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19.雨と広場と原因現場

更新少し遅くなりました。

「んー、なんだこりゃあ?」

 

 雨の中、歩くこと数刻。不思議な現場に到着した。

 

 山の中は鬱蒼としていた。鬱蒼としていたがどこか神秘的な山だと感じる。その神秘的な感じは入ってみるまでは微塵も感じなかった。不思議だ。

 

 茂みの中の獣道を抜けるとそこはあった。薄灯のようなものが木漏れ日から漏れ入っていた。開けている場所は岩と苔が覆い茂っていて、そこに降る雨が光ってキラキラとしているように見えた。雨で苔が濡れそぼって歩くたびに水がじんわりと湧き出る。不思議なのはその中心部だけ地肌が出ていた。

 

 というか抉れていた。

 

 抉れていたのは小さな一軒家ぐらいの広さだろうか。地肌には雨で泥が溜まり、不自然に凸凹としている。さらに中心に向かうにつれ、荒々しく隆起している。

 

「フーリアさん、ここですか?」

 

 中心部を指差しながらそういうと、後ろからンフンフとご機嫌に笑いながら踊るように暗い青色をしている髪をゆった青白い男が現れる。

 

「そうなのです、ランド君。」

 

 指をさしてずっと笑ってる。昨日からこの調子だ。


「あ、でもランド君、そこから先寄っていってはダメですよ?」 

 

 だけどそこには近づこうとはしていない。自分にも渦巻いている黒いモヤが見えるが、彼には何が見えるのだろう?隆起した岩を見ながら明るい黄色をした瞳が不自然に爛々と輝いている。

 

「近づけないのならどうやって調べましょう?今回の件と関係ありそうですね。」

「十中八九関連してるとは思いますねぇ。」

 

 顎に手を当てると、人差し指で頬をトントンと叩いた。軟弱そうに見えるが、きっと頭の中は常識では考えられないぐらいの速度で演算処理を行なっているのだろう。

 

 彼は騎士団の中でも異質だった。

 

 どうしても魔導と魔法のことを調べたい、携わりたいという気持ちだけで騎士団の門を叩いた。体つきのいい男たちが多い中、先頭においてはどうしてもハンデを負う中、第二騎士団入りができたのは、生まれの所以があるからだろう。

 

 智略に優れた、名門コーネル伯爵家 三男 フーリア・コーネル。

 

 歴代の宰相、文官などに多く見られる名家の息子だと聞いている。その中でも間違いなくトップクラスの秀才だという噂だ。だというのに騎士団入門まであまり人と関わることしていなかったため、社交場にすら出てくるのはレアケース、出てくればそれだけで噂になるという御仁だった。

 あまり見たことはないが、妖精も多く使役していると聞く。自分が見たのは炎の妖精だけだ。自分の使役しているものとは格の違いを感じずにはいられなかった。形は小さくても、覆っている魔素が違った。

 それを何匹も。

 秀才というのも間違いないのだろうが、そのうちに秘めるフーリアの魔素量も大きいのだろう。

 

「この力を抑えながら近づくしかないでしょうね。私の友人たちに“目”になってもらってもいいのですが、それだと触ったり徴収することは難しそうですからね。少しずつでもこれらを無効化していくしかないでしょうが…だとすると王都に連絡して魔素を吸収する道具を取り寄せないといけませんね。それまでは一応目視で確認、ということになるでしょう。これも、どこまで近づけるか判断しながらしなければいけません。」

 

 ぶつぶつと喋っているが、多分これは自分に対して喋りかけているのだろう。

 

「ああ〜!でももう私は触りたくてたまりません!鑑定したいのにこの距離とは!きっといろんなことがわかるでしょうに!この世の摂理とか!?言い過ぎですかね!?でもそれに迫るところはあると思うんですよね!私たち非力な人間が真髄を知るなんて烏滸がましいことかもしれませんけど、その一端でも知ることができたらなんと素晴らしいことでしょう!」

 

 あ、こっちは独り言の方かな。独り言の方が声がでかいなんておかしい話だけど。

 

 魔素は自分の許容量を超えたものを使おうとすると影響が大きい。自分のできうる範囲で使用しなければいけない。下手に手を出すと死に至ることもある。第二騎士団員は国の中でも比較的個人の魔素量の多い人間が多いが、それでも扱いには注意している。そして、自分の魔素を使用して妖精を使役することもできるが、魔素を放出する術はあっても吸収する術は人間にはない。

