三つの職業
「明日から君には訓練兵達と一緒に鍛錬を行って貰うよ」
ルージュ一行と別れ、訓練兵達の屋敷へ向かう馬車の中で対面に座るジードが優しく言った。
ジードは和らげな雰囲気だが、何処か本性を隠した鷹のような鋭さも伺える。とってくわれることはないだろうが、エースは緊張していた。
「そんなに緊張することはないよ。この国にはガンボウイの他にも三つ職業があるのは知っているかな?」
そんなエースを見透かしたようにいう。
「ガンボウイの他にはサーベルナイトですよね。もう一つは何が?」
「よく知っているね。そう。一つはサーベルナイト。もう一つはヌーチャーミドル。最近この国で新たに作られた職業なのだよ。サーベルナイトはサーベルを武器とする近距離戦を得意とする兵士。ガンボウイはリボルバー銃を武器とし長距離戦を得意とする兵士。ヌーチャーミドルはヌンチャクを武器にした中距離戦を得意とした兵士なんだ。ルシアーロ国の兵団は今この三つの職業で構成されている」
やはり同じ国とはいえ、砂漠の町では知り得なかった情報が沢山あるなとエースは真剣に耳を傾けた。
「ついたよ。ここが宿舎だ」
暫く馬車は進み、やがて止まった。
ジードがエースを馬車から降りるように施す。碁盤の升目のように規則正しく白のコンクリート造りの平屋の建物が並んでいる。
「これが訓練兵たちの宿舎ですか」
先ほどまで見ていた王宮付近の建物より高さは低いが、ブルームーンタウンの民家の数よりははるかに多い。
「いかにもそうだよ。ちなみにこの宿舎のほとんどが埋まっている。つまり君の仲間、もとい、ライバルはこれだけいるってことさ」
エースはまだ見ぬライバルであり仲間を想像し、更に緊張感が高まった。そんなエースを見てジードが微笑んでいる。
「今日のところは一先ず、敷地内の主要な場所を案内してから君の宿舎へ行こう」
エースとジードは歩き始めた。
宿舎の間を抜け、しばらく歩くと、一面芝の大きな広場に出た。
「ここが三つの兵士達が共同で訓練を行う、マンスリー広場だ。明日の明朝六時に君はここに来るといい」
マンスリー広場を後にし、更に敷地内の奥に足を進める。
宿舎の五倍ほど大きな建物の前につく。
「ここは訓練兵の住む食堂だ。訓練兵にもそこまで高くはないが、毎月賃金が支給される。基本、訓練以外の時はどこへ行こうと自由だし、何を食べても良い。しかしこの食堂にくれば三食全て無料で食べられる。栄養バランスなども考えてあるし、ほとんどの訓練兵達がここにきているよ。この時間はしまっているがね」
食堂からきた道を辿り、宿舎が立ち並ぶ居住区の方へ戻った。
規則正しく並べられた同じ建物の501と壁に大きく書かれた建物の前で立ち止まる。
「ここが君の部屋だ。何もないが、自由に使っていい。鍵を渡しておくよ。色々と不安はあるだろうが、新人訓練兵には最初は必ず先輩訓練兵がつき、色々と教えてくれることになっている。明日の朝、君の担当訓練兵がこの部屋に迎えに来る手筈だから君はそれに従えばいい。実はホーキンス様が兵士をスカウトするなんてことは滅多にないんだ。だから自信を持っていい。私も期待しているよ」
「はい。ありがとうございました」
エースは深々と頭を下げる。ジードは何処かへ去っていった。貰った鍵を挿して部屋の中へと入る。
中は白色の綺麗な壁紙が貼られ、隅に木の机と椅子。その横にシングルベット。その前方にはタンス。クローゼットなどが置かれている。なんとも簡素な部屋だった。
エースにはそれが嬉しかった。初めての一人暮らし。これからこの部屋をどんな風に自分色に染めて行こうかと楽しみに思いつつ、荷ほどきを始めた。