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ゲンコツマッサージ

作者: 鈴朗

ある昼間のこと、小屋を見つけました。新築とも言えず、そこまで廃れているわけでもなく、かといって馴染みのある小屋というわけでもない、とても不思議な小屋でした。小屋の前に看板がありました。「ゲンコツマッサージ1回2000円」。何とも言えぬ値段と内容でした。しかし好奇心というのは目を曇らせゲンコツマッサージを魅力のあるモノにさせます。

「入ろうか」

私はそう決断し中に入りました。


ドアのベルが鳴り響きます。中は入ってすぐ右にカウンターがあり奥には椅子が1つだけポツンとありました。カウンターの後ろにある待合室から中年の女性がゆっくりと出てきました。顔は老いを誤魔化す為か厚化粧をしており一見若々しく見えました。スタイルは抜群によく、ヒールによって脚の長さはさらに強調され何とも妖艶な雰囲気を漂わせていました。

「いらっしゃいませ···私ゲンコツマッサージ店を営んでおります真鍋(まなべ)と申します。」

真鍋さんは深々と頭を下げた後顔を上げニコリと笑いました。笑顔で浮かび上がったほうれい線がさらに魅力を引き立てました。あぁ何と美しい。

「ところでゲンコツマッサージって何なんですか?」

当たり前の疑問と言えばその通りですが聞かずにはいられませんでした。

「ええ、ゲンコツマッサージとはその名の通り頭にゲンコツを加えることで脳を活性化させ、肩凝り、腰痛、眼精疲労そして頭皮の血流促進を促し、お客様の身体を隅々まで健康にするマッサージでございます。」

やはり聞いても訳の分からぬマッサージ方法でしたがここまで来たからには後に引けません。最近肩凝りと眼精疲労が気になっていたところなので受けることにしました。

「えーじゃあゲンコツマッサージお願いできますか?」

「えぇ…かしこまりました。そちらの椅子にお掛けください私は少々準備がありますのでしばらくお待ちください。」

という訳で奥にある椅子に腰掛けました。


「お待たせしましたぁ」

そう言ってカートを引いて真鍋さんがやって来ました。

カートにはよくわからないオイルやら香水、マッサージ機等々が置いてありましたが中でも1番視線を奪われたのはボクシンググローブでした。少し真鍋さんにマッサージとしては似ても似つかぬ淫乱なマッサージをして貰えるのではと期待してた心もありました。ですがそんな事は無いんだよとボクシンググローブが私を現実に引き戻しました。

「ではいきますねぇ?」

そう言うと真鍋さんはオイルを手に取り、私の髪の毛にオイルを馴染ませていきました。

「これは特別なオイルで髪の毛から頭皮にオイルが染み込んでゲンコツのダメージを最小限にするために必要なんです。痛くありませんか?」

「いえ、大丈夫です」

メントールが入っているのか少し髪がスースーしました。

しばらくして、真鍋さんはオイルを馴染ませるのやめてタオルで手を拭いた後、ボクシンググローブをはめました。あぁいよいよだ。いくら女性とは言えども恐怖心が拭えることはありませんでした。

「だ、大丈夫ですよね?安全ですよね?」

私は不安になり震えた声で真鍋さんに尋ねました。

「えぇ、大丈夫ですよ。ご安心ぐたさい」

真鍋さんはまた綺麗な笑顔を見せ優しい口調で言いました。

「では始めますね?」

ごくりと唾を飲み目を瞑りました。

「ふん!」

真鍋さんの声と同時に私の脳天に衝撃が走りました。脳内に電流が流れ、それが身体の血管を伝うように走っていきました。真鍋さんは続け様に何発も私の頭にゲンコツを加えました。その度に私には電流が流れ全筋肉、全組織が呼応され徐々に熱を帯びていきました。どんどん電流が激しくなっていき血が煮えたぎる程の熱も感じました。そして突然私は意識が飛んでしまいました。目の前は真っ暗。私は気絶してしまったのです。


目が覚めると待合室のベットで私は寝かされていました。右に視線を向けると誰かがこちらを見つめていました。

「目が覚めましたか?少々刺激が強過ぎたようですね申し訳ございません。」

頭がふらついて視界がボヤけていたため、その声が真鍋さんとわかるまで少し時間がかかりました。

「けど、マッサージの効果は確実に効いたと思います。どうですか?」

どれ、落ち着いてから私は少し立ち上がって身体を馴らしていきました。するともう効果絶大と言わんばかり。身体が物凄く軽いのです。目もこれまで以上に冴え渡り、肩凝りなんて無縁と思う程肩がよく動きます。凄い!少し猫背だった私の背中もピンと垂直になっていました。こんな素晴らしいマッサージがあったなんて。私は感涙を覚える程に嬉しくなっていました。

「凄いですよ!身体がほら、こんな」

飛び跳ねてその効果を一生懸命真鍋さんに伝えました。

「おほほほ、喜んで貰えて嬉しいです。またおこしください」

「はい!絶対また来ます!ありがとうございました。」

私は外に出るまで何度も真鍋さんにお辞儀をして店を出ました。いやーー気持ち良かった。良い店を見つけた。私は眩しく輝く夕日に背中を押され、スキップしながら帰りました。


1週間後、またゲンコツマッサージを受けようと例の小屋に向かいました。しかしもうあの小屋はありませんでした。

「あれ?おかしいな」

ランニングをしていた男性が通りかかったため聞いてみました。

「あのーすみません。ここにゲンコツマッサージを開いていた小屋ってありませんでしたか?」

「へ?何それ?1年間ずーっとここランニングしてるけど、そんなの見たことないねー」

「そうですか、ありがとうございます」

何とも不思議な出来事でした。ゲンコツマッサージ。どこかあなたの近所でありますか?あったならぜひ。オススメですよ。

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