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39.

 子供たちに連れていかれて始まったのは、無秩序なボール遊びのようなもの。誰かがボールを投げて、それ以外の人が追いかけて取れた人がボールを投げる役になる。ボールは動物の皮を縫い合わせて球状にしたもので、球状というにはいささかいびつな形をしていた。

 大きさは私だと片手で投げるのが難しいくらいで、持ってみると思った以上にずっしりとした重みがある。前世でありふれたボールが意外とすごいものだったのだなと、感心した。

 格好が格好なのでほどほどに付き合うだけだったけれど、それでも子供たちのパワーに押されて疲れてしまった。


 子供があんなに全力で遊べるのは、体力とかそういうことではなくて、子供だからなのだなとよくわかる時間だった。

 そのあと木登りをしようと言い出したので、カティ様と話があるからと言って子供たちと別れることにした。

 ここですんなり帰してもらえたのは、カティ様がくぎを刺していたからだろう。基本的に皆素直な子のようだし。


「お嬢様、お疲れさまでした」


 遊びを終えた私にロニカがそう言って水の入ったコップを渡してくれた。リーリスはどこかに行っているのか、近くには見当たらない。

 運動をしてのどが渇いていたこともあって、ありがたく飲ませてもらう。冷たい水はもしかしたら、井戸から汲んできたばかりの水なのだろうか。

 この世界、お風呂やトイレに使えるような水は整備されているのだけれど、飲み水として使用できるものについては井戸などから汲んでこないといけない。


 だからロニカが汲んできてくれたのだろうかと思うとなんだか嬉しく感じる。


「ありがとう。美味しかったわ」

「いえ。お体は大丈夫ですか?」

「少し疲れただけだから、大丈夫よ」

「それなら良かったです。何と言いますか、お嬢様がこうやって子供のように遊ぶ姿は新鮮ですね」

「そうかもしれないわね。でも私には向いていないわ」


 やっぱり同年代とは思えないので、同じ目線で遊ぶだけでも精神的に疲れるし、彼らは手加減というものを知らない。

 ボールを投げるときに、思いっきり投げるとかそういうことではなくて、遊ぶことに全力を尽くしている。でも私はそこまで割り切れない。ここで疲れ果ててしまうとカティ様とまともに話せなくなるだろうとか、ロニカたちにいらぬ心配をかけるだろうとか、考えることが多すぎて加減をしてしまう。


 だからせめて私が同じ目線に立たなくてもいいくらいの年齢になるまでは、一緒に遊びたいとは思えない。

 きっと私が帰った後でカティ様が子供たちに私がどういう人なのかを伝えてくれるだろうから、次に来た時には遊びに混ざらなくても大丈夫だろう。

 ゆっくり水を飲み、飲み終わったコップをロニカに返す頃、リーリスが孤児院の中から出てきた。


「リューディア様。カティ様が休憩にしないかと言っていますが、どうしますか?」

「丁度良かったわ。ちょうど遊びを終えたところだったのよ」

「なんだか一仕事を終わらせたみたいですね」

「普段こうやって遊ばないから、一仕事した感じよ」

「そうなんですか?」

「お嬢様はいつも働いてばかりですから。休ませるのが大変なんです」


 私が答えるよりも先に、ロニカがリーリスの疑問に答える。でもその言い方には語弊があると思う。


「働いてばかりではないわ。勉強もしているし、読書だってやっているもの。それに休憩だってとっているでしょう?」

「――なるほど、やっぱり貴族の方々はあたしたちとは違うんですね!」


 何やらリーリスが間違った理解をしてしまったようだけれど、ここで間違いを正すのも手間がかかりそうだし、普段の私を見ればその意見は変わると思うので一旦保留しておく。

 リーリスが相手なら、多少のことは「貴族だから」と納得してくれるだろうし。


「とりあえず、カティ様のところに案内してくれるかしら?」

「かしこまりました」


 リーリスが孤児院に入るので、私も続いて入る。リーリスがさっきまでいなかったのは、カティ様のところにいたからなのだろう。休憩と言っているけれど、実際は話をするために呼び出したというのが正しいだろうし。

 孤児院の中は一階に食堂を兼ねたレクリエーションルームみたいなところがあって、2階が子供たちの部屋となっているらしい。私が連れていかれたのは、1階にあるレクリエーションルームとはまた違った部屋。早い話が院長室になるのだろう。


 リーリスがノックをすると、中から「どうぞ」とカティ様の声がする。許可をもらえたので、リーリスがゆっくりと扉を開き、私を中へと促した。


「子供たちの相手ありがとうございました」

「いえ、私が言い出したことですから」


 私の返答にカティ様は安心した表情を見せることはなく、優し気な微笑みを浮かべるばかりだ。

 何を考えているのか表情から読み取るのは難しいけれど、なんとなくわかる。私を異質に感じているのだろう。院長として、司教として、私を見極めたいのだと思う。私を見極めたところで、何になるわけでもないと思うけど。

 立ったままでそんなことを考えていたせいか、カティ様に「どうぞ、座ってくださいな」と促された。お礼を言って座ったところで「いろいろとお話を聞かせてくれませんか?」と切り出す。


「話せることでよければ、お話ししますよ」

「ありがとうございます。それでは――」


 子供たちと遊んで、当初考えていた以上に聞きたいことが増えたので、カティさんの私への印象をいったん横に置いて、テンポよく話を聞くことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子供の中に混じって遊ぶって確かに気恥ずかしくて疲れそう
[一言] ロニカ気がきくな
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