54.経過
今日はソラマーノを連れて5年前にも見た植林場までやってきた。当時は植林場ではなくてただ伐採されていた場所だし、5年前から何度か訪れている場所ではあるけれど。5年前は寂しさすら感じられた伐採地は今では立派な林になったと言ってもいいのではないだろうか? これでもまだ細いらしくてあと3年から5年は様子を見たほうが良いというけれど、紙を作るのであれば十分使えるのではないかなと思う。
それに仮に植林を始めてから、売れるようになるまでに10年かかるとしても、前世に比べればとても早い。精霊様様という感じ。はっきりと覚えているわけではないけれど、40~50年はかかったように思うから数倍の速度で育っているのだと思う。
通常の伐採もしつつ、植林もしつつで、現状では植林の速度のほうが上なので、このままいけば需要が増えたとしても大丈夫だろう。手間が増えるので文句を言っている人もいたらしいけれど、高級品を植えてそれを売れば今よりもっと収入が良くなること、最初の数年はリンドロースが支援をすることを伝えると引き下がった。最初の数年だけなのは、結局のところ自分たちのためになることだから。
そしてこの5年で変わったのはこの場所だけではない。私は身長が足りないのもあって相変わらず一人では馬に乗れないのだけれど、以前はソラマーノと一緒に乗っていた馬がいつの間にかロニカと一緒に乗ることになっていた。
練習していたのは知っていたので、初めて一緒に乗ったときには精いっぱい褒めておいた。普段はあまり感情を表に出さないロニカがその時にはちょっと恥ずかしそうにしていたのがとても印象的だった。
言うまでもないかもしれないけれど、リーリスは馬に乗れない。なぜなら乗る必要がないから。ロニカがやっているからと言ってリーリスに強制する気はないし、ロニカにもそうしないようにとそれとなく言っておいたのだけれど、案外ロニカとリーリスは仲良くやっているらしくて、心配した事態にはならなかった。
「ここもだいぶ変わりましたね」
ソラマーノがしみじみというので「もう5年になるのね」と返すとなぜか笑われた。10歳の小娘が5年にもなると言ったとしても笑わなくていいと思う。そりゃあ人生の半分が短かったと言っているようなものだけれど。
小学生のときなんか夏休みの1か月ちょっとが永遠にあるように感じられたのに、大人になってというもの1か月なんて瞬く間に感じられた。
「でも使い物になるまでにはもう何年か必要らしいわ」
「随分と気の長い話ですね」
「兵士を時間をかけて育てるようなものよ。兵士と違うのは既存の兵がいないから、最低限必要な分をリンドロースが補填していることかしら?」
「教える人がいなければ、使い物になるまでに働く人員もいないと」
「そんなところね。一度育ち切ってしまえば、あとは安定するんじゃないかしら? 5年前から始めたと言っても、5年前に植えたっきりではないのだもの」
仮に1年ごとに植林を行えば、最初の1回目のが育ち切るまでの時間を耐え忍んだあと、毎年植林した木を伐採することができる。植林の頻度は今のところは試験段階であまり決めていないけれど、ある程度続けていれば適切な頻度もわかることだろう。それまでは、木を増やしすぎるくらいでちょうどいいと思う。この辺の判断はやっぱりお父様任せになってしまうのだけれど。
「5年前はどのような感じだったのですか?」
「ここで見えている木々全てが、切り株になっていたのよ。少なくとも私はそう感じたわ」
「あまり想像がつきませんが、お嬢様が危惧するほどだったのですね」
「そうね。このままだとリンドロースの木がすべてなくなるのではないかと思ったほどだもの」
資料を見て予想はついていたことだけれど、実際に目にしてみると感じ方というのは大きく変わってくる。言い方を変えるとより深刻に感じられて焦りが出てくる。数字では見えないところが見えてくるわけだけれど、上に立つものとして数字を無視するわけにはいかないから大変なのだ。
「さてここも見ることができて満足したから、戻りましょうか」
「またしばらく王都に行くのでしたね」
「ロニカはお留守番しているかしら?」
「もちろんお嬢様についていきます」
実はちょっと不安に思いながら尋ねたのだけれど、躊躇うことなく頷かれるとそれはそれでくすぐったく感じてしまう。
そう思っていたら、ソラマーノのほうからも「俺もお供しますよ」と言ってくれた。でもソラマーノは騎士団としての立場があるから、勝手に決めることはできないのではないだろうか? それでも気持ちは嬉しいのでお礼を言っておく。
「リーリスは来てくれるかしら?」
「お嬢様が言えば嫌だとは言わないと思いますよ」
「それならいいのだけれど」
ロニカが自信たっぷりに言うので大丈夫だとは思うけれど、実利を考えるならリーリスにはリンドロース領に残っていてもらったほうがいい。私の専属と言えるのは、未だにロニカとリーリスの二人だけで、私がいない間にリンドロース領の情報を集めてくれる人がいたほうがいいから。
でもリーリスと離れるのも不安というか、ロニカにばかり負担がいってしまうのでやっぱりついて来てほしい。私が寂しいというのもあるけれど。
とりあえずそのあたりは帰ってからリーリスと話すことにするとして、5歳でリンドロース領にやってきた私は10歳になってもう一度王都に行くことになった。お父様が言うには少し行って帰ってくるわけではなくて、拠点を王都に移してしまって、たまに領に帰ってくることになるらしかった。





