惨劇
ブルームの丘から急いで降りると、町中の人々が慌てふためき悲鳴を上げながら、爆発のあった南西方面から南東へ逃げていた。
「いったい、どうしたっていうんだ」
ドレッドはターバンを巻いた、この街の銃職人である、ロッサの肩を捕まえて尋ねた。
「ああ。ドレッドさん。大変なんだ。デカイ大砲が町に打ち込まれたんだよ。恐らく隣国の盗賊達だ。遂に来たよ。さあ。急いで逃げないと」
「ダメだ。私は店へ行かないと。情報をありがとう、ロッサ。気を付けて逃げるんだ」
ドオンと音を立てて爆発音がし、数十里先の木造の大きな民家が紙吹雪の様に吹き飛んだ。その惨劇を目の前にすると、エースの心は怒りと恐怖に満たされていた。
ドレッドは紙吹雪のように吹き飛んだ光景を目の当たりにして考えを変えた。
エースの肩を掴んで目線を合わせる。
「エース。私は店を見に行ってくる。お前はロッサと一緒に逃げるんだ」
「いやだ。俺も一緒に行くよ」
「ダメだ。エース、言うことを聞いてくれ」
「そうだ。エース君。ドレッドさんの言うことを聞くんだ。一先ず、一緒に逃げよう」
ロッサがエースの腕を強く掴んだ。
「ありがとう。ロッサ。エースを頼んだよ。エース。心配はいらない。グレッグも連れて必ず戻って来るから。また後で合流しよう」
ドレッドはそういうと酒場の方向に向かって走り出し、あっと言う間に背中が見えなくなってしまった。
「さあ。行くよエース」
ロッサがエースの腕を無理矢理引っ張って走り出したその時だった。
またドオンと音がしたかと思うと二人のすぐ近くの民家が木っ端微塵に吹き飛んだ。その衝撃でロッサとエースも宙にまった。
放ってはおけない。店のことも、グレッグのことも。
幸い直撃などはせず、怪我などもなかったエースは体を起こして、ロッサの腕から逃れたのを良いことに、酒場へ向かって走り出した。
「おい。エース待て!!!戻れ!!!!戻るんだ」
呼び掛けに応じず、エースは店に向かって走る。
やがて諦めたロッサはドレッドとの約束を放棄して、その場から離れた。