4.
ティアン・リンドロース。リンドロース家の長男であり次期侯爵。リューディアの一つ下の弟であり、ゲームの攻略キャラの一人。
ゲームではリューディアにばかり構い、自分には次期侯爵として課題ばかり与える両親に嫌気がさした結果、両親の悪事の証拠を集めてリンドロース家を没落させようとしていた。ゲーム内でリンドロースが没落するのは、ティアンが集めた証拠によるところが大きい。
ティアンルートでは確かリューディアがティアンを暗殺しようとしていたと思う。家をつぶそうとしていることに気が付いたリューディアが、そうなる前にと行動して失敗して捕まった。そしてリンドロース侯爵家の悪事も表沙汰になり、リューディアは追放され、両親も没落した。
それはそれとして、リューディア暗殺失敗しすぎではないだろうか? 別の世界線のようなものだから実行は1回ずつとみるのが正解だと思うけれど。
リューディアが実行するわけではないだろうから、頼んだ相手が悪かったのだろう。
だけれど今回は大丈夫だと思う。万が一私が我儘放題になったとして、今のリンドロース侯爵はその我儘を聞き入れることはないだろう。私を処理しておしまいだ。
それに両親の愛は彼に向くだろうから、家に対する恨みもなくなるはず。何より部外者の私が愛情を向けられるなんてことが、あってはならない。
こうしてリューディアとは別の存在として生きていくことを認められたのだから、それこそが愛情だといってもいいくらいだ。
まだ私の処遇の本決定がなされていないため、人形ごっこを続けながら弟のことを考えていたら、私の部屋にリンドロース侯爵――お父様がやってきた。
本当なら私が向かうべきなのだろうけれど、未だに私の病気は治っていないと言うことになっているから、一人で向かうことは出来ない。
今更なのだけれど、どうやら今の私は5歳らしい。学園が15~18歳までにあって、卒業したら成人として扱われる。
学園に行かなければ15歳から見習いで、18歳になった段階で成人になる。
ゲームのスタートはヒロインが17歳の時。
平民として暮らしていた彼女が、実は貴族の子どもだったと判明し、彼女が優秀だったために入学が許可された。
ゲームだと最初に編入試験があり、その成績でヒロインのステータスが決まる。
編入に必要な点数は既に取っているものとして、ヒロインの得意不得意などを決めるための制度だったのだろう。
内容も4択で調べたら簡単に答が分かるようなものばかりで、賛否はあったけれど私は好きだった。
成績次第では攻略不可のキャラクターも居て、ゲーム性はなかなかのものだったと思う。
基本キャラを狙うのであれば満点を取る必要はないけれど、隠しキャラを狙うなら満点を取らないといけないのだとか。
エンディングが卒業式で、最終学年の1年間がゲームの本番となる。
要するにあと12年ほどでゲームが始まり、13年ほどで命運が決まる。
今日はそのあたりについて、話が出来れば上々だろう。
「マルティダから話は聞いた。これからの話をする」
「わかりました。マルティダ様とはお母様のことでよろしいですか?」
「……そうだ。私はアードルフ。お前の父になる」
「はい。お父様」
「それから正式には変えられないが、お前の名前はリーデアとし、我々はリディと呼ぶことにする」
リューディアと私は別の存在として、でもリューディアとして扱わなければいけないから、似たような名前にしたということだろう。
何にしても私は粛々と受け入れるだけ。
一度死んだ以上前世の名前には拘りはなく、リューディアという名前にもあまり思い入れはないから気にならないというのもある。
「公式の場以外ではリーデアを名乗ればいいのでしょうか?」
「……いや、基本的にはリューディアを名乗っておけ」
「畏まりました」
お父様は複雑そうな顔をするけれど、心中は察せるので素直にうなずくだけにしておいた。
数日かそこらで、私と言う異物を認めるというのは難しいのだろう。
侯爵家当主と言っても、まだ30代にもなっていないだろうし。下手したら、私が死ぬ前と同い年ではないだろうか?
そんなことを考えていたら、お父様が精悍な顔をこちらに向けていた。
「それで我がリンドロース家が没落するとはどういうことだ?」
「私もそのことについては詳しくお話ししたいところでしたので、尋ねていただいて助かります。
お答えするために、今一度確認させてください」
私の心を見透かすような、鋭い視線を向けるお父様に、私はあらかじめ考えていたセリフを伝える。
「私を生かしておくと、没落する恐れがあります。
それでも私を生かしますか?」
「生かさぬと言えば、話さないということか」
「無駄になってしまいますから」
「構わぬ。まずは理由を話せ」
「恐れながら、私はこの世界に来る時に断片的かつ限定的な予言を授かりました。
例えばお父様は私をアルベルト第二王子と婚約させようとしていませんか? もしくは王家の側から乞われていませんか? そうでなければすでに婚約することになっていませんか?」
「どれも違うな」
お父様が胡乱げな目を向けてくるけれど、残念ながら私が覚えているのは、リューディアが第二王子と婚約することだけ。
いつしたのかとか、どのような経緯でしたのかとかは分からない。
「では、今後そうなる可能性があります。そうでなければ、予言は外れたとして心配することはないでしょう」
「リーデア。お前が王子と婚約したらどうなる」
「信じていただけるのですか?」
「リーデア、お前はティアンのことを知っていたな。ティアンにはリューディアの部屋にはいかないようにと固く言いつけて見張らせていた。だから知る機会もなかったはずだ。
それに婚約の話は出ていないが、リューディアはアルベルト王子の名すら知らない。だとすれば戯言だと一笑に付すことはできんよ」
これは私を信用してくれた、ということなのだろうか。
聞いたうえで判断するということかもしれない。
どういうことにしても、私は私が話せることを伝えるだけだ。