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15.叫び

今日明日は2回更新しますのでご注意ください。

「お嬢様、お選びください。今からリンドロース家を傾かせるほどの我儘な娘になるか、それともここで命を落とすか」


 ギラギラとした瞳で私をとらえ、ラウリアがそんな風に二択を迫ってくる。

 明確な害意であり、殺意を向けられて、自分の死の淵を思い出す。

 体が震える。私がラウリアをどうにかできなければ、その先はどちらに転んでも死だ。


 私はリーデアでリューディアではない。私がどれだけ我儘を言おうとも、お父様は首を縦に振ることはないだろう。そしてリンドロース家には不要と判断されて、処理されても文句は言えない。リンドロースのためにということで、私は生かされているのだから。

 じゃあラウリアを私の力で何とかできるのかといわれれば、それも無理。


 だって私の体は5歳でしかないから。大人のラウリアを退けることはおろか、扉がラウリアの後ろにある以上逃げることもできそうにない。

 このまま時間だけを稼いで誰かが来てくれることを祈るというのも、()()()()では難しい。私は家の人たちに避けられているから。


 じゃあどうするか。決める前に一つ気になることがある。

 恐怖で震えそうになるのを力で押さえつけて、毅然とした声で尋ねる。


「私の食事に毒を入れたのはあなたなのね、ラウリア」

「お気づきだったんですね。あの時に死んでくれていたら楽だったのに、どうして死んでくれなかったんですか? そのせいでロニカは未だに苦しんでいるんです」

「それならもう一度その毒を使えばよかったじゃない」

「2度目はバレると、それに2度目は死ぬ可能性が下がるのだそうです」


 病気に見せかけるための毒があるということだろう。お父様に調べてもらえばその正体はわかるかもしれないが、お父様に知らせることができるかしら。

 ラウリアが「もうお喋りは終わりです。どうしますか? 傀儡になってくれますか? それともここで死にますか?」と選択を迫ってくる。


 生き残るにはラウリアの言いなりになるのがいいのだろう。だけれどそれは、リンドロースに刃向かうことになる。それはできない。

 死にたくないけれど、仮にラウリアについて死ぬことがなかったとしても、私にはそれは選べない。従うふりだってできる気がしない。

 そんなに器用だったら、今頃私はもっと違う形で家の人たちと接することができていただろうから。


 どちらも選べないのであれば、わずかな可能性に賭けよう。


 本当は心臓がこれ以上にないくらいに暴れていて、意識しないと呼吸だって荒くなる。

 自分の倍以上ある存在に殺されそうになっているのに、冷静でいられるほど肝は据わっていない。

 でも生き残れる可能性に賭けて、私はラウリアにバレないように浅く、でも深く酸素を吸った。


 きっと口は回らない。でもたぶん一音だけで充分。


「きゃあああ――――!」


 自分でも耳が痛くなるくらいの叫び声。普段誰も近づかずとも、こんな分かりやすい異変があっても誰も来ないほど、この家の使用人は無能ではないだろうから。

 ありったけを込めて叫んだせいで、動き出したラウリアから逃げることはできずに首をつかまれた。

 ギリギリと力が込められていく。


 手加減のない力で首を圧迫され、呼吸ができなくなると同時に鋭い痛みが襲ってくる。

 両手で必死に抵抗しても、力の差は明確でせいぜい十数秒、何なら数秒程度命をつなげることができる程度だろう。


 すぐに呼吸ができないために力を入れることができなくなり、苦しさで目がかすむ。

 かすんだ視界には、歯を食いしばって必死な形相のラウリアがいて、なんて勝手な人なんだろうと思ったところで扉が乱暴に開かれる音がして、私の意識がなくなった。





 気が付くとどこかに寝かされていた。頭はぼんやりとしていて、首がとても痛くて、体がとてもだるい。でもそれが、生きているという実感のような気がして、安心したら涙が出てきた。

 目じりからそのままベッドへ流れていくはずの雫は、途中で誰かに受け止められて、そのまま頬を撫でられる。

 今まで感じたことがないような優しい手つきに、安心が増していき、涙が止まらない。


 開けるのも億劫だった目をほんの少し開けると、涙で滲んだ視界の中に赤い髪の女性の姿がぼんやり見えた。

 だけれどその手に視界はふさがれ、今度は頭を撫でられたと感じた辺りで、また闇の中に落ちていった。

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作者別作品「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
2020/5/29から第一巻が配信中です。
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― 新着の感想 ―
[一言] この時点で母は愛情を持ってくれたんですね
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