17.騎士
正直なところラウリアが生きていると聞いても、どうしたいのか自分でもわからない。
会いたいかといわれても、できれば二度と視界に入れたくはない。だって殺されかけたのだから。そしてリューディアが死んでしまった直接的な原因だといえるから。
格子越しだとして会いたいとは思えないし、あって何をしたらいいのかというのもわからない。
「お父様、聞きたいことがあるのですが良いですか?」
「ああ、構わん」
「ラウリアはどうなる予定なのですか?」
「貴族の子女を手にかけようとしたからには、相応の報いがある。まあ、処刑は免れないな」
「お答えありがとうございます」
それはそうだ。身分社会で上の身分のものを殺そうとしたのだから、殺されても文句は言えない。ラウリアにどんな理由があったとしても、それは理由として認められない。
そもそもラウリアがどうしてリューディアを殺そうとしたのか。それはなんとなくわかっている。彼女の妹が人質にとられたとかそんなことだろう。
それは気の毒なことだけれど、それを理由にリューディアを殺すとなれば話は別だ。
一般的な貴族として考えれば、ラウリアは処刑するのが正しい判断だろう。事実お父様もラウリアの処刑は免れないと言っている。
そもそもラウリアはリューディアの仇。お父様がラウリアを生かしておく理由はない。
でも、だけれど、私がリーデアとなって最も私を気遣ってくれたのは、たとえそれが演技だとしてもラウリアだった。
会いたくないし、二度と顔を見たくないけれど、死んでほしいとまでは思えない。
彼女を生かそうと思えば、お父様をどうにか説得しないといけない。しかし行動する前に確認をするのは大事だ。
私はラウリアは彼女の妹が原因で凶行に及んだのだと思っている。だけれど実際はただの愉快犯だったなんて可能性はなくもない。事情があったら許すというわけではないけれど、ないよりはまだ彼女の行動については理解できる。
だったら、お父様を説得する前にラウリアに会わないといけないか。嫌だけれど、本当に嫌だけれど。
少なくとも、お父様たちの恨みを一旦でも収めてくれるように、私が交渉する必要があるのか見極めたい。
「決めました。一度ラウリアに会おうと思います。
その結果次第でお父様に提案したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいだろう、リディに付ける騎士を呼んであるが、一人で大丈夫か?」
「……大丈夫です」
ラウリアに裏切られて、ほかの使用人を信じられるのか。出来るとは言い難いけれど、それ以上にお父様に迷惑をかけたくない。
手のかかる存在だと思われたくない。リンドロース家の足手まといだとは認識されたくない。
「では案内してもらうといい」
「はい。ありがとうございます」
それからお父様が屋敷の騎士を呼んでくれた。
◇
「お初にお目にかかります、リューディア様。リンドロース騎士団のソラマーノと申します」
「ソラマーノね。騎士団というものを初めて見たわ」
リンドロースにも私設の騎士団があったんだなーと、ソラマーノに会ってふとそんなことを思った。
この屋敷にいる間、騎士団の人を見たことがなかったからだろうか?
それともラウリアに会うという現実から、目をそらしたかったのだろうか?
それはおそらくどちらとも。
「騎士団の多くはリンドロース領で治安維持をしていますので、こちらには最低限しかいないのです」
ソラマーノの年齢はラウリアと同じくらいだろうか? 茶髪で優しい顔つきの男性。でも騎士らしく引き締まった体をしている。
侯爵家ともあり、領地持ちの貴族であるのは何の疑問もないのだけれど、行ったこともないせいか頭から抜け落ちていた。
「そのためお嬢様には怖い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
何のことかと思ったけれど、ラウリアの凶行についてか。騎士の仕事はリンドロース家を守ることだろうから、失点になるのかもしれない。
ラウリアが怪しいことは両親は気が付いていたようだし、むしろ彼らのおかげで私は五体満足で生きていられるのだと思う。
「いいえ。私は貴方たちの働きに感謝しているわ。あなた方がいなければ、今頃私は死んでいただろうから。私だけではなくて、リンドロースがあるのは貴方たちが守ってくれているからよ。
それを労うことはしても、責めることはしないわ」
彼は――彼らはおそらくできうる限り最善を尽くしたのだと思う。結果私は生きているし、リンドロースに何か悪影響があったわけでもない。ならば十分仕事を果たしたはずなのだ。
それなのに責めるのはもちろん、罰なんて与えてしまえば、リンドロース的にマイナスにしかならない。
「寛大なお言葉感謝します。このソラマーノ、貴女に我が剣を捧げることを誓いましょう」
「貴方が剣を捧げるべき相手はリンドロースよ。優秀な騎士がリンドロースにいれば、私も安心だもの」
ソラマーノが大げさなことを言ってくるので、内心ドキッとしながらも素っ気無い態度で返す。
貴族らしくリンドロースにも陥れようとしてくる相手がいるようだし、お父様に万が一がないように細心の注意を払ってほしい。
「ところでお父様は領地に帰っているのかしら?」
「以前は定期的に戻っていたようですが、最近は戻っていないようですね」
「ありがとう。わかったわ」
いろいろあって忙しかったのだろう。だとしたら、この後時間をもらうことがやっぱり申し訳なく思う。
だけれどすでに約束は取り付けてしまったし、今はラウリアからいろいろと話を聞いてみるしかないようだ。





