1. 転生したのは...お姫様!?
差し込んだ柔らかい光に目をうっすら開ける。
見慣れない天井、それにふかふかなベッド。
まだ夢を見てるのかあ、ともう一度眠ろうと顔をうずめる。
すると、ガチャっと音がして、それから声が聞こえた。
「ルア様、朝でございますよ」
そう言って私を覗き込んだのはきれいな顔をしたメイド服の女の人。
ルアって私のことかな、ずいぶんそれらしい夢だけど...。
「ルア様、お誕生日おめでとうございます。今日はいよいよパーティですね」
私誕生日なのか、と思っていると、丁寧に起こされて、私は目を擦る。
ベッドから起き上がると、そこはかなり豪華な部屋で、お姫様のように可愛らしい部屋だった。
あくびをしながら窓の方へと歩いていくと、そこには中世ヨーロッパのような、素敵な町が広がっている。
そっか、私お姫様になった夢を見てるのかぁ。
「そういえば、昨晩は大丈夫でしたか?」
そう尋ねる女の人をキョトンと見る。
「何やら酷くうなされていたようでしたので... ミソラとか、トラックが、どうのとか......」
心配そうに言う女の人を見る。
ミソラ...? トラック...?
そう考えた途端、頭が急に締め付けられたように苦しくなって、倒れ込んだ。
「ルア様!」
駆けよってきた女の人の声は遠のいていく。
赤信号。私の隣には笑う友達がいて、それで――
そっか、私、トラックに轢かれてーー
はあはあと息をしながら、頭に蘇った記憶から私はあることに気がつく。
私、これ、転生したってこと.......!?
「ルア様、大丈夫ですか!?」
ようやく荒い呼吸が落ち着いて、隣に座り込んで介抱してくれた女の人ーーティービアに頷く。
「でも、少し1人にさせて」
そう伝えると、ティービアは困惑したようだったが、
「何かあったら呼んでくださいね」と言い、部屋から出て行った。
ええええええ!?
心の中で叫ぶ。
私、え、これって転生ってやつだよね!?
前世の私は平凡すぎる女子高生だった。
名前は、宮下明里。顔もそこそこ、頭もそこそこ、秀でた特技も特にない、そんな女子高生だった。
でも、最近は初めての彼氏もできてウキウキだったのにな...
ああ、好きな歌手のライブもあたったのに。あの映画も楽しみにしてたのにな。
思い返すと、楽しい日々だったように思う。
なのに事故で死んでしまうなんて...
しかも、死んだその日は私の誕生日だった。
一緒にいた親友、美空はどうなったのかな。
轢かれた直後、なんか黒いモヤみたいなのが見えたような... ああ、あれ死神かな。そういうのいるんだなー。
まあ、短い生涯だったなあ...
そんな風に考えながら、ぼーっと鏡の前に立つ。
現在の私、ルア・シャルイローズは、このレーヴクォーツ王国の王女。
レーヴクォーツなんて国は聞いたことがないから、ここはおそらく異世界だろう。
顔は間違いなく前世より可愛いけど、なんだか、外国人っぽくない。瞳だって普通に茶色い色だし、髪だって茶色い色だ。
転生しても私は普通ってことか......
私つきのメイド、ティービアが言うには、今日は16歳の誕生日で、パーティがある。
なんか、すごい偶然だけど、なんでお姫様に転生したんだろう...?
でも、まあ、せっかくの第二の人生、楽しもう!
しかも誰もが一度は憧れる姫ライフ!
高級そうなお菓子とか食べて、可愛いドレス着て、だらだらすごそう!!
ああああ、もう姫なんて嫌... 明里に戻りたい...
あれから、だらだらしよう! と意気込んでベッドにダイブしたところへ、ティービア率いるメイド軍団が入ってきてメイクやら、髪やら、ドレスやらと連れ回された。
極め付けは、このガッチガッチに締められたコルセット...!
もう、苦しすぎて倒れそうだ。
ドレス自体は憧れてたのに近い、綺麗な澄んだ青のドレスだ。
網みたいなの(名前なんてわからない)は、丁重にお断りさせてもらった。
ティービアは、網を入れないなんてと驚いたようだったが、私がまだあまり具合が良くないと思っているらしく、渋々了承したようだった。
幸い、メイクと髪型は現代っぽくて安心した。
あの教科書とかで見るような、白いカツラをかぶせられるのかとヒヤヒヤしたけど、異世界だからそれはないのね。
「今日のパーティ、楽しみですね、ルア様」
ほっとしていると、ティービアがそう声をかけてきた。
「う、うん、そうね」
うん、ほんとはめんどくさい。なんて言えない。
このパーティはいわゆる社交界デビューだ。これからきっと婚約とかさせられて、立派な王妃になるべく、政治やら、マナーやらを学ぶハメになる...
非常に面倒臭い。
なんなら、このコルセットも嫌だ。
ああ、私の第二の人生、こんなよくわからない世界で、面倒臭い生活しないといけないの...!?
「大丈夫ですか..?」
打ちひしがれている私を見て、ティービアは心配そうに尋ねる。なんとか取り繕って頷く。
「今日のパーティ、隣国のブルークヴェレ王国の王子も参加するのですよね」
うっとり言うメイドの1人に思わずくわっとそちらを向く。
「王子...!?」
「どうしたのですか、ルア様もずっと楽しみにしてらしたのに」
「まあ、婚約とかもあり得ますね」
そうメイド達は盛り上がる中、私は項垂れる。
いや、王子とかめんどくさいオブめんどくさいじゃん!
大概、こういうのは政略結婚で、そこに愛はないわ。
しかも、映画をよく見ていた私は知っている... そういうのは大体顔が良くない!!
