってる時くらいしかわからん)。


「……ッハハハ!!!」


 ライゲイスはいきなり大口を開けて笑い出す。周りの聖騎士たちもギョッとした顔を浮かべた。


「手前は強いな!!!」


 ライゲイスは両手を開いて近づいて来たかと思いきや、その太い腕を俺の首に絡めてくる。

 ゴライは反応しない。これが攻撃じゃないと察したからだ。


「己様は強い奴が好きだ!!」


 なんか急に友好的なんですけど。拳を交わしたら友達ってやつか?


 あー、モフモフしてない。コイツの毛、ゴワゴワしてて不快だわ。感覚鈍いけど、ミイラの皮とリュカオンの毛の相性は最悪だ。ギュッギュッって、ガラス繊維でも擦るような変な音してるし。


「小賢しい手を使って、俺は勝ったんだけどぉ?」


「アァン? 関係あるか? なんでもありの勝負で、己様は真っ向から手前を叩き潰そうとした! だが、結果は見た通り! 倒れたのは己様だ! これは手前の“小賢しさ”が己様よりも強かったからに他ならねぇ!!」


「思ってた以上に、ずいぶんと割り切りがいいなぁー。こっちは助かるけどさ」


「己様は手前を認める。カダベル・ソリテール公爵。今までの非礼、心から詫びるぜ」


 ライゲイスは自身の胸をドンと叩いてそう言う。どう見ても詫びてるには見えないが、コイツなりの謝罪方法なんだろう。


「詫びたらもう仲間だ!」


 ライゲイスは俺の手を取ってブンブン上下に振るう。

 

 ウゼー。今が夕方だったら、夕日に向かって共に駆け出して行きそうな雰囲気だわ。


 ウゼーけど、ジョシュアやサトゥーザみたいにしつこく敵意を向けられるよりはマシか。


「しばらく厄介になるよ。よろしく」


 俺は聖騎士たちに向かって言う。


 まさか敵対し合ってたヤツらと同じ馬車で、元カダベルが大嫌いだったクルシァンへと戻るハメになるとはな。まったく因果なものだ。


「オウ! カダベルになンか文句ある奴は己様に言え!! 此奴への苦情は、己様がうけてやる!!」


 ライゲイスが捲し立てるが、団長に面と向かって文句を言えるのなんて、同じ立場のサトゥーザくらいだろう。セイラーやフェルトマンの苦言は無視しそうだし。


「あー。で、俺とゴライはどの馬車に乗ればいいかね? まさか歩けとか言わんよね?」


 ミイラとゾンビに疲労ってもんはないが、それでもずっと歩かせられたら心は疲弊する。荷台でも構わんから載せて欲しいもんだな。


「それはもう貴賓なのですから、当方やセイラー様と同じく中央に…」


「フェルトマンッ!!」


 揉み手をして言うフェルトマンを、ライゲイスが一喝する。


「人員配置は己様に一任されているぜ! カダベルの乗るところも己様が決める!!」


「そ、そんな横暴な…」


 なんか凄い立場のはずなのに、フェルトマンの株が俺の中でどんどん下がっていくなぁー。


「カダベルは己様と同じ先頭の一番車だ! こっちから全体指揮を己様が執る!」


 え? コイツと一緒? イヤだぁ〜ん。


「二番車は来た時と同じだ! セイラー様、フェルトマンが乗る! ネイソン! ギャロン! 勝手はわかってンな!? なにかあったら手前らが盾になって時間を稼げ!」


 ネイソンとギャロンというらしい若い騎士が頷く。見た感じ、ジョシュアよりも少し強いだろう。本当に精鋭で固めてるんだな。


「三番車はケモドルス、ルビオラ! そして、ジャシィー、手前が殿(しんがり)の指揮を執れ!」


 ジャシィーはなぜか不可解そうな顔を浮かべたが、ケモドルスとルビオラとかいう聖騎士たちと同じ様に頷く。


「ご、ゴライは…」


 名前を呼ばれなかったゴライが眼をパチパチとさせる。


「アァン? そんな顔すンなよ。忘れてなンていねぇさ」


「ゴライは俺と一緒に…」


「強いンだろ?」


 ライゲイスの問いに、俺とゴライは顔を見合わせる。


「先頭側に強い奴を配置するのは当然だが、帰り際は“ケツモチ”こそが一番大事だ。ちょうど“人員も欠ける”かンな。手前が一番適してると思うぜ」


 ? 人員が欠ける? 何の話だ?


