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幕間 ラウリア(下)

 あたしは()の要求通り、お嬢様に毒を飲ませた。お嬢様の扱いはそれなりに心得ていたから、屋敷のほかの人にバレないように飲ませることは難しくなく、それでもやろうとしていることがことだけに、気を抜くと吐いてしまいそうなほどに緊張感があった。

 お嬢様に毒を飲ませた日――薬はとても苦くお嬢様だから飲ませることができた。すぐに帰って、()に役目を果たしたことを伝えた。

 だけれどすぐには薬をくれなくて、お嬢様が体調を崩すのを確認して来いと次の指示を出された。


 でも翌日にはお嬢様が倒れたと屋敷は大騒ぎになっていた。

 お嬢様が大変だから今日は帰っていいといわれたあたしは、すぐに帰って()にこのことを伝えた。彼は満足そうな顔をしたかと思うと、薬を渡してくれた。

 それから言われたとおりに、その薬をロニカに飲ませる。


 劇的に変わった様子はなったけれど、辛そうに荒々しかった呼吸が少し穏やかになり、表情も前よりもましになった。

 ロニカが助かったんだと思うと、涙があふれてきた。

 長い間病気だったので、元の元気なロニカになれるのはしばらく先だろうけれど、これからもロニカのために頑張ろうと心に誓った。





 まだ予断を許さない状態だったとは思うけれど、あたしも働きにいかないといけないので、後ろ髪をひかれながらもリンドロースの屋敷で働いていた。

 お嬢様の病状がよくならないということでリンドロースの屋敷は騒がしく、さすがにあたしも胸が痛かった。二択を迫られればロニカを選ぶけれど、お嬢様が死なないで済むのであればそうであってほしいとは思っていたから。


 お嬢様付きではあったものの若いせいかお嬢様の部屋に入ることができず、どうなったのだろうかとやきもきしていたある日、()がまた姿を現した。

 何かと思い話を聞くと、お嬢様がどうなったのかと尋ねられた。あたしがわからないと正直に答えると、彼は少し考えてからお嬢様が生き残った場合、お嬢様を使ってリンドロース家を引っ掻き回すようにと命令された。


 お嬢様はともかくリンドロース侯爵には恩もある。断ろうと思ったけれど、従わなければ薬の代金を支払ってもらうと脅された。

 しかも支払いはロニカにしてもらうのだと。あたしでも払いきれない代金を、ロニカが払いきれるわけがなく、支払わなければどうなるのか……と暗に言われているのがわかった。きっとロニカは売られ、口にするのも(はばか)られるような末路を辿るだろう。


 それだけは避けないといけない。せっかく良くなってきているのに、売られてしまうなんて許されることじゃない。


 またあの毒を使えばいいのではないかと尋ねてみたら、あの毒を続けて使えばさすがに疑われるであろうこと、それから一度失敗したら二度目は極端に死ぬ可能性が下がるらしい。

 だからと言って、彼がさせようとすることは遠回りが過ぎるような気がしたけれど、指示を聞いてあたしでもできそうだなと思ったので、ロニカのために従うことにした。





 お嬢様が倒れて半月ほど経ったある日。お嬢様が回復されたと使用人たちに知らせがあった。

 あたしは頼み込みお嬢様付きに戻してもらって、お嬢様と対面した。久しぶりに対面したお嬢様は、まるで別人のように大人びた目をしていた。


 それから()の指示通りに、お嬢様をとんでもない我儘娘にしようとしていたのだけれど、まったく成果が上がらない。

 高いドレス、高い料理、高い宝石……病気で大変だったのだから、強請ってみてはどうか。きっと喜ぶだろうから、旦那様のもとに甘えに行ってはどうか。

 ほかにもお嬢様に言ったけれど、大人かと思うような態度をとるようになったお嬢様は受け入れてくれない。


 正直、まるで別人のようになってしまったお嬢様は恐ろしかった。ほかの使用人たちもお嬢様を不気味に感じているようで、お嬢様に近づく人は極端に少なくなった。

 旦那様や奥様にお嬢様の異常について話した人もいたけれど、下手な詮索をすることをしてはならないと言い含められたらしい。


 そうしているうちに、痺れを切らした()がやってきた。

 まるで成果が見られないあたしに対して、すぐに何かしら成果を出すか、お嬢様を殺すようにと指示が出された。

 こちらにも事情があるのだと言っても受け入れてはもらえず、またあたしは二択を迫られることになった。


 数日前からリンドロースの屋敷では持ち物チェックが徹底されるようになり、お嬢様を殺すというのは難しい。ナイフどころか、フォークの一本も持ち歩くことができず、見つかれば最悪辞めさせられることになる。

 それにやはり殺したくはない。でもロニカのためならば……。





 叫ぶお嬢様の首を絞める。はじめは小さな両手を使って抵抗してきたけれど、力が抜け両手が下がったその時、あたしは取り押さえられた。

 そのまま地下牢へと連れていかれて、あたしは捕らえられた。





 どれだけ時間が過ぎただろうか。ちゃんとお嬢様は死んでくれただろうか。

 暗い地下牢では今が何時かもわからないし、ロニカがどうなったのかもわからない。もしもお嬢様が生きていて、それでロニカが()に連れていかれていたのであれば……。

 そんなことを考えていると、この地下牢に誰かが入ってくる音がした。

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作者別作品「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
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― 新着の感想 ―
[一言] 何者の差し金なのやら
[一言] なんというか、選択を間違えてしまった感がむなしさを感じますね……。 旦那様を頼るという選択をすることが出来れば、と思ってしまいます……。
感想一覧
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