12.王宮図書館
「王城についたらそのまま図書館に連れていくが、迎えに行くまでは出ないように」
「はい。お父様」
「今日は日が沈む前まではいると思うが、図書館の本を持ち帰ることはできないうえ、次はいつ来ることができるかわからないからそのつもりで」
「大丈夫です。それで何もわからなければ、一旦このことは忘れることにしますから」
とうとうやってきたお城に連れて行ってもらえる日。ガタガタと揺れる馬車の中で、お父様と図書館でのことを再確認をする。
馬車は二台で片方は私とお父様だけが乗るもの、もう一つが使用人たちが乗るもの。
お父様と二人だけの馬車は、会社の上司と二人だけのような気まずさと緊張感があるけれど、傍目には親子なので仕方がない。
親子の会話というのができているかはわからないが。
「どうして精霊について調べている?」
「精霊の存在について、今一つ実態が把握できないからです。仮にいないと認識できればいいのですが、そうではなかった場合、今のままで大丈夫なのかという不安があります」
「精霊への信仰が大局的に薄まっている中で、精霊に見捨てられる可能性があるということか?」
「そうですね。考え方として『これから人がこの国を守り作っていくのだ』というのもあるかもしれません。それならそれでもかまわないのです。しかしその場合、精霊がいなくなることへの対策を講じておかなければ、混乱は必至でしょう」
物語から読み取れた精霊の役割は、大地への祝福。要するに農業への恩恵。
この国の食べ物はおいしい。肉野菜問わず、日本で食べていたものと遜色ないか、それ以上のおいしさがあると思う。
日本の場合は長年の研究と品種改良の結果、今のおいしく食べやすい野菜が生まれたのだけれど、印象としてこの世界の農業はそこまで発達していないように思う。
ゲーム内でも、日本人がイメージする中世ヨーロッパみたいな感じだったし。
衛生面はそれなりだけれど、ほかの部分では現代に劣っているみたいな感じだったと思う。
とはいえ、絶対に精霊のせいかといわれると微妙なところで、単純にこの世界の土が地球のそれより優れているとか、食に関するところだけが妙に発展した世界だとか、ありえないわけではない。
短絡的にこうだと決めて、違ったほうが怖いので、できるだけ慎重に行動をしたい。
「一理あるが……なぜそこまでする?」
「どうしても気になるからです。結果によってはリンドロースのためになるでしょうし、無駄に終わったとしても動いているのが私なら、大した問題にはなりませんから」
お父様やお母様。何なら普段別の仕事をしている人がここまで動こうとすると、リンドロース家の運営という意味で支障をきたす可能性がある。
本を探すのに人手を借りているから、大きなことは言えないけれど。
私の返答に対してお父様は「なるほどな」とだけ言って、何かを考えるように馬車の窓から遠くを見ていた。
◇
お城について、まっすぐ図書館へと連れていかれた。
だからお城の中はほとんど見られなかったのだけれど、前世では直接見られなかった西欧風のお城はなんともファンタジー感があって心躍った。
とはいえ、ここにはアルベルト殿下がいることを考えると、あまり浮かれてもいられない。
王族の誰にも見つからずに、知りたいことだけが今日の目標になる。
王族というと、国王様に王妃様。それから側室がいるという話も聞いたことがある。
側室と聞くといかにも王族だなーという感じがする。王侯貴族であれば子をなすことが義務になるため、側室を娶ること自体は少なくないが、お父様はお母様以外の人とは結婚していないらしい。
王族の話になるが、私が知っているのはあとアルベルト殿下くらい。彼が第二王子なので、上に第一王子がいるのはわかるけれど、ゲームではちょっとだけ出てくるだけなので記憶の彼方だ。
ただ順当に考えると、第一王子が隠しキャラなのではないかなと思っている。本編に出てきた攻略対象外キャラだと、ほかにめぼしいキャラクターはいなかったはずなので。
だから目下この人たちに見つからなければいいなと思っている。見つかっても相手の印象に残ってはいけない。一見悪い印象でも、下手したら興味を持たれて婚約なんてこともあるのだ。何せここは乙女ゲームの世界。ヒロインのミスが却ってヒーローの気を引くことが往々にしてある世界だ。
だから見て回りたい気持ちはあったけれど、まっすぐ図書館に連れていかれたのはよかった。というか、お父様のことだからそれくらいのことはわかっているのだろう。
図書館に王族がいる可能性もなくはないが、連れていかれた感じお城から少し離れたところにあるので、そうそう来ないと思う。
さて、王宮の図書館だけれど、大きな図書室といった印象を受ける。中は窓から光が入ってきて十分に明るいのに、入り口はともかく少し奥に入ると左右に大きな本棚があって圧迫感がすごい。
談笑するようなところではなく、研究をする人が立ち寄る静かな場所のようだ。
そんな中に私のような5歳児が紛れ込めば目立ちそうなものだが、ここにいる人たちはそもそも誰が来たのかとか気にする質ではないらしく案外溶け込めそうだ。
中に入るときにはお父様が連れてきてくれたので、すんなり入ることができたけれど、お父様が外に出さないようにと言っていたので、勝手に出るのは苦労するだろう。出ないけど。
私には本の扱い方に対しての注意だけで、ほかには何もなかった。侯爵家の娘としてある程度信頼されているのかもしれない。
逆に言えば何かやらかしたら、お父様の責任になるわけで、そう思うと本一冊触るのに慎重になりそうだ。
だからと言って何もしないというのも論外なので、精霊関連の本を探すことにした。





