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46.

「単刀直入に言えば、私が調査について行くことで、人員を増やせるからです」

「それはそうだが、リディが出る必要がある事かどうかという話だ」

「ティアンが襲われる可能性があります」

「可能性なんだな?」

「はい。私が知っているのは、ティアンがリンドロース領に来る途中で怪我を負うと言うことだけです」


 私が言えるのはあくまで可能性という事だけ。確実に襲われると言って説得するのも一つの手だけど、違った場合に困ったことになる。早い話が私の言葉が信用されなくなりかねない。それは私の死につながるだろうし、リンドロース家の没落にも影響するおそれがある。

 私自身のためにも、リンドロースのためにも、私はお父様の信用を失ってはいけない。


「噂とティアンの怪我が関係している事の根拠はありませんが、関係があったとき、人が多い方がティアンに危害が加えられる可能性は低くなると思いますから、万が一に備えて私が動いておくのがいいかと」

「ティアンは怪我をすると言ったが、一緒に来るマルティダはどうなる?」

「お母様がどうなるのか、私にはわかりません」


 私の言葉にお父様の表情が凍り付く。お父様にしては珍しく、わかりやすく動揺している。それもそうだ。だってお母様の命に関わる可能性を示唆した言葉だから。私にできるのは可能性を提示することだけ。そして今私にわかるのは、お父様がお母様のことを本当に大切に思っているという事だろうか。

 お父様はそれでもすぐに何か考えるように真剣な表情になった。


「そうか――確かにリディがついていくとなれば、人数が増えても対外的にも角は立たないが……」

「お父様が行くのは以ての外ですからね」

「……わかっている」


 家族を迎えにいく名目でお父様が動けるかもしれないけれど、危険かもしれない場所に領主であるお父様が行くのは私が了承できない。それだったら私が行った方が何倍もマシ。それにお母様もティアンも、何事もなくここにたどり着く可能性だってある。

 領主らしからぬ事を考えていたお父様相手であれば、このまま説得できそうだ。


「だが、理由はどうする?」

「私のわがままでいいのではないですか? 領都以外の町に行きたい私がわがままで調査に同行すると言いだしたと言うことにしたらいいと思います。貴族令嬢がわがままでついて行くことができる程度の調査、と相手がいれば思わせることもできるでしょう」

「娘を溺愛していると言う体を取れば、多少護衛を増やしたとしても問題はないか……」


 どうやら私がついて行く=調査員を増やすという方向で話が固まりそうなので、変に口を出すことはしない。

 なにやら考えているお父様の動きを見守ること、数分。考えがまとまったらしいお父様が、重々しく口を開いた。


「あくまでも名目は調査になる。お前の護衛以外は騎士ほど戦える者は連れていけないがわかっているか?」

「全く戦えないわけではないのですよね?」

「調査内容が、調査内容だからな」

「それならば大丈夫でしょう。こういっては何ですが、杞憂で終わることも考えられますから。もしも杞憂で終わってしまった場合、しばらくは前世を思い出すことに集中しておきます」


 基本的に私発案の事業でもリンドロース家が行っているから、私自身にお金が入ってくることはない。強いて言えば、例の山の代金分は私のお金と言うことになるのかもしれないけれど、それはそれで必要なことだからその分で補填するつもりはない。

 だけれど、事業自体は好調なものが少なくなくて、見込みも含めればかなりの黒字になることは知っている。だから今回の費用は私の知識で相殺できるだろう。そろそろ生かせそうな知識もなくなってきたけれど。

 富裕層向けに娯楽小説とか書いてみようか。富裕層向け――貴族向けと考えると、今まで以上に影響力がありそうで怖いし、何より前世の娯楽小説がこちらでも評価されるかはわからないけれど。


「費用については一旦おいておけ。どのみち調査はするはずだったのだから、気にするほどではない。それよりも危険だと思われるところに飛び込んでいくと、理解しているのか?」

「もちろんです。よほどのことがなければ、私は町の安全なところに隠れています。お父様は私が人一倍死にたくないと思っていることは、ご存じだと思いますので、信じていただけるのではないでしょうか?」

「確かにそうだが――いや、そうだな」


 お父様が何か言いたげだったけれど、私ほど死を恐れている人もいないだろうから、その辺は安心してほしい。私は私が死なないように、いつでも一生懸命考えているから。私が積極的に調査に加わることをする気もないし、お母様たちが襲われていても、私が助けにはいることはない。

 どちらも普通に考えて、私と言う存在が足を引っ張るだけだろうし。自分の命を賭けて他の人の仕事の効率を下げるなんてこと、私がするわけがないのだ。


「出発はどうする?」

「できるだけ早い内にお願いします」

「それならば、明日出発してもらう。護衛等はこちらで決めるから、リディはリディの準備をしておけ」

「かしこまりました。ありがとうございます」


 話がまとまったので、お父様の部屋を出る。お父様と話している間中そこにいたのか、ロニカがすぐに現れて「お疲れさまです」と声をかけてきた。

 私はそれにうなずいて返してから、「数日出かけるから、準備は任せたわ」と命じておく。ロニカは「かしこまりました」と頭を下げた上で、「いくつか伺ってもよろしいでしょうか?」と丁寧に尋ねてくる。ロニカは私が許可を出すのをしっかりと聞いてから、話し始める。


「数日というのは、例の噂の町に行くんですね?」

「ええ、調査について行く形になるわ。護衛も私にはもったいないほどつけてくれそうよ」


 だから危険は殆どないだろうと、私が伝えるより前にロニカが「わたしも連れて行ってくださいますね?」と迫ってきた。今までのロニカでは考えられないほどに圧が強くて、こちらに選択権をゆだねているようでその実、連れて行かなければ許さないと行っているような気もする。立場上許されなかったとしてどうなるわけでもないけれど。


「危険があるかもしれないのよ?」

「だからこそです」

「護衛も十分に連れていけるはずよ?」

「その護衛でお嬢様は誰を守らせるおつもりですか?」


 まっすぐにこちらを見るロニカをごまかすことはできそうになかったので、「お父様に許可をもらってきなさい」と逃げることしかできなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忠犬ロニカさん
[一言] ロニカさんに死亡フラグらしきものが。
[一言] 察しが良いメイドだな まあ優秀なようでなにより
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