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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第2章 古代剣闘国家編
30/35

Episode29:宮廷魔導士


 ――――――

 ――――

 ―――



 メディオラ帝国、帝都。三重の厚い円形状の城壁で守られているその中心には荘厳の装飾で町全体を見渡せるほど巨大なオリュンポス城。その敷地内にメデュラ宮殿がある。


 六柱式と周柱式を持ち、強固な石灰岩の基礎で敷き並べられた古風な建築物の一室。

 そこで執り行われている宮廷会議にて、円卓に座る大人数の者がある議題に対して様々な意見を出し合っている。



 「このままではいずれ帝国が衰退していくかもしれません。怪しいと思われる者は手当たり次第捕らえていく必要があります」


 「いえ、ここは一度様子見といった方がよろしいかと。あまり行き過ぎた真似ですと国民に大混乱を招いては余計に危険な目に晒されてしまいます」


 「何を悠長なことをおっしゃいますか。そんな保全的な考えでどれほどの人が命を失ったと思っていますか。こちら側が何とか事件自体を隠蔽し続けているから良いものの。だが、それも時間の問題なのも分かりますでしょう」



 彼らは焦燥感に駆られ、苛立ちながら解決策を次々と出していくもいつまで経っても終わりの目途が見えない切羽詰まった状態が続いている。

 一人最奥の玉座に瞑目して座る若い皇帝―――ティベリウス帝もまた頭を悩ませていた。


 右側を隠すように左右非対称に前髪を伸ばした銀髪に力強い金色の瞳を宿し、頭には葉っぱの冠に赤い宝石が埋めてある耳飾りを左耳に付けているのが特徴的だ。

 在位は僅か五年であり、現在二十五歳で現皇帝として国をまとめ上げてきた若きカリスマでもある。国民からの人望が厚く、様々な問題を次々と解決してきたのだが―――。

 


 数週間前から帝都内各地で起きている連続襲撃事件に関わる手掛かりが一切見つからず、調査も進展なし。何時何処に現れるかすら分からず、唯一分かっていたのが殺され方が全て同じやり口であったことのみであり、それ以上の情報は不明のままである。

 幸い全国民にこの事件は広められていない為に普段通りの生活を過ごしてるのを見て、ティベリウス帝はやるせない気持ちでいた。

 それに加えて、




 「しかし、まさかここまで厄介事に発展するとは思いもしませんでしたが………これも全て、犯人を甘く見過ぎた帝国軍側に非があるのではないですか? もっと確りなさっておらればこうまでに至らなかったと思いますが」


 「ほう? 我々は国を守る使命の基に指導をしてますが故に、それは有り得ないでしょう。でしたら市民や農民側が推薦し、立候補なさってきたそちら側の方が問題なのでは?」


 「屁理屈を。自分たちの不手際を認めないとは見苦しいわ。私たちにまで被害が出たらどう責任を取るおつもりですか? あまりこちらの手を煩わせないで下さるかしら」


 「ですな。全く持ってその通りです。これ以上私たちの顔に泥を塗るのだけは止めて欲しいものだ」


 「自分たちは何もしないでただ席に座ってる貴族、皇族様はさぞ高みの見物であるでしょうね。下々の気持ちなんて分かるはずないでしょうに」



 各方面である農民、市民、貴族、皇族、そして帝国軍代表として選出された元老院たちは次第に互いを罵り合いにまで発展してしまう始末。

 身分や性別、地位関係なく政権を握ることが出来る元老院は違う角度から情勢を見つめ直し、より良い国造りになるだろうと考えたティベリウス帝が考案した統治機関だが、裏を返せば自分たちにとって都合が悪くなれば責任転嫁で押し付けてしまい、内部分裂を引き起こしてしまうといった欠点がある。



 なにより、ここに座る代表たちなりの矜持を持っているのがどうにも質が悪い。

 

 

 (このままでは埒が明かない。一度皆には解散してもらい、日を改めてもらった方がよさそうだな)



 そう考えたティベリウス帝はこの終わりの見えない議論を収束すべく口を開こうとすると、



 「―――そもそも。陛下はどういったお考えでしょうか?」



 一人の代表の質問によって遮られてしまう。これに続いて幾人かが連続して質問が集中する。



 「これまで我々の意見に賛同してばかりで陛下の口からは一切聞いた覚えがありません」


 「確かに。帝国軍としても総力を挙げて犯人を捕らえたい一心で会議に参加しているつもりです。これ以上不毛な言い合いする暇はないです」


 「癪に障りますが、それだけは私も同じ意見です。陛下の即断であればこの事件は直ぐに