「で、デッセ?」


 ゴライは戸惑っている様だが、ジャシィーの顔色がみるみるうちに赤くなっていく。


「は? 団長ッ! オレはイヤだぞォ! こんな得体の知れねぇデカブツ野郎と一緒だなんて!」


「文句言うンじゃねぇ! 見たところ戦術的なタイプじゃねぇが、得手不得手がねぇ、器用な立ち回りができる戦士なンだろ?」


 ライゲイスが俺を見て言う。


「そうね。器用なのは他にいるんだが、ゴライはどんな戦闘でもそれなりの立ち振舞いができると思うよ。得手不得手がないのは合ってるかな」


 ゴライが困った顔をしている。


 でも、ゴライがもし“本気”になったら、俺でもメガボンでも勝てはしないだろう。それだけゴライの潜在能力は高いと俺は見ていた。


「な、ジェシィー。前方は己様とカダベルがいる。後方はこのゴライと手前が守る。今のところ考えられる最強の布陣だ」


 ジェシィーは不満げな顔をしていたが、それでもそれ以上のことは言わなかった。聖騎士として上からの命令は絶対だとかあるんだろう。


「ご主人サマ…」


「移動の間だけだろう。ゴライも見知らない人と話すべきだよ。練習だと思ってさ」


「……オレは会話教師じゃねぇぞ」


 ジェシィーが睨んでくるが、聞こえなかったフリをする。


「…ん? そういや、サトゥーザはどこに配置されるんだ?」


 ライゲイスの話の中にサトゥーザは出てこなかった。正直、安定して戦えるって意味じゃ、俺やゴライより上のはずだ。


「アァン? 彼奴がその欠員さ」


「ん? どういうこと?」


「私が説明を致しましょう」


 セイラーが進み出て来ると、さすがのライゲイスも鼻をひくつかせて黙る。


「サトゥーザ団長は途中まで同行しますが、ある地点で我々とは別行動となり、インペリアーへと向かってもらいます」


「王都に?」


「此度の件、私の訪問にあたっては、ゼロサム王にご協力をしていただきました」


 公式訪問か。てっきり偽装かと思ってたけど、まさか本当なものだったのか。確かに巫女が展墓するって名目じゃ、不審には思われんだろうしな。


「本来であれは私が直接、御礼を申し上げるべきなのですが…」


「当方たちは少し急がねばならぬ身ですのでね」


 でしゃばりが言葉尻を取って得意そうに言う。


「今後の関係性を深めるためにも、以前に拝謁賜ったサトゥーザ団長であれば、充分な働きをなされることかと!」


 意気揚々と語っていたフェルトマンだったが、セイラーが無表情に見やり、ライゲイスとサトゥーザが鬼の形相で睨むと、口をすぼめモノクルを拭き始める。…本当にコイツはなんなんだろうな。


「……というわけだ。サトゥーザは欠けるが、手前とゴライがいりゃ同等以上だと期待しているぜ」


 背中をボンと叩かれ、俺は蹌踉めく。ライゲイスは「オイ! こんなんでふらつくな!」と言うが、手加減しろってんだ。年寄りは労れよ。


 サトゥーザはなんだか難しい顔をしていたが、戦力としてはライゲイスを頼りにしているであろう雰囲気を感じる。だからか、特に異論は挟まなかった。


 ふーん。サトゥーザがゼロサム王に会いに…ね。


「ん!」


「? どうした?」


「…あ、いやなんでもない」


 サトゥーザを見ていてなんか天啓のようなものが降ってきたぞ。うーむ。


「あー、あとはロリーとジョシュアを待って…って、彼らはどこなんだ?」


 ふたりの名前も上がってなかった。


「アァン? …あ、そういや忘れてたな」


 ライゲイスは頭をポリポリかいてるけど、忘れてたってひどくね?


「ふたりはすでに乗り込んでンよ」


「は?」


「二番車だ。ジョシュアはセイラー様お付きの聖騎士だかンな。最後の防衛ラインってやつだ。ジョシュアの姉だか、妹だかいうロリーシェ…って修道士も護衛対象だろ。ついでだからいいと思ってな。…アァン? なンか問題あったか?」


「あ、いや…」


 変だな。いつもの彼女だと、こういう時は『カダベル様と同じ車両じゃないとダメです!』って大騒ぎするもんだが……


「特にふたりとも意見はねぇようだったし、姉…妹? まあどっちでもいいが、女が顔色が悪いようだったみてぇだからな。己様にゃ、ヒューマンの顔色なんて見分けつかんが、出る前に倒れてもらっても困るんで先に馬車に行かせたンだ」


「そうか…」

 

 んー。いや、別にいいんだが。


 なんだろうな。俺を置いて、ロリーが先に馬車に…


 もちろん、具合が悪いなら、そりゃ仕方ないんだし。むしろ、体調が悪いって方が心配も……


「……俺もロリーと同じ馬車に…」


「アァン? なんだって?」


「あ、いや…」


 んん? 俺はなにを言ってるんだ。


「あ! 病気…! そうだ! ロリーは病気かも知れんし、今は俺しか回復魔法が使えんだろ?」


「いや、ご安心下さい! カダベル公爵! 当方は魔法を伴わぬ救急医療の技をも修めておりましてな! 診たところ、あれは精神的疲労が主な原因かと! なぁに、当方とも同じ馬車なわけですからね! この自慢の話術を駆使した面白爆笑トークを数日聞けばすぐに元気に…」


 チッ。でしゃばり野郎が。


 俺だけじゃなく、この場にいる全員から白い眼で見られ、フェルトマンはゴホンと咳払いして自分の髪を整え始める。…本当になんなんだコイツ。


「…カダベル公。フェルトマン卿だけでなく、私も医療の心得があります。ロリーシェ修道士のことはお任せ下さいませ」


 セイラーがそう言う。巫女にそう言われちゃ、治療はランク1の魔法頼りの俺にはなんも言えない。


「じゃ、決まりだな。全員、速やかに動け。すぐに出発すんぞ!!」


「あー。その前にちょっと…」

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