22.雑談
章分けするなら、たぶん新章に入るんだろうなと思います。
ロニカが私付きになった翌朝。目を覚ますと、すでにロニカがいて私が目覚めたことに気が付いたように「おはようございます。お嬢様」とほほ笑んだ。
ラウリアに似た顔に少しだけ驚いてしまったけれど、すぐに「おはよう」と返すことができて一安心。ベッドから立ち上がる時には手を貸してくれたので、手を取って立ち上がる。
「ロニカは病気だったのよね? もうこんな風に働いて大丈夫なのかしら? 大変ならお父様に言って休みにしてもらうけれど」
「お気遣いありがとうございます。ですが臥せっていたのはしばらく前のことですから」
「それならいいのだけれど」
「お食事の前のお召し換えのお手伝いをしたいのですが……」
ロニカが言いよどむ。たぶんシャルアンナに、私が着替えさせられるのが苦手だと伝えられているのだろう。
だけれど私もいつまでもこのことに囚われてはいられないので、「手伝ってくれるかしら?」と返す。ロニカは不安そうな顔をしながらも、「わかりました」と返事をしてくれた。
「どれにいたしましょうか」
「今日はできるだけ身軽なものがいいわ」
「それならこちらでいかがでしょう?」
ロニカが取り出したのは、私一人でも着替えることができるくらい簡素なワンピース。
簡素なワンピースと言っても、リューディアの持ち物の中でという注釈が付くので、お値段はきっとかなりすることだろう。
「それでお願い」
「かしこまりました」
ロニカに頼んで持ってきてもらった後、そのまま着替えを手伝ってもらう。
手伝ってもらうというか、着替えさせてもらうというか。私は基本的に立っているだけで、何から何までやってもらうというか。
着替えを手伝ってもらっていると、どうしてもロニカの手がこちらに伸びてくるので、思わず体を震わせてしまう。
そのせいでロニカの手が止まるので「続けて」と短く伝えて、次を促す。
ちょっとこのままだと気持ち的に辛いので、ロニカに話しかけて気を紛らわせることにした。
「ロニカは優秀なのね」
「ありがとうございます。ですがそんなことはありませんよ」
「15歳でここまでできるのだから、優秀なのではないかしら?」
「そういわれると困ってしまいますが、5歳でここまでお話しできるお嬢様のほうが優秀ですよ。
すでに読み書きができると聞いています」
「そういわれると……否定はできないわね」
中身が5歳ではないからとはさすがに言えないし、ここで謙遜しても嫌みにしかならなさそうだ。
それに謙遜できる5歳というのも、また5歳らしからぬといえばそうなので、ロニカの言葉のうまい返しは思いつかない。
「私のことはいいわ。それよりもロニカは前々から使用人の訓練でもおこなっていたのかしら?」
「はい。母がメイドをしていましたので、わたしもその教えを受けていました。
ですがわたしがお嬢様のお付きをできるのは、お嬢様が優秀だからというのが大きいです」
手がかからないから、半人前を付けても大丈夫だと。それに多少の失敗を私が気にしないであろうことも織り込み済みなのか、それともラウリアの妹であるロニカに対しては私がどう扱ってもいいということなのか。
単純にお父様が私の話を聞き入れてくれたという可能性もあるけれど。
それから母親に教えてもらったというのは、ラウリアも同じなのだろう。もしかしたらロニカは直接母親に教わることはなく、母親に教わった姉に教わっていて、それを母親と言っている可能性もある。
「母はかつてリンドロース侯爵家で働いていたそうです」
「それは偶然ね。いえ、だからこそ……なのね?」
「そうなのでしょう。どれだけ謝罪してもし尽せません」
「謝罪をする相手は私ではないわ」
するなら私ではなく、両親にであり、リューディアにしないと意味がない。
「ロニカに罪がないとは言わないけれど、それは私に忠誠を誓ったことで相殺されたとお父様もお母様も思っているはずよ」
「ええ、そのようにお言葉をいただきました。生涯の忠誠をお嬢様に捧げております」
ロニカが私の手を取って、掲げるようにして持ち上げる。
やっぱり侍女が主人にすることではないし、なんだか恥ずかしいのだけれど、受けないというのはそれはそれで問題なのであきらめて甘受する。
「では朝食の準備をいたしますね」
「ええ、よろしくね」
私を着替えさせ終えたロニカがそういって、一度部屋を出る。
それから朝食が乗ったワゴンを載せて戻ってきた。
「そういえばロニカたちはどのようなものを食べているのかしら?」
ふわふわに焼かれたパンをちぎりながら、ふとそんなことを聞いてみる。
ラウリアの時もそうだったけれど、使用人たちがいつ食事を食べているのとか、どんなものを食べているのかとかはよく知らない。
「リンドロース家であるお嬢様方とは、違ったものが用意されています。似たようなものにはなるようですが、使用人が食べるものは少し簡素になりますね」
「そうなのね。美味しいかしら?」
「わたしは平民ですので、簡素とは言いましても今までよりもいいものを食べさせていただいています。味もとても美味しかったですよ」
「ロニカは他国の食べ物を食べたことはあるかしら?」
「はい。両親が商人をしていましたので、何度か他の国に行ったこともあります。
ですが、ヒュヴィリアの食べ物が一番美味しいですね」
「ロニカもそう思うのね」
お父様への商談。いろいろあって忘れていたけれど、そろそろお願いしてもいいかしら?





