瞬間の一騎討ち
「ルージュのことをは絶対に助けるけど、その前に行かなきゃならない所がある」
エースはルージュを連れて、急いで店へと向かっていた。
「こっちって、最初に賊が襲撃をしていた方向よね?危険なんじゃないかしら。なぜ、南東へ向かわないの?」
「この先に俺の家があるんだ。家族もいるし、仲間もいる。みんなの様子を見に行きたいんだ。ごめん。君のことは勿論守るつもりだけど、これだけは譲れない」
「なるほど。それは不安ね。一刻も早く様子を見に行かないと。先を急ぎましょう」
「いやに聞き分けがいいんだね」
「なんのことかしら?私はただ心配なだけよ。急ぎましょう」
この国の王族は、人を人ならざる者として扱い、身分制度を敷き、自分達だけが生きやすい世界を創っている悪魔のような生き物だと聞かされ、エースは砂民の町で暮らしてきた。
だから、エースは目の前にいる王族の頂点であるはずのこの情に溢れた少女のことを、首にかけた純金のネックレス以外で王女と判断することが出来なくなっていた。
身分や服装なんてただの違いであって、大人達が言うほど大袈裟な物では無いのかもしれない。とルージュを見て思っていた。
「何を見ているのよ」
「なんでもない」
エースの視線に気が付いたルージュの質問に、エースは慌てて答えて目を逸らした。
「出てこい王女様〜。何処にいるんだ〜」
エースとルージュは民家の影に慌てて身を隠した。民家と商店の間に挟まれた二つ向こうの路地に、サーベルや拳銃を持った盗賊十人ほどが闊歩していた。
「迂闊だったな。こんなに近くに居るのに気が付かなかったなんて」
「どうするの?奴ら十人ほどいるし、武器も持っている。見つかったらお終いよ」
「分かってる。幸い、奴らはまだ気が付いていないみたいだ。南東に向かっているし、このままここで隠れてやり過ごそう」
二人は息を潜めて賊が過ぎるのを待った。
賊達はまるで立食パーテーでもしているかのに、蛻けの殻になった民家や商店に如く立ち入って食糧や酒を漁り、ゲラゲラと笑いながら南東へと歩いて行った。
怒りで思わず我を忘れそうになるエースをルージュが宥め、二人は店へと向かって走った。
「あの十字路を左へ曲がればもう店だ」
エースとルージュが息咳切らして走る。十字路へ差し掛かると勢いそのままに右へ曲がった。
すると、曲がった先で、サーベルを持った一人の小柄な賊と鉢合わせた。
「まずい。ルージュ、下がって」
エースは慌ててルージュを背中へ隠す。
虚を突かれたのは賊も一緒だったがすぐに状況を理解した賊は素早くサーベルを構えた。
「王女様じゃねえか。なんでこんな所にいるんだ。大手柄だぜ」
賊がサーベルを振りかぶった。
エースは咄嗟に腰のホルスターからゴム弾の入ったリボルバーを引き抜ぬく。
鼓動がはやる。
賊の眉間を、酒場で見事に打ち抜いた、テーブルに置かれたコルクに見立てて頭の中でイメージする。
大丈夫だ。
客がいない日も、店が休みの時も、雨が降っても嵐の日でも。ずっと特訓を重ねてきた。
この至近距離でこんな大きな的を外すわけがない。外すわけにはいかないんだ。
エースは引き金を引いた。
ダン!!!!!!
ゴム弾がレーザービームのように美しい直線を描き、賊がサーベルを振り下ろすよりも早く、吸い込まれるように、賊の眉間に直撃した。
ゴム弾とはいえ、この至近距離で正確に眉間を射抜かれた賊は、仰向けに大の字で倒れて気を失った。
はあはあ。
エースは息を切らし、しりもちを着いた。
「銃を持っていたから只者ではないと思っていたけど、凄い腕の持ち主だったのね」
「ゴム弾とはいえ、人のことの撃ったのは初めてだった。上手くいってよかったよ」
ルージュは手を差し出し、エースはその手を掴んで立ち上がった。