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ガンボウイ  作者: 松宮 奏
一章
13/16

王都へ!

「でもなんで、あの白髪の王族の方が歌を歌い出したのかが分からない」


「ああ。あれは私のユーモアよ。(歌って時間を稼げ)と紙に書いていたの。そしたら、爺。王宮に伝わる勇気の出る歌を歌ったのよ。自分で自分を鼓舞しながら歌っていたの。後から思い出すと、可笑しくて笑っちゃったわ」


 爺とは大聖堂で熱唱した。白髪の王族のことだろう。   


 エースの疑問に、ルージュは悪戯を企む少年のように無邪気に答えた。

 自分と自国の危機だというのになんという肝の座った王女だと感心すると同時に、呆れた表情で、笑うルージュを見つめた。


「つまりは、大聖堂で起きた全ての出来事がエース、貴方の術中だったわけですね」


 ホーキンスがニュッと首をエースに近づけて問う。エースは一瞬たじろぎながらも答える。


「たまたまさ。全てが運良く、上手くいっただけだ。もしクラウンが眉間ではなくて他のところを狙っていたら、俺は死んでた。王宮軍の到着がもっと遅れていれば、みんな助からなかったし」


「おい。エース。王族の方になんて口聞いてるんだ」

 エースの耳素で怯えた声でドレッドが言う。


「申し訳ありません。不慣れなもので」


 慌ててエースが頭を下げると、ホーキンスが身に纏っていたマントをバサリと翻した。「ヒイ」と声を挙げてドレッドが軽く飛び上がった。


 ホーキンスがエースに顔を近付ける。

 その表情が笑顔に変わった。


「大丈夫ですよ。そんなこと。貴方は王女の命の恩人ですから」


「ドレッドさん。ホーキンスは見た目は怖いけど、優しいひとなのよ」


 ホーキンスの一挙手一投足を必死に目で追っているドレッドにルージュは笑った。


 良く笑うんだなという気持ちで、エースはルージュに視線を送っていた。

 その視線の間に、ホーキンスが割りこんだ。エースは驚いて声を上げそうになる。


「話は分かりました。お疲れのところをありがとうございます。貴方の銃の腕。頭の良さ。そして、その計画を実行する度胸と成功させる運。これは今回の働きの報酬とも考えて頂いて今から言う、二つの内、どちらか一つを今すぐこの場で決めて頂きたい。一つ。王女を救っていただいた謝礼として、貴方たの言い値で、望むだけの財産を差し上げます。そしてもう一つ」


 ホーキンスは一呼吸間を空けた。


「王直属の兵士、ガンボウイ見習いとして、王都で働いていただきたい」


「!!!!!!!」


 驚きの声を上げたのはドレッドだった。エースは言葉も出なかった。


 無理もない。見習いとはいえ、王直属の兵士だ。王都に住むことになるのだ。基本的に身分の繰り下げや繰り上げなどがない。あるとすればリボルバーアサイメントくらいのものだ。大抵の国民が生まれてから死ぬまでを同じ身分で過ごし、居住区も身分毎に分けられていて、砂民が王都に住むなんて話は聞いたことがない。つまりそれは身分の格上げの可能性も含まれているということだ。


 何もかもが前代未聞だった。


 それに王直属の兵士になれば、あらゆる訓練や、教育を受けられ、エースが目指している、伝説のガンボウイへ確実に近付ける。

 

願ってもいない話だった。だけど…。


「答えは一つ目。財産の方でお願いします」


 ホーキンスもルージュもドレッドも全員が虚を突かれた表情になった。


「いったい何故?」ホーキンスが大きく首を傾げたまま問う。


「俺は…私は、この町が好きなんです。賊によってこの町はみるも無残に破壊されてしまいました。だから、町を元通りに出来るくらいのお金をいただきたいんです。伝説のガンボウイになるには近道だと思うけど、それは実力でなってみせるから」


 ホーキンスが部屋に響き渡るほど大きな音で拍手をした。


「ほら言ったでしょ」ルージュが何故かまた自分のことのように誇らしげにホーキンスに言った。


「合格です。素晴らしい。貴方の返答次第では、適当な謝礼だけ渡して、二度と関わりを持たないつもりでしたよ。貴方みたいな若者が、未来のルシアーロには必要だ。是非私達と一緒に来てください」


「いや…。あのだから…」


「この町の修復にはもう既に取り掛かっているのよ。だから何も心配はいらないわ」


 試されていたと分かったエースは本当に信用していいものかと僅かに不安がよぎった。

 だが、町が元通りになるのなら良かった。


「一つ。お聞きしたいことがあります」


 エースはホーキンスと話す口調のまま、ルージュに向けて言った。


「酒場にいた店主。グレッグはどうなりましたか」


 部屋の空気が一気に重たくなったことでエースは聞かずとも答えを察した。

「グレッグは…。助からなかった。すまない」


 答えたのはドレッドだった。

 ドレッドが謝ることなんてないのに。


 エースは視線を落とした。

 ホルスターからグレッグから受け取った銃を引き抜いて、撫でる。目を閉じると幼少期からのグレッグとの思い出がいくつも昨日のことのように蘇る。


 そして、瓦礫の下で、グレッグが最後にくれた言葉を、思い出した。


 エースは自分が進むべきみき道へ進もうと決めた。


「俺を王宮へ連れて行ってください」





 王宮へ行くことが決まったエースは、荷造りのために、民家から外へ出た。


 雲一つない空が、容赦なく太陽の光の雨を降らしている。

「じゃあ。あとでね」と肩を叩いてきたルージュに右手を挙げて応えた。


 昨日の出来事が幻のように、町に充満していた、煙と砂塵は消え去っていた。

 昨日の出来事が幻ではないと教えるように、町の建物は無残に倒壊していたが、甲冑を着た兵士達と町の人々が復旧に当たっている。


 隣にいたドレッドと抱き合う。もう言葉はいらなかった。


 新たなる未知の世界へ。

 これから旅立つエースの胸は、燦々と輝くあの太陽のように、希望に満ち溢れていた。




 ーーーーーーーーー




「いってしまったな」

「ああ。寂しくなるよ」


 エースの乗った馬車を見送る、二人の男の姿があった。

 ドレッドとお腹に包帯を巻いて、ドレッドの肩にもたれ掛かるようにして立っている、グレッグだった。


「でも本当に良かったのか?別れの言葉も言わないで」


「いいんだ。あいつにとってこの町を離れるというのはきっととてつもなく大きな決断だった。鈍らせたくなかったんだ。きっと、大きくなったあいつとまた逢えるだろう。その時にちゃんと謝って、酒でも振る舞ってやるさ」


 ドレッドどグレッグは乗せた馬車が見えなくなっても、ずっとエースのことを見守っていた。


このお話にて第一章が終了しました!

これからの、新天地でのエースの成長に乞うご期待ください。

良ければブックマークや評価などを気軽にしていただけると嬉しいです☺︎

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