Episode34:円形闘技場
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メディオラ帝国二日目の朝。
俺たちは宿屋で朝食を摂った後に師匠が指定したコロッセオのところまで歩いていった。まだ出立した頃にはまだ日差しも出たばかりか空気が冷たかったが次第に太陽の光芒が熱を帯び始めてくれた。夜明けを通して、影法師が夥しい影の中でちかちかした。日差しが靄の間から差してくると、見分けが付かない朧げな影の中で一つ、また一つと人影を現した。それから顔の輪郭がはっきりと浮かび上がって来て、おそらく夜更かししてたであろう人や任務を終えて帰宅途中の夜間警備兵などと認識が出来るほどの明るさが広がっていった。遠い山脈から冷気が通り抜けるとメディオラ帝国の舗装道路に車輪と馬蹄の鋭い音が聞こえてきた。あちこちの路上から人々が姿を現し始めたのだった。するとどこからともなく大きな鐘の音が鳴り出すと、たちまちに街中の鐘が唱和し出したのだった。―――これがメディオラ帝国の朝を告げる報せだ。
しかし、彼らには慣れているとは思うけど、俺にとってはあまりにもうるさすぎて耳障りで不快な気分にする。
朝日が鉛のような灰色に当たる大聖堂に目線がいく。外装からは荘厳で謁見の間と同等かそれ以上の神聖な雰囲気を醸し出している。特に気になったのが天辺に立っている彫像。片手に白刃の剣を携え、背中から翼を生やした人型の彫像だ。これはこの国が信奉する神様の一人なのだろうか。しかし、謁見の間に置かれていた十二体の神様の彫像にはなかった。いつぞやの世界を救った三天神のうちの一人という可能性もあり得そうではあるけども、これ以上は特に気にすることなく終えた。
なんやかんやで気が付くと帝都の中心地である広場に辿り着き、埋め尽くされた大群衆の人垣を掻き分けて進む。高台の時計の時刻が午前九時半を指しているのを確認する。予定してあった待ち合わせ時間が午前十時。俺もタミルも少し急ぎ足でオリュンポス城正門とは南西方角へと。この時点で目的地であるコロッセオに多くの人だかりが出来ているのが遠目で視認しながら、向かうのだった。
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「おーう遅かったな二人とも!」
手招きしながら大声で叫ぶ師匠。昨晩大量に飲んだ人とは思えないほどの声量と利発さだ。
俺たちも彼女の元へと足を運び、背後に聳え立つコロッセオを見上げる。途轍もなく巨大な建物だ。ティベリウス帝が居座る国の中枢部のオリュンポス城と引けを取らないほどで朝にも関わらず既に出入口の前で長蛇の列になって待っている。
「見ての通りの混雑具合だ。だいぶ後ろの列に並ぶようになるけど我慢しなさいな」
「凄い数ですね。これで入場制限かかって入れないなんて冗談はありませんよね?」
「約六千人が収容できるんだぞ? 基本的にその心配はご無用ね」
実際に師匠の言う通りでそんなに待つ時間もなく徐々に中へと人が入っていくのが見えた。それによって俺たちも必然的に前へと進んでいき、気が付けばあと十数人ほどで中に入れる距離までに差し掛かっていた。
「―――それで、タミル。どうだ? 何か感じる?」
「………駄目ね。周辺探索してるけど結界の媒体らしき物が見当たらないし感じない。本当に結界なんてあるのかしら」
並ぶ前からタミルは念のためとして数体の影分身をコロッセオ付近に忍び込ませていた。これは彼女が宮廷魔導士であるシェイラさんの発言や態度に終始一貫して疑っていたこともあって提案したものである。
何故ここまで疑っているかと言うと、
「魔法使いなんて所詮口八丁手八丁に人を騙す生き物よ。この結界なんて元々存在してないに違いない」
「偏見だろそれ。つか、シノビのお前が言うか?」
「失礼ね。私は本当のことしか話さないわ。そもそも人を騙すなんて真似は私の信条に反する行為よ」
「お前なんでシノビになったんだよ」
シノビと言うより、サムライ寄りなんだよな改めて。
まあ、サムライなんて言葉は前に読んだ資料でしか読んだことないからあまりとやかく言えんけど。
「でもあまり深追いはするなよ。仮に結界が作動して相手に気付かされたりしたら色々と面倒になるからな」
「アンタに言われなくても細心の注意を払ってるわよ。そこまで私は阿呆じゃないし」
「んま、それもそうだよな。お前はそういう奴だ」




