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5.

「詳しくお話しします。私が授かった予言は、私が学園の最終学年でのことです。

 その時には私と王子殿下は婚約していました」

「だからアルベルト殿下と婚約の話をしたんだな?」

「はい。ですがどのような形で婚約に至るかは私にはわかっていません。

 そして最終学年になった時に、転入生が来ます。名前は分かりませんが、エルッキラ家の令嬢です」

「エルッキラ伯爵家か、あの家に娘は居なかったはずだが?」


 お父様の瞳に疑いの色が現れる。


「彼女は伯爵と平民との間で生まれた子です。現在は市井の人として暮らしているでしょう。

 その子の親が亡くなり、伯爵家に引き取られたといった話だったと思います。

 予言は基本的に彼女がどう動くかによって、大きく変わりました。リンドロース家が没落するのはその中の2つです」

「行動と言うのは具体的にはどうなっている?」

「彼女が誰と恋をするかです」


 お父様は眉を潜めて、その瞳は私を信じるべきか、信じざるべきがで揺れているように見える。

 お父様は根っからの貴族。1人の恋のせいで没落すると言われても、意味が解らないのだろう。


「リンドロース家に影響するのは、彼女がアルベルト殿下に恋をした場合とティアン様――ティアンに恋をした場合です。

 私は罪を着せられたうえに断罪・処刑されます。

 その時の悪評とリンドロース家が行った不正が表沙汰になったことで、没落していくことになります」


 ほかのルートでもリューディア()がどうこうなることはあったように思うけれど、リンドロース家自体がかかわったという記憶はない。

 

「没落を回避する方法をリディ。お前はどう考える?」

「まずエルッキラ伯爵令嬢が見つからなければ、今言った未来は起こり得ません。

 根本的なところを断ってしまうという意味では、私を殺すのも良いでしょう。ティアンがかかわってくる以上、確実なものとしてはどちらかだと思います」

「それで……か」


 お父様が何かつぶやいたかと思うと、考え出す。

 話を続けていいのかわからないけれど、とりあえず話して、後で聞かれたら答えるようにしよう。


「私にはこの予言の精度がわかりません。どうやっても変えられない未来かもしれませんし、簡単に書き換えられる未来の可能性もあります。

 ですが策を講じても予言の通りになってしまった場合には、出来ることは少なくなります。

 私は罪を犯すつもりはありませんが、犯さずとも私がしたものとして扱われる可能性が大きくなるでしょう」


 いわゆる強制力というものだ。

 悪役令嬢であるリューディアが既にその強制力から抜け出したような状態なので、どんな行動をとっても未来は変えられないということはないはず。

 だけれど、どんな道筋を通っても結末は同じということもある。


 強制力など全くない可能性もある。

 この世界がどれだけゲームに則しているのか、現状では判断はできない。

 だからと言って、知りながら手をこまねいているというわけにもいかない。


「私を殺さないというのであれば、エルッキラ伯爵家の動向には気を配っていてください。そして、エルッキラ伯爵令嬢とアルベルト殿下の噂が流れ始めた段階で、私を切り捨てる準備をお願いします。

 あとはティアンにたくさんの愛情を。リンドロースの崩壊の半分はティアンがリンドロースを恨んでしまったことが原因です」

「ティアンが、か?」


 お父様の目が鋭くこちらを射抜いてくる。部外者に息子を悪く言われているようなものだから仕方がないかもしれないが、これははっきりと言っておかないと、リンドロースの没落につながるかもしれないから、内心ドキドキしながら尋ねる。


「仮にリューディア様がご病気から回復したとして、彼女の我儘をお父様は無視できますか? リューディア様が可哀そうだからと、ティアン様を蔑ろにしない保証がありますか?」

「……予言での私はそうしていたのだな?」

「憶測もありますが、お父様が悪事に手を染めたのは、リューディア様の際限ない我儘を無視できなかったからだと考えています」


 今日までそんなにたくさん話したわけではない。それでもリンドロース侯爵――お父様が簡単に悪事に手を染めるとは思えない。だけれど、リューディアへの愛情を見るに、彼女経由であればやらかしかねないと思う。

 お父様も自覚はあるらしく、苦い顔をしているけれど、反論してくることはない。


「お前の言うことは否定しきれない。だが、だからといってティアンはのちに、リンドロースを背負ってもらうことになる。甘やかすことはできないぞ?」

「では、私がその役目を担います。お父様とお母様の分も私が厳しく接しましょう」


 リンドロース家のことを考えれば、両親とこじれるよりも、私とこじれたほうが丸く収まるはずだ。どうせ私はいずれはこの家を出ていく身。ティアンに嫌われても、そう問題になることはない。

 私は……最悪何かあったらどこかで隠居してしまうのもいい。生きていられさえすれば、それで。だったら、隠居できる場所を早いうちから探しておくのもいいかもしれない。


 森の奥に小屋を建てて人との接触は最低限で……というのもありかもしれない。


 益体もないことを考えていたら、お父様が重々しい声で告げる。


「自分が何を言っているのか理解しているのか?」

「一応は。私はいずれ出ていくことになるでしょうから、私が厳しく接するのがリンドロースにとっては最も安全な道かと思います」

「わかった。今日からリーデア、お前はリンドロースの娘だ。ティアンとも顔を合わせることになる。心づもりはしておくように」

「わかりました。お父様」


 こうしてリンドロース侯爵――お父様との最初の話し合いが終わった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厳しい姉と言うスタンスで接する訳か
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