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30.図書館

 ティアンがお城でのパーティに行ってからも、ティアンは相変わらず私の部屋に勉強に来ることはなくなった。寂しさもあるけれど、私の役目はティアンに勉強を教えることではないので、問題は何もない。

 それに私のところに来なくなってから少しして、ティアンの元に家庭教師が来るようになったので、本格的に私が指導する必要はなくなった。私はその家庭教師に会ったことはないけれど、ティアンはその年齢のわりに優秀で度々家庭教師の先生を驚かせているという。


 私はティアンが優秀に育ってくれたらそれでいい。

 私が嫁いでしまっていなくなった後で、お父様とお母様とティアンとで幸せに暮らしてくれたらいいのだ。


 パーティ以降の話でなんだかティアンと度々目が合うようになった。私のことが気になるというよりも、監視されているという感じがする。変わってしまった、リューディアの見た目をした何かだと思われていても不思議ではないし、本当に監視されているのかもしれない。

 それで困ることはないので目が合ってもスルーするし、ティアンもすぐに目を逸らす。

 でもちょっとした会話くらいならしてくれるようになった。会話というか私の言葉に返答するだけって感じだけれど。


 さて今日は王都から離れることが決まったので、その前に王宮の図書館に連れてきてもらっている。

 お父様は前と変わらず私を図書館に連れていくと、どこかに行ってしまった。

 やりたいこととしては、もう一度精霊について調べること。本が置かれている場所は覚えているので、直行すると見覚えのある顔が本棚に向かって立った状態で、一冊の本を読んでいる。

 彼――ラウフ君は私が近づいたことに気が付いたらしく、本を閉じてこちらを向いた。


「リーデアか。また来たんだね」

「今日来ないとしばらく来られなくなるのよ」

「ふうん。領地にでも帰るのかな?」

「そうだけれど、よくわかったわね」


 ここ最近の流れで領地に行くことができなかったのだけれど、ティアンのお披露目も終わったことでもう行っても大丈夫だろうと判断された。

 今回戻るのはお父様と私の二人。お母様とティアンは王都に残るのだという。ティアンに家庭教師を呼んだので、そちらがひと段落するまでは、王都で勉強をするのだとか。

 逆に私は例の土地を実際に見てみることになったので、一足早く領地に行くことになっている。


「ほかに思いつかないからね。ほかに何か王都を出る理由があるかな?」

「旅行くらいかしら? あとは……思いつかないわね。でも領地に()()という感じはしないのよね」

「ずっと王都にいたのかな? 初めて領に行くわけだ」

「そんなところよ。だから家の領地と言っても、話で聞いたり、本で調べたりしたくらいしか知らないのよね」


 何が有名かとか、どういった場所があるとか。

 写真なんてものはないので、文章から想像するしかない。

 領都の規模も王都には及ばないくらいしか把握できていない。


「それじゃあ、しばらくお別れだね」

「今日も含めて三回しかあったことないけれど」

「それもそうだ。でもほかにこうやって話ができる相手がいなくてね」

「それは私も一緒ね」


 家の人たちを除けば、最も話したことがあるというのはラウフ君になるだろう。(リーデア)にしてみれば、初めてにして現状唯一の友人ということになる。


「そういえば私に話しかけてきたのは、そういう理由なのかしら?」

「そういうが、どういうことなのかは想像の域を出ないけれど、それもあるね」

「それ以外にもあるのね?」

「一番の理由は君の――リーデアの雰囲気が独特だったからだよ」


 楽しそうにラウフ君は話すけれど、私は首をかしげるしかない。

 確かラウフ君に初めて会った時、私は一心に本を読んでいただけだと思うのだけれど。


「何というか、見ている世界がほかの人と違うというか……とんでもない経験をしたことがあるような、そんな目をしているような気がしたんだよね」

「とんでもない経験?」

「例えば一度死んだことがあるとか」

「……何を言っているのかしら?」


 一瞬言葉を失ってしまったけれど、表情には出さずに応えることができたと思う。

 ラウフ君は「例えばの話だからね」と言及はしてこなかったので、たぶん誤魔化せただろう。というか、普通に考えると一度死んでいるなんてありえない。

 そんなあり得ない経験をしてしまったため、ラウフ君の言っていることを否定はしきれないのだけれど、そのおかげで知り合えたというのは悪いことではない。


「まあ、貴方に会えなかったら、精霊のことに気が付かなかったと思うから、良かったわ」

「それは何より。ボクもなかなかに楽しい時間を過ごせているから、お互い様だね」

「そう言ってもらえてよかったわ。あまり借りは作りたくないもの」


 とはいっても、借りを返せたとは思えないけれど。何かリンドロースでお土産でも買ってくればいいだろうか?

 でもリンドロースが力を入れているのは、化粧品の類。男の子であるラウフ君には必要ないと思う。石鹸なら彼でも使うことはあるだろうから、そちらの方面で考えてみようか。


 なんて考えていたら「そういうことなら、これなんてどうだい?」と言われて、彼が持っていた本をこちらに渡してきた。表紙を見れば精霊について書かれた本ではあるらしい。


「えっと、これは?」

「君のことだからまた精霊について調べに来たんじゃないかと思ってね」

「それは、まあ……そうね。でも読んでいる途中ではなかったの?」

「気にしなくていいよ。これを貸せば、また一つ借りができてボクに会いに来てくれるかと思ってね」

「どこに行けば会えるのかわからないわよ?」

「大体はここ(図書館)にいるかな。そうじゃないときは、王都のどこかにいると思うよ」


 具体的にどことは教えてくれないらしい。お城と言われても困るから、別に構わないけど。

 でもたまたま会ったときにお返しできるような、持ち運びが簡単なものをお土産を買ってこないといけないようだ。


「あとそれはボクの私物だから、読み終えたら返してから帰ってね」

「わかったわ。ありがとう」


 どうやら、この借りはこの前よりも大きなものになるらしかった。

9/27.修正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラウフ君、本・図書館の精霊説( ˘ω˘ ) [一言] 定期的に閑話でティアン君視点もみたいですね。
[一言] またラウフの謎が深まった
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