しばしの別れ
エースは目前に捉えた王都の絶句した。
まるで異世界か未来の世界にタイムスリップしたかのような。とにかく、自分がこれまで住んでいた町とは別の世界で、同じ国であるとは思えなかった。
ブルームーンタウンの建物は木造で、せいぜい高くとも二階建ての建物だ。しかし、ここでは何十階建てだろうか。数える気にもならないほどに高い、白を基調とした、組積造の建物がいくつも建ち並んでいる。
一つの建物にブルームーンタウンの町人が全員収容できるのではないかとエースは思った。その建物は見渡す限り、奥まで続いている。丘へ登れば町全体を見渡せるブルームタウンの何倍、いや何十倍、何百倍あるのだろうか。
見上げれば首が痛くなるような高い建物には建物と建物を繋ぐ、橋のようなものがかかり、そこを馬車や人が歩いている。
どうやらこの街では地に降り立たなくとも移動が出来るらしい。
さらに異様だったのが、大きな鳥?いや、一度なにかの文献で見た、プテラノドンといった古代の恐竜に近いような大きな生き物が、その背に人を乗せて運んでいた。
過ぎていく景色を何度も振り返り眺めているエースのリアクションを見てフフと笑った。
「ついた。おりるわよ」
王都に入ってからはあっという間に感じた。
あらゆる高い建物よりも、一番高く、広い建物の敷地に入ったところで馬車が泊まり、降りるよう、ルージュから施された。前を行っていた馬車から、ホーキンスや他の王族達も降りてきている。王宮の門の前では、召使か執事と思しき服装の男女が、王族達を迎えていた。
「ここが王宮…。つまりここは庭ってこと?」
エースは建物の前にある、一面緑の、芝が綺麗に植えられた空間を指指して言った。
「ここは王宮ではないわ。この門をくぐってさらに進んだところに王宮はあるのよ」
ルージュはやはり、エースのリアクションを見て楽しんでいる。
「長旅お疲れ様でした。ルージュ王女、エース殿。王都の景色はどうですか?」
「何というか…。言葉が出ません」
ぽかんと口を開けたままいうエースにルージュとホーキンスと王族一同は声を出して笑った。それは決して嫌な意味ではなく、純粋に自分のリアクションを見ての笑いだとエースは分かっていた。
「さあ。貴方と私達はここでお別れです」
ホーキンスは仕切り直すように寄れた肩のエースの服装を手で直しながら言った。
「貴方はこれからそこにいるジードと共に訓練兵達の住む屋敷へと向かって貰います」
ホーキンスが門の前に立つ、白いキトンを身に纏った腰の曲がった老人を指差すと、その老人が頭を下げた。
ホーキンスは片膝を着いて、エースと目線を合わせた。
「エース。伝説のガンボウイへの道は辛く厳しいものだ。それだけではなく、これから君には、他の人なら味合わなくて済む、苦しい試練もいくつも訪れるだろう。だが、君なら全て乗り越えられると信じている。そして、誰よりも強くなると。王女もそれを願っていることでしょう」
ホーキンスは大きな手で、エースの肩を強く叩くと「さあ。いきましょう」と言って颯爽と馬車に乗り込んだ。
「ここにいれば、きっとまた会えるわ。成長した貴方の姿を楽しみにしてる」
エースより少し背の高いルージュは少しだけ屈んで、エースの右頬っぺにキスをした。
顔を真っ赤にしたエースにフフと微笑んで、「じゃあね」と手を振り、馬車に乗ってあっという間に行ってしまった。
エースはキスされたほっぺを右手で押さえながら、ぼうっとした表情で手を振り返した。