ブルームの丘
青い月と黒が一つも見えないほどに、星が輝く夜空だった。
店を出たエースは、店から、南東に十分ほど歩いた所にある、この町を全て見渡せるブルームの丘、その頂上に来ていた。
ここはルシアーロ国の南端に位置する、ブルームーンタウン。
その昔、隣国との貿易のため、国境の境目にの小さなオアシスの周辺に無理矢理作られた砂漠の町だ。
隣国との国交が上手くいっていた十数年前までは活気ある町だったらしいが、それはエースが生まれる前の話。今では人口も国内で一番少なく、廃れているや寂れているという表現がピッタリ合う。
他の町からはゴーストタウンとも呼ばれているとかいないとか。そんな噂を耳にしたこともある。
だけど、幼い頃に両親を亡くし、身寄りのないところを、グレッグに拾われ、この町でずっと働き、育ってきたエースはこの町が好きだった。
知らない誰かが、知らないどこかで、この町のことをなんと言っていようと関係がない。
好きな町が一望出来るブルームの丘は、エースにとってこの町で二番目のお気に入りの場所だった。
一番好きな場所に居づらくなった時、よくここに来て、ぼんやりと星や町を眺める。
「やっぱり、ここに居たのか」
背後から声がしてエースは振り向く。
グレッグの実兄であり、エースにとっては親戚の叔父さんのような存在である、ドレッドがエースの横に静かに腰を下ろし、一緒になって、町と星を眺め始めた。
「グレッグのことは嫌いか?」
ドレッドが柔らかい口調でエースに尋ねた。
「そんなことはないよ。嫌いなんてことはない。むしろ好きだよ。普段は優しいし。なんてったって俺をここまで育ててくれた命の恩人だからね。一生かけてでも、この恩は返したいと思ってるよ。でもなんでガンボウイの話になるといつも反対するのか、分からないんだ」
「ガンボウイがどれほど危険か。知っているだろう」
「ああ。知ってる。だけど、俺は真剣なんだよ」
エースは憤りを訴えかける様に、ドレッドを見つめた。