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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
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Episode8:暗躍


 ――――――――――――――――――――――――

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 ――――――――――――――――



 中心街より少し遠方に座するとあるスラム街。建物の所々に黝ずんだシミ、亀裂の入った罅が長年使われていない雰囲気を醸し出している。人の気配を一切感じさせない場所のとある他より一際目立つ上に突出した塔のような建物からここの住人たちであろう声が、複数飛び交っていた。


 内装はおんぼろな外装とは反し綺麗に改修されている。微弱な照明の下で宴会で出されるような豪華な酒や食べ物をまるで養豚場にいる畜生みたいな飲み食いする反社会組織の連中は下卑た笑い声を上げ、愉快にはしゃぎ合う。床一帯には食べ散らかした残り物で散乱している。


 王族から市民まで略奪した金品、食糧、女をこの建物に収容しては毎晩優雅に暮らしているのが分かる。ここを一言で例えるなら酒池肉林の地。


 つまり、ここは反社会組織のアジト―――。



 「おい、このブドウ酒かなりうめぇぞ!? どこで手に入ったんだ!?」


 「あのクソ王族が貯蔵している倉庫から奪ってきたんだよ、俺に感謝しながら飲めよな」


 「はっはっはっ! すげえぞこの財宝よォ?! これでオレも億万長者だぜ!」


 「てめえだけのもんじゃねえんだよ! 調子に乗るな愚図が!」


 「お前が使ってる女、もう駄目だ、ビクリとも動きやしねェ、捨てていいか?」


 「馬鹿!何勝手に捨てようとしやがる! 文句言うんだったら自分で捕まえてこい!」



 白ローブと布切れで顔を隠した複数の男たちは自分たちの欲望を満たす空間となっている中で、一人の男が片手に妖しく光る水晶玉をゴロゴロと弄りながら部屋の奥に歩み寄る。他の連中とは違う黒ローブを纏い、布切れを覆い被せてはおらず、はっきりと顔を露わにしている。


 「ボス……起きて下さい。緊急事態です」


 ―――❝ボス❞。そう呼ばれる者は部屋の奥に設置している横長いソファで体重を後ろに傾けて静かに眠っており、黒ローブの男に声かけられても依然と動きはしない。その様子を見ても尚、話しを続ける。



 「先程、仲間たちはいつも通りに町を徘徊していましたが、謎の黒い服を着た女の邪魔が入り、混戦中。こちら側が押されているとの事です」


 水晶玉には今現在仲間たちのいる場所を隈なく映し出されており、そこにはタミルとオゼルの姿も。


 「敵はこの男女二人組。男の方は仲間のうちの三人ほど拘束されており、恐らく尋問しているのでしょう。そして一番厄介なのがこの女。同じ姿形した分身が至る所で私たちの邪魔をしています。この女の能力の一つでしょう」


 「………」


 今どういった状態なのかを把握した男は上体を起こし、虚ろな眼光で映し出されているその邪魔者たちを確認する。仲間たちの修練された動きに対していとも簡単に次々と斃していくタミル、オゼルの戦闘を見て、声色を低くする。



 「………国の憲兵ではないな。ただの傭兵でもない。何者だ、こいつらは………?」


 「見た所、女の方は東方に言い伝えられる❝ニンジャ❞で間違いないでしょう。しかし手枷を嵌めたこの男は短剣で戦っている姿しか視認出来ません。あまりこれといった特徴のない傭兵でしょう」



 タミルに深い関心を持っているのか彼女には特に高評価を与えている一方で、オゼルの戦い方を見ては単調な動きしかしていない為に見下した発言をしては彼を嘲笑する。



 「………さて、この男より分身の使えるこの女を先に潰すのが得策かと。彼女に主導権を握らされてはこちら側としても、あまりにも不利。それに、彼女の分身に我々の身元を特定されては困ります。ここは私が指揮官として仲間たちを先導したいと思いますがいかがなさいますか?」



 「………お前に任せる。頼んだぞ」



 男は再びソファに横たわり眠りの準備に入る。黒ローブの男は水晶玉の光を消し、踵を返す。楽しそうに大はしゃぎしている仲間たちに指令を言い渡す。彼らは嫌そうな顔つきではあったものの、それぞれの得物を手にすると一目散に建物の外に出て、応援へと駆け付けに行く。黒ローブの男も後を追うように足元から眩しく輝く❝魔法陣❞が展開され、白い光に包まれると次の瞬間にはそこには誰も立っていなかった。


 騒々しかった部屋が一変して静寂が訪れる。



 「………」



 ふと、直ぐに立ち上がってはガラスのない大きな窓まで歩く。夜空を見上げると暗雲で覆い被さっていた月が徐々に顔を現す。そして、男も例外ではなかった。



 ツンツンとした少し短めの白髪。色素の薄い唇と肌、綺麗な顔立ちに力強い眉毛。それに合わせるように両肩に白銀の鬣を思わせる毛皮を纏ったロングコートを全開に着こなし、中からぱっくりとV字に割れた水色服が隠されている。下を見るとタイトに着た白い長ズボンと光沢した黒ロングブーツ。軽く百九十センチは超えている長身スタイル。その姿から百を優に超える組織を統べるカリスマ性を感じさせる。



 「………あの男の顔、何処かで見た事あるな。それもここ最近でなく、何年―――いや、何十年も前に」


 彼の独り言に誰も返事はない。吐いた白い息がフワフワと月へと漂う。この地の少し冷えた夜風が肌を刺激する。


 「………フフフフ」


 月を一点に見つめ、一人、ただ、今までにない窮地に追い込まれこの戦いに興奮を覚えているのが自分でも理解する。


 「楽しませてくれよ―――」



 オゼルとタミル、そしてボスと呼ばれる男。彼等が相まみえ、武器が交じりあうのに残り一時間後。


 この周辺が、戦場と化するタイムリミットが刻々と迫ってくるのである―――。

 

  

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