64.幼王子
ラウフ君にきちんとお別れを言うことができないまま別れたあと、しばらくぼーっとしていたのでどれくらい経ったのかは分からないけれど、お父様が迎えに来てアルベルト王子との顔合わせの場所に向かうことになった。
いつもまっすぐ図書館に来ていたため、お城の中をきちんと見たことがなかったのだけれど、今回もまた道が違うだけでゆっくりと見物している余裕はないらしい。図書館にいた時間で見て回ると言う選択をとることはできたのだろうけれど、見て回っている間にお父様とすれ違いになるのが怖かったし、個人的にあまりお城の中をうろつきたくなかった。
王族を避けていたときの癖だ。いまさら避けたところで意味はないのだけれど、顔合わせ前にアルベルト王子とばったり出くわして――なんてこともあるかもしれない。そしたら顔合わせの時に気まずいことになりかねない。
「お前さっきの! 何でこんなところにいるんだ!」
「それはこちらの台詞です。どうして貴方が――」
なんてラブコメチックなやりとりを今の私ができるとは思えないし、こんなやりとりになるかもわからない。
単純にラウフ君に会いたかっただけと言われると、否定は難しいけれど。
そんなことを考えながらお父様の後をついて行くと、とある部屋に連れて行かれた。お城にある何の変哲もない部屋。端には棚があって、長机と椅子がおいてある。高いものには違いないけれど、大人サイズなので私が使うのは使い辛い。そもそも部屋には入ったけれど、椅子には座っていない。座るときにはお父様の手を借りなければきれいに座るのは難しそうだ。
立っているのは、王子――とおそらく陛下も――が来たらどのみち立つ必要があるから。座りにくいもの、降りるのも一苦労だと思うし、立ちっぱなしで構わない。その理屈からいくと、お父様は座っていてもいいと思うのだけれど。
「お父様はお座りにならないのですか?」
「まもなく来るとのことだからな。それにリディが立っているのに、私が座っているところを万が一にも陛下に見られるわけにも行くまい」
「ご不便おかけします」
「仕方がないことだ。椅子が高いのはお前のせいではないからな」
こんなことで「さすが」なんて言っていいのかわからないけれど、お父様はよく気がつく。私が座っていないのも、そもそもお父様が座らなかったからだし。でも椅子に座るかどうか以前に、気になっていることが一つある。
「ところでこちらが待つ形で構わないのですか?」
「そのあたりは陛下にご理解いただいている。そもそも陛下はお忙しいからな、こう言った面会の方法が無いわけではないし、そもそもこの城が陛下の領域だからな」
「一国の王でいらっしゃいますものね」
本来目上の人に会うときには、目下の人が相手の都合がいい時間に会いに行くというのが基本になっている。目上の人に対して会いに来いと言うのは無茶な話だし、それをしてしまえば後ろ指を指されても仕方がないだろう。
だから気になっていたのだけれど、王城にきた段階で国王の元まで来たと言う認識になるらしい。忙しいからこそ、わずかにあいた時間でも面会できるようにするにはこの方法が良かったのかもしれない。
わざわざ陛下自身が歩かないといけないものの、そうでなければ時間ができたときに使いを出してそこから相手がやってくることになる。それよりもさっさと自分で行った方が時間の無駄にならないのかもしれない。もちろんそのあたり使い分けているのだろう。
お父様と話をしているとすぐにドアがノックされて、一組の親子が姿を見せた。その瞬間お父様が臣下の礼をするので、私も倣って頭を下げる。
「この場ではそんな堅苦しさはいらん。待たせたなアードルフ」
「いえ、我々も今来たところです。陛下」
暗に頭を上げよと言われたところで、お父様が礼を止め待っていない旨を伝える。
そういえば陛下は初めてみるけれど、年齢的にはお父様とそんなに変わらないように見える。お父様もそうだけれど、陛下も見目麗しく、堅苦しさはないもののその立ち居振る舞いだけでただ者ではないことがわかってしまう。
それから陛下と一緒にやってきた男の子。陛下と同じ金髪で瞳の色は陛下よりも少し薄い茶色。そっくりとは言わないけれど、所々似ていてやっぱり親子なんだなと思う。
ゲームだと兄に及ばない事をコンプレックスにしている上に、望まない婚約までしていてその鬱屈した感情を知られたくないために、強気なキャラというか俺様っぽいキャラ付けをされていた。
その強気の裏に隠した本当の気持ちを聞き出して、本来の彼自身を受け入れることで――という、王道展開のストーリーになっている。それゆえに結構人気のあるキャラクターでもある。
ゲームの王子はこれくらいにしておいて、今は目の前に現実にいる王子を見る。
ゲームの成長した王子の面影はあるものの、まだまだ幼く、身長は私と同じか少し小さいくらい。今くらいの年齢だと女子の方が平均身長は高いし、今後身長は簡単に抜かされていくことだろう。
それにまだ幼いからこそ純粋で可愛い――と言いたかったのだけれど、この部屋に入ってきてからと言うものの、王子は嫌そうな顔で私のことをにらみ続けていた。





