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36.盗賊の話

 ベッドの上での生活は1日で終わったけれど、領都を見てみたいという私の望みが叶えられるまでに、数日かかった。

 その間はこちらの屋敷にある本で気になるものを読み漁って過ごした。お母様に教えられていた礼儀作法だけれど、今はお母様がいないのでその時間も読書にあてた。

 すでに知っていたことも含めるけれど、リンドロース領は化粧品類で有名な地であり、同時に食料に関しても最低限生きていける程度でよければ領内で賄えるくらいには農業も盛んにおこなわれいる。特に小麦類は余るほどに作られているので、他の領や他国に持って行っているらしい。


 化粧品の類の生産技術は輸出している国から教えを乞うところから初めて、今では独自性を追求して「リンドロース印」の化粧品が作られるようになったらしい。


 殊農業については――結果だけを見れば――他国に劣らない生産をしているヒュヴィリア王国だけれど、それ以外のことだと他国のほうが技術力が上ということは普通にある。

 というか、ヒュヴィリア王国自体が、農業大国と言っていい国であり、言い方は悪いけれど楽してたくさん採れる作物を他国に売って富を得ているところがある。


 話を戻すとこの化粧品の生産技術を取り入れようと奮闘したのが、お父様のお父様。つまりお爺様になるらしい。

 侯爵という高い地位についているのもあって領地は広く、何もせずともある程度は税収もあったらしいけれど、全体として停滞した雰囲気があったのだとか。

 繰り返される毎日に慣れきってしまって、このままでは緩く衰退していくだけだったリンドロース領を儚んで、何かないかと奮闘した結果がリンドロースの化粧品にまで成長した。


 実際侯爵家ながら、このままでは勢いのある伯爵領にも劣るのではないかと思われるくらいには、落ち込んでいたらしい。


 そういった父親を見ていたからこそ、お父様は私の意見を取り入れようとしてくれているのかなと思う。

 まあ、前世の知識の横流しの私よりも、行動して一つのものを作り上げたお爺様のほうが有能であるには違いない。


 そんなお爺様が作り、お父様が引き継いだリンドロースの街を見てみたいとより思うようになったのだけれど、なかなか許可が出なかった。

 それよりも運動不足解消のために乗馬の練習がしたい、という意見のほうが早く認められた。たぶん屋敷の敷地内でできることだったからなのだと思う。

 そちらの成果は……まあ、そこそこ。乗馬は前世含め初体験だったこともあり、そう簡単にはいかなかった。私の身長が低いせいというのもあるとは思う。


 数日の間に出来たことは馬とほどほどに仲良くなること。物語の主人公であれば、極端に嫌われて紆余曲折あって最高のパートナーになる、もしくは人に慣れないと思われていた子と初日に心を通わせることができたのだろうけれど、悪役であるところの私はそのあたりは普通だった。過度に嫌われることもなく、過度に好かれることもなく、馬の世話をしている馬丁(ばてい)に言われたとおりに少しずつ慣れていった。

 近々馬に乗せてもらうのだけれど、一人で乗るのはまず無理なので、一緒にリンドロース領に戻ってきていた騎士のソラマーノに手伝ってもらうことになっている。


 私のことを避ける人も少なくない中で、どうやら騎士団の人たちは私のことをそこまで異質な目で見ていないらしい。

 実はここに来るまでの道中で、護衛をしていたソラマーノを含めた騎士たちは度々私に話しかけてくれていた。体調の心配が多かったから、単純に体調を崩されて日程が狂うのを避けたかったのかもしれない。

 それでもソラマーノは私を避けているということはなさそうだ。お忍びで出かけるときにも嫌な顔をせずについて来てくれたし。


 そんなことがありつつ、私はようやく屋敷の外に出られるように話を付けることができた。

 今回はお忍びではなくて、視察という形を取るために護衛を引き連れて、馬車で移動することになる。お忍びのほうが自由に動けて都合がよさそうだったのだけれど、お父様にリンドロースの娘として顔見世をして来いと言われてしまっては受け入れるしかない。

 ガタゴトと馬車に揺られていく中で、いっしょに来ていたリーリスが驚いたように声を上げた。


「本当に揺れが少ないんですね。どうしてあたしが出稼ぎに出るときにこの馬車がなかったのでしょうか」

「乗合馬車にでも乗っていったのかしら?」

「仰る通りです。半日の移動で、体のあちこちが痛くなるのではないか、と思うくらいに揺れていました。領都を出る前は道中で盗賊が出たらどうしようなんて考えていたのですが、乗っている間はそれどころではありませんでしたね」

「盗賊とかいるのね」


 確かリューディアが主人公を手にかけようとして、盗賊に(ふん)した暗殺者をけしかけたというのがあった覚えがある。

 実際には盗賊ではなくてリューディアが雇った刺客ではあるけれど、()()()()()()と言えるのであれば存在はしているのだろう。


「リンドロースではほとんど見ませんが、ほかの荒れたところだと出るらしいですよ。あとは隣の国との国境付近とかは話に聞いたことがあります。行商人をしている方にそんな話を聞いたことがあります」

「とりあえずリンドロース内では心配なさそうね?」

「はい。あたしも盗賊が出たという話はなんだかんだと聞いた覚えがありません」

「ロニカは何か聞いたことがあるかしら?」

「わたしも聞いたことがありませんね」


 盗賊は食べるものがなくなり、そうするしかほかに無くなった農民がするものだ、なんて話を聞いたことがある。極端な話、種さえ蒔けば食べられるものができるであろうヒュヴィリア王国は、ほかの国よりも盗賊になる人の数は少ないのかもしれない。

 何せ食べるものは売るほど余っているわけだから。その分、国境付近だと豊かなヒュヴィリアに入り込もうとして、うまくいかずに盗賊に身を落とす人が増えるのかなと考えてみた。

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作者別作品「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
2020/5/29から第一巻が配信中です。
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― 新着の感想 ―
[一言] 先代の感性すごいな
[一言] 先代すごい人だな
[一言] 面白いだけど、物語の方向性がわからない、日常の説明に終始していて、この後物語が発展する未来が見えない
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