 

 それを吸収するとなると王家の方に打診しなければならないかもしれない。王族の保有する古代の遺産の中に、それらができる法具があったはずだ。

 

「あー!!僕らがそういうものを作れればすぐにでも作業を進めることができるというのに!」

 

 フーリア殿は心底残念そうな顔をして、頭を振っていた。こればかりはどうしよもないのだ。

 

「ランド君!最短で宝具をお借りするにはどれぐらいかかると思います!?」

「まずは騎士団からその旨の陳情を陛下に行わなければならないので──」

「その!やりとりが!ほんと!邪魔だよね!!!」

 

 今度は頭を抱え出した。ちょっと引く。

 

「ランド君も興味あるでしょう?!」

「ありますけど…」

「だよね!即座に送ってもらわないと困るよね!!!」

「いや、ルールがありますから。」

「そんなルールいらない!!」

 

 …食い気味にしゃべっているフーリア殿を見るのも珍しいが、こんなに鬼気迫るフーリア殿に至ってはもうなんというか、外に出してはいけない気すらする。

 

「落ち着いてください!まだ借りれるかもわからないんですよ。研究熱心なのは素晴らしいことですが、まだ先の話です。」

 

 そう声をかけるが、聞いているのかいないのか爪を噛みながらぶつぶつ言ってる。ぶっちゃけ怖い。

 

「それは問題ありません。ダメと言われた場合はうちの伯爵名で陳情を出しますので。しかもこれを調べることによって問題の回避と、うまくいけば魔獣対応にかかる戦闘力をコストダウンすることができます。ええ、できますとも。なので早急に王都へ使者を出しましょう、そうしましょう。レクター、早速山を降りてベースキャンプで報告。使者派遣のために人を王都に一人戻らせるようにしましょう!もちろん早馬で!

「え、は、はい。」

 

 レクターは魔導部隊の有望な新人君だ。まだ入りたてだし荒削りだが、いい魔法を使う。だが、上司のこんな状態の対応はもちろん初めてなので挙動不審になっている。

 

「早く戻りなさい!」

「は、はい。」

「いや、ちょっと待ちなさい。だからフーリア殿、落ち着いて。」

 

 ため息を一つつくと、しょうがないので手帳に走り書きをする。それを雑にちぎると、雨に濡れないようにレクターに渡した。

 

「フーリア殿のこんな状態は私も初めてなんだ。面食らうよな。ここに要件は簡単に書いているので、そのまま黒騎士団団長のロルフ殿に渡して判断を仰いでくれ。我々はこのままもう少し調査を行ってから下山する。よろしく頼んだぞ。」

「はい!」

 

 少し我に帰ったレクターは返事をして敬礼を行うとそのまま下がっていった。やれやれだ。

 

「もう少しあなたは部下の扱いを覚えた方がいい。」

「それはランド君に任せられるじゃないですか!私よりも適任だ。」

「いや、そういうわけじゃなくてですね。」

「適材適所ですよ。というわけで私は仕事をしますよ。コリガン。」

 

 フーリアが手をかざすと、光る円形の魔法陣が浮かぶ。そこから水がうねるようにして、人の形を形成していった。

 

 《来たわよ。》

 

 コリガンとは水の妖精だったはずだ。水面のように表面がゆらゆらしている。女性のような長い髪も、マーメイドラインのドレスも、境界線が曖昧だ。


「おや、なんかうまく具現化できないね。」

 《あれが原因かしら。干渉されてる。》

「あれは干渉もしてくるのか!!」

 《…なんで喜んでるの。》

 

 どうやらコリガンも若干引いているようだが、この状態を知らないわけではないらしい。ため息一つで普段通りに戻っている。

 

「ふふ…楽しいに決まってるじゃないか。あの近くまで行ける?触れる?」

 《触るのは無理ね。近づいたら取り込まれちゃいそう。なるべくギリギリまで近づいてみるわ。》

「よろしく。」 

 《視覚は?》

「もちろん共有だよ。」

 

 当たり前のように言葉を交わして、視覚すら共有している。普通だったら魔法陣をさらに形成したり、魔素を大量に使用したりするのだがどうなっているのだろう。コリガンも当たり前のように提案している。

 この国にそんなことができる人間がどれほどいるのだろうか?

 

 そういうとフーリアはそっと目をとじ、コリガンはすうっと上へ登っていった。

 雨に紛れてしまったのか、姿は確認できなくなった。

 

 


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