47.
結局、ロニカは私についてくることになった。曰くお父様が二つ返事で許可してくれたとのこと。本当かと疑いたくなったけれど、そんな嘘を吐いてどうにかなるわけでもない。
いつかのことを思い出しかけたけれど、それは頭の隅に追いやって今は目の前の事に集中することにしよう。
今は例の町に向かうための馬車の中。本当は速度も考えて馬車は使わないつもりだったのだけれど、人数が増えてしまったので持って行くものも増えて馬車で行かざるを得なかった。護衛と調査員を合わせて30人くらいで、全員が馬に乗っていくとそれはそれで目立つという問題もある。
私が乗っている馬車をのぞくと、普通の乗り合い馬車っぽい感じになってしまったので非常に申し訳ないのだけれど、使っている馬車だけは最新鋭のものだから許してほしい。一応最低限の野営の準備もしているらしいけれど、その予定はなくて寝るときにはちゃんと宿も取るので、怒らないと思いたい。
「そんなことで怒るような者はおりませんよ」
私の馬車には3人だけ。私とロニカと後は騎士団長のアダイル。リーリスはお留守番。ロニカが着いてきたのにリーリスまで連れて行くことはしない。危険かもしれない場所に行くと言っているのに付いてくるロニカがおかしいのだ。
と言うことで、今回は護衛に騎士団長がいるのでソラマーノは外で護衛中。アダイルは白髪のダンディなおじさんって感じ。皺が刻まれた顔だけれど、体格はソラマーノにも劣らない。騎士って感じのおじさん。おじいさん……までは行かないと思う。少し話したけれど、性格はガチガチの騎士と言うよりも融通が利くタイプで、何ならロニカの方がイメージする騎士に近いと思う。
「主人の娘とはいえ、一人こうやって特別扱いしている中で、大変な思いをするのは怒っても仕方がないとアダイルは思わないかしら?」
「それなら儂も怒られる側ですな」
「アダイルがここにいるのは仕事だもの。わがままを言った私とは大違いだわ」
「お嬢様がここにいるのも、仕事のようなものでしょうに」
アダイルがわかった風に話すので、私は肩を下げることで答える。護衛と言って連れてきているものの、その真意をわかっているのか不安になってくる。わかっているからこそ、騎士団長なんて役職の存在が私に着いてきているのだとは思うのだけれど。私のわがままで騎士団長まで駆り出されたとなれば、騎士たちの中で私の印象は悪くなるだろうけど、今回は仕方がない。
子供の私ではなくて、大人で信用のあるアダイルからの方が指示が迅速に伝わるはずだから。実はお母様たちが予定よりも早く家を出たらしく、前乗りして調査をしている余裕があるかわからない。お母様たちにまで噂のことが伝わっているのかわからないし、早くお父様に会いたいと言う気持ちも分かるから、仕方がないことだとは思う。
何事もなくお母様たちがこちらに向かってこれられているのであれば、合流して護衛を増やして安全に帰りつつ、調査員たちには調査をしてもらうし、お母様たちよりも早く町につけば私は安全圏に逃げ込んで、町全体を調査してもらう。
どうしても現場での指示が必要になってくるので、最も指示を通しやすい人ということで、アダイルの存在は助かっている。
「アダイル。貴方たちの役目はわかっているのよね?」
「護衛ですな」
「誰の?」
「それを聞きますか」
「確認のためです。私の認識とそちらの指示が違っていたら困るもの」
騎士たちの雇い主はお父様であり、基本的に私の言葉よりもお父様の指示が優先される。だからお父様に私の護衛を言いつけられていたら、何をおいても私を守るだろうし、そうでなかったら私の護衛は二の次になる。
人が相手の話なので、ここまでシステマチックに判断できるかと言われると難しい。それでも私が知りたいのは、もしもの時の判断に関わってくるから。私を守るように言われている人をお母様たちの守りに使うのは難しい。その場合私を守ることが第一になり、例えティアンとお母様が助かっても、私が怪我したらクビを覚悟しないといけなくなる。
「表向きはお嬢様の護衛になっております」
「実際はどうなっているかしら?」
「マルティダ様とティアン様を最優先にするようにと」
「それなら安心ね。その役目を忘れてはいけないわよ?」
「お嬢様はそれでよろしいのでしょうか?」
「私は安全圏で隠れておくもの。少なくとも引っ込んでおくわ」
出しゃばるつもりはない。私がここまでやってきたのは、人員を増やすため。私の仕事はそれだけであり、それ以上出しゃばらない事が大切だ。
「ロニカは……」
「わたしはお嬢様のお世話兼護衛です」
「うん。ロニカならそう言うと思っていたわ」
「それは光栄です」
何が光栄なのだろうか? 栄えあるリンドロース家のご令嬢の護衛ができることだろうか? メイドのロニカが気にする必要はないところだと思うのだけれど。
そんな感じで話をしていたら、何かが見えたとかで馬車が止まった。道の向こうから、ものすごい速さで馬を走らせる騎士の姿が見えた。少し前に伝令兼様子見に行ってくれた騎士で、とても焦ったような様子であることが分かった。
一団の端っこで止められたその騎士は、すぐに何かを話すと、対応した人に手紙を手渡した。それから、その手紙を私たちが乗る馬車に持ってきた。アダイルが受け取って中を見ると、眉をひそめた後で私にもその手紙――報告書を見せてくれた。
簡単に言えば、怪しい一団がいてこの一団がお母様たちとはち合わせた。何ならすでに小競り合い的なのが始まっていそうだけれど。
「如何いたしましょう」
「急いで駆けつけるわ」
こんなところで時間を使っている場合ではない。





