大聖堂の一大戦
エースとルージュは大聖堂に辿り着いた。
賊達は大聖堂に本当に全員が集まっているようで、ここに来る道中賊と鉢合わせることはなかった。
音を立てないよう慎重に大聖堂の正門扉を開け、厳かな雰囲気を醸し出す、白を基調にしたコンクリート造りの回廊を足早に歩く。
側面扉から身廊の中を覗くと、捕らえられた町人達が説教壇に目隠をされ、手首を後ろで組まれた格好で座っていた。その中にはロッサもドレッドもいる。見たこともない派手な衣類を身に纏って町人と同じように捕らえられている数人は、恐らく王女御一行の王族の人間達だろう。
人質を取り囲む様に三十人ほどの賊達がいる。緊張の糸を張らしている賊もいるが、呑気に酒や食料を喰らっている賊もいた。
「本当にこの中に一人でいく気?大丈夫なの?」
「行くしかないさ。ルージュはここで隠れていて。計画はきっと上手くいく。俺の腕次第だけど…」
エースとルージュは大聖堂へ来る道中で、ある計画を立てていた。
「なら、任せるわ。この国の運命を貴方に託す」
「何で余計にプレッシャーになることを言うんだよ」
「そんなつもりはないわ。私は貴方に全てを掛けただけよ。これは私の一存。貴方が負けたのなら、この国はもうどうなってもいい」
「それは凄く力になるよ。決意が鈍る前に行ってくる」
立ち上がったエースの背中をルージュは強く叩いた。
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「たのもう」
エースはさっき来た回廊を足早に戻って正面扉までいき、そこから身廊へ入った。
「なんだてめえは」
さっきまでのらりくらりと食事をしていた賊までもが形相を変えて、エースに向かって一斉に銃を構え、サーベルを抜いた。
「待て!撃つな。撃つんじゃない!話を聞いてくれ!俺に提案がある」
賊達が顔を見合わせてざわざわと騒ぎ始める。エースは構わず続ける。
「この中で一番強いガンボウイに聖戦を申し込む」
顔を見合わせていた賊達が下品な声を上げて笑い始めた。
祭壇の上に腰掛けた賊のドンと思しき大男が口を開いた。
「何を言い出すかと思えば、お前みたいなガキが聖戦だと。笑わせるな。そもそも聖戦の意味を知っているのか?俺達とお前の間に何をかける物がある?」
「俺の願いはただ一つ。俺が勝てば速かにこの町を去ることだ。お前達が勝てば王女のありかを教えてやる」
「何をいうか」
金切り声を上げたのは賊ではなく、王女の護衛であろう王族達だった。
「王女の許可は得ている」
エースは王族達に向けて言った。
「どうみてもお前は王族の身なりじゃないだろう」
賊のドンは勝手に話に割り込んだ王族に蹴りを入れた。
「俺はここの町人…いやガンボウイさ。王女がこの町に逃げ込んでたまたま王女と出逢った。そして王女に頼まれ、王女の身柄をこの町の住人でも分からないとっておきの場所に隠したのさ。今から証拠を見せる」
エースはズボンのポケットから何やら紙を取り出した。
「王女の書いた手紙だ。内容は何てことはない。ただ安否を書いている。この手紙の筆跡を王族達へ見せれば王女の物と分かるだろう。持って行ってくれ。絶対に撃つなよ。永久に居場所が分からなくなるぞ」
エースは近くにいた賊に紙を渡した。
紙を受け取った賊は、ドンのが頷いたのを認めてから王族の元へ近寄り、紙を渡した。
「…確かに、王女様の筆跡だ」
賊達がどよめく。
「さあ。聖戦を申し込む。どうした?かのモザリア国のギャングともあろうお前たちがビビっているのか」
「もし聖戦をして俺達が勝ったとして、死んだお前からどうやって情報を聞き出すんだ」
「なんだ。お前達はカウボウイに相当自信が無いんだな。簡単だ。ここにもう一つの紙がある。この紙には事前に王女の在り処が書いている。それをズボンの後ろポケットに入れる。お前達のカウボウイは俺の尻を狙わずにおれを殺して、ズボンから紙を取り出せばいい」
「そんなもの、今ここでお前を斬殺して紙だけを奪えばいい話だろう」
「お前達は本当にカウボウイに自信がないんだな」
エースは一瞬にして、ホルスターにしまってあったグレッグから預かっていたリボルバー銃を取り出し、天井に向けて発砲した。シャンデリアの電球が砕けてガラスの雨が降った。一瞬の出来事に賊の殆どが反応出来ていない。
「俺は早打ちには自信があるんだ。お前達が妙な動きを見せたら自分の尻ごと、この紙を撃ち抜いてやるよ」
「ははははははははははははは」
ドンの横にいた、道化師のような格好をして、緑のカウボーイハットを被った男が甲高い笑い声を上げた。
「その程度では早撃ちともいえはしないよ。ドン。やらせてください。こんなガキに馬鹿にされたままじゃ、私のメンツが立たない。このガキに、本当のガンボウイというものを見せてやりますよ」
「これだけ言われてやっと出てきたんだね。本当に大丈夫?」
道化師の格好をした賊が、エースの挑発に、明かに怒りで表情を歪めている。
「クラウン。分かった。ここはお前に任せよう」
クラウンと呼ばれた賊は「ありがとうございます」とひらりとハットを手で取ってお辞儀をした。
血走らせた眼で、エースに睨みを聞かせたまま近付いてくる。クラウンはエースより頭三つ分ほどの体躯がある。
よし。ここまでは思い通り。
(聖戦に持ち込む)という第一関門を突破したエースは内心でガッツポーズを作っていた。
計画を成功させるため。自分の頭三つ分も大きいこの賊に、なんとしても勝利しなければならない。
エースは自分の手に汗が滲んでいるのを感じた。