表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガンボウイ  作者: 松宮 奏
一章
12/16

エースの術中

目を開くと知らない女性の顔のドアップがエースの眼球レンズ一杯に広がっていた。


「あ、起きた。ドレッドさん。目を覚ましましたよ」


 その声で女性の正体がルージュだと分かった。

 賊から逃げる時についた煤や砂は綺麗に落とされ露わになった顔は、パーツ一つ一つが整い、年相応の無邪気さの中に荘厳さを感じさせる、端麗さがあった。 

 着用していたドレスも煌びやかなライトグリーンの物に変わっていて、いかにも王女といった出立だ。


 ルージュの姿を改めて見て冷静になったことともう一つの別の感情で、エースは言葉を発すことが出来ず、とりあえずはベットの上で身体を起こした。


 見たこともない部屋だ。恐らく何処かの民家を借りて寝かしてくれたのだろうとエースは悟った。


 右手に温かい感触があり、見るとルージュの手が包み込んでいたので、驚いて反射的に外してしまった。

「エース!」部屋に入って来たドレッドがエースに駆け寄った。


「よかった。何が聖戦だ。本当に良かった。ガキのくせに。でもありがとう。びっくりさせやがって。助かって本当に良かった」


 顔中を涙にし、安堵と驚きと怒りと皮肉と感謝の言葉を一度に浴びせながら、感情の変化に合わせて、エースに対し、ハグとビンタを繰り返した。


 その光景を見ていたルージュが「フフ」と口を押さえて笑う。

 エースはその笑顔に思わず見惚れた。


「お目覚めですか。スニョーレ。この度は王女様の命をお護り頂き、心より感謝を申し上げます。貴方のお陰で国が救われました」 


 大聖堂で甲冑の兵士達の指揮をしていた長い金髪の男が、エースに深々と頭を下げた。 

 その男の登場に、ドレッドはエースから離れて背筋を伸ばす。

 金髪の男は二メートル近い大男で右目と頬には大きな傷があり、幾つもの危機を乗り越えて来た、修羅の様な、野生の肉食獣のような、一見して、只者では無いとわかる雰囲気を携えていた。

 ドレッドが思わず背筋を伸ばしてしまう気持ちも分かる。


「お疲れのところ申し訳ないが、エース殿に少し質問とお話しがある。実は私、賊のガンボウイと貴方の聖戦を少し拝見していたのだ。年齢に似つかわしく無い、素晴らしき銃の腕前であったが、王女に話をお聞きしたところ、あの聖戦も何もかも、大聖堂で起きたこと全て、貴方の計画だったとか。その話を是非詳しく聞かせて頂きたく」


 エースはルージュに視線を送った。


「彼はルシアーロ国直属王族護衛軍最高軍団長のホーキンスよ。貴方のことを少し話すと気になったみたいで。酒場から大聖堂へ行く道中、貴方が私に話してくれた計画をホーキンスにも話してあげてくれる?」


 何故か自分のことのように誇らしげなルージュに言われ、エースは大聖堂で練っていた計画について話し始めた。

 


       

 グレッグがいた酒場から大聖堂へ向かう道中、ルージュの元に伝書鳩が届いた。その手紙にはあと数刻で王宮から軍が来るというホーキンスからの手紙だった。

 実は賊に捕らえられていた王族が、捕らえられる前に、同じく伝書鳩で助けを求めていたのだ。

 その手紙を見て二人は助けが来るのを待とうかと言う話にもなったが、明確な時間が記載されていないということと、人質が惨殺されないとも限らないため、大聖堂へ向かうという結論に至った。


 そこでエースが考えついたのが、人質を殺されず、王宮からの軍が来るまでの時間稼ぎにもなり、あわよくば属を退治出来る計画だった。


 計画は既に、大聖堂にエースとルージュが到着した時から始まっていたのだ。

 

 身廊に姿を現した時、エースがまず眼をつけたのは、賊達の腰元だった。

 ガンボウイの格好は一見してすぐに分かる。賊の集団に数人いた中でも明かに高価なホルスターを身に付けていたガンボウイが、ドンの横で偉そうに腕を組んでいるクラウンだった。


 その時点で恐らく、この賊一番のガンボウイはクラウンだと予感していた。

 その予感は「聖戦を申し込む」と宣言した時のクラウンの光悦した表情で確信に変わる。

 クラウンも(強さ)と(傲慢)に支配されたガンボウイなのだろう。


 クラウンが自己顕示欲とプライドが高い人間だと察したエースは、ドンとの会話の中で、敢えてクラウンを挑発する様な発言を連発した。

 クラウンはエースの思惑通り、挑発に乗り、聖戦を受けた。


 歳も経験も体躯も何もかも劣る「ガキ」に侮辱されたと感じているクラウンは、その屈辱をはらすためと仲間である賊達への自己顕示のため、一番派手で、テクニックのある殺し方をしてくる筈だとエースは読んだ。

 その殺し方とは、眉と眉の間。眉間を撃ち抜くことだ。


 聖戦が始まり、三歩進んで振り返った時。エースは得意の早撃ちをせず、眉間に来るはずの弾丸を避けるため、体制を低く変えたのちに、ドレッドから預かった銃から弾丸を放った。

 ドンとの会話の最中に、天井に向けて発砲し、早撃ちが得意だとわざわざアピールしたのは、この一瞬のためだ。


 プライドの高いクラウンなら、早撃ちが得意と言えば早撃ちで倒そうとしてくる筈だと思ったから。

 

 この聖戦の勝利が認められ、賊達が帰国したら万々歳ではあったが、ことはそう上手くは運ばない。

 しかし、それも計算の内だった。

 そもそも聖戦自体が、王宮からの軍を待つための時間稼ぎだったのだから。


 そして賊のドンがエースに痺れを切らせ始めた時、捉えられていた、白髪の王族が歌い始めたのもエースの作戦だった。


 何故エースの作戦を白髪の王族が知っているかというと、エースから賊の手に渡り、賊の手から白髪の王族に渡った、あの手紙だ。


 エースは王女の安否について書いてあると言って紙を渡したが、実際違っていた。

 賊には分からないように、ルシーアーロの古語で「時間を稼げ。助けが来る」とルージュに書いて貰っていたのだ。


 全てはエースの術中だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