私はきついコルセットに耐えながら、大きくため息をついた。
そして、夜になり、私の誕生日パーティが始まった。
しかし、私はずっと玉座に王である父と王妃の母と共に拘束されていた。
優しい両親は、「自由に動いてきなさい」と言ってくれるけど、次々に色々な人が挨拶に来るため、動けない。
ああ、あそこに見えるスイーツの山が輝いて見える...
うう、今日まともにご飯食べてないのに...
お腹がならないか心配しながら、スイーツを眺めていると。
会場の扉が開いて、衛兵の声が響く。
「アクアラント様のご到着です!」
その声が聞こえた途端、父が「来たか」とにへらと笑う。
あ、これ、間違いなく婚約だ。
逃げようとも思ったが、一足遅かった。
私の前に現れたその人はーーすごく、イケメンだった。
あれ、なんかイメージしてたのと違う。
ブロンドの髪に、澄んだ緑の瞳を持つ、かっこいい彼は私を見ると微笑んだ。
「私は、ブルークヴェレ王国の第二王子、グラース・アクアラントと申します。ルア様、私とダンスを踊っていただけますか?」
ひざまずいたグラース王子に私は思わず頷いた。
グラース王子の元へと辿り着くと、すっと手を差し出された。
「お誕生日おめでとうございます」
なんだか照れ臭そうに笑ったグラース王子に「ありがとうございます」と笑顔で返す。
そんなことより、私ダンス踊れるかな...!?
頭の中はそれでいっぱいだった。
曲が流れ始め、人々はこちらを向いて、うっとりとしている。
そりゃそうか、仮にもこの国の王女と隣国の王子だもんね。
気付いたら曲は終わっていて、私は安堵する。
正直、グラース王子の顔を見る余裕すら無かった。
足踏まなくてよかった...
安堵していると、いつの間にか、グラース王子はひざまずいていた。
その光景にはっとする。まずい。
「ルア様、私と婚約していただけませんか?」
にっこりと王子様スマイルでこちらを見るグラース王子を見てから、ちらりと両親の方を見る。
そこにはうっとりとする両親がいた。
会場の雰囲気もすっかりそれらしくなっていて、とても断れる雰囲気ではない。
私は聞こえないくらいに小さく息をつく。
「分かりました。お受けします」
そう言うと、グラース王子は私の手を取って、ちゅっと手の甲にキスをした。
それから私はたくさんのご令嬢やら、ご子息に囲まれてお祝いの言葉をもらった。
チラリと振り返ると父と楽しそうに語り合うグラース王子が目に入る。
うう、思わずオッケーしちゃったけど、後悔だわ...
そう思いつつ、みんなに「とっても嬉しいです」などと返す。
少し会場の熱気がおちついて私はそっとバルコニーに出た。
綺麗な星空に見惚れながら、前世に思いを馳せる。
親にも何もしてあげられなかったな...
友達も彼氏も何してるかな...
急に死んじゃってお別れもできなかったなんて...
思い出すとなんだか悲しくなる。
目の奥が熱くなって、思わず俯く。
「そんなに僕との婚約、嫌でしたか?」
そう言って、私の隣に立ったのはグラース王子。
「い、いえ、そんなことは...」
そう答えながら、笑顔を作ろうとしたけど作れない。
やばい、王子にこんなところ見られちゃうなんて。
「......ただ、少し不安で」
事実だった。
急に死んで、転生して、お姫様になって。
婚約も喜ぶべきところだ。予想していたのよりもはるかにイケメンだったし、文句はない。
それでも、このよくわからない世界で、堅苦しく生活するのは嫌だった。
しばらく沈黙した後、グラース王子はこちらを見て、
「ルアと呼んでも?」
と、笑う。
頷くと、「僕のことも好きに呼んで」と言った。
「もう僕たちは婚約したんだから、なんでも相談して、ルア」
にっこり笑ったグラース王子を見つめる。
そうか、グラース王子だって政略結婚なんて嫌だよね。
グラース王子は、私と結婚して、こちらの国の王になるらしい、と令嬢たちが話しているのを聞いた。
だから、グラース王子だって、きっとこの結婚には興味はないはずだ。
なのに、私に優しく声をかけるグラース王子に申し訳なさを覚える。
「グラース様も、いつでも相談してくださいね」
そこには、「私と別れたかったらそれもオッケー」という意味も込めて言ったつもりだった。
しかし、なんだかグラース王子は満足そうに笑う。
「ルア、僕は君と...」
グラース王子が何か言いかけたその時、ずっと耐えていた私のお腹がぐううと音を立ててなった。
嘘でしょ!? なんてタイミングでなるの、私のお腹!!
かああ、と熱くなった顔を向けると、グラース王子はぷっと吹き出して笑い出す。
「ごめんなさい、今日あまり食べてなくて...」
ぎこちなく笑う私にグラース王子笑いながら、
「じゃあ、何か食べようか」
とスイーツの山の方を見る。
私は目を輝かせて、頷くと、一緒にそっちへ向かう。
我慢し続けたスイーツはものすごく美味しかった。
夜、ベッドに入って今日のことを思い返す。
転生して、お姫様で、誕生日で、社交界デビューして、王子と婚約して、盛りだくさんの毎日だった。
まあ、でも、グラース王子はいい人だったから、余計、ちゃんと好きな人を見つけて幸せになってほしいなあ。
それに、私は姫ライフを認めたわけじゃないから!
なんとかして、面倒事は避けたい...!
ああ、今日は色々ありすぎて眠れないな...と思ったけど、いつのまにかぐっすり眠りについていた。
2日、3日のペースで、夜8:00ごろ更新予定です。
よろしくお願いしますm(_ _)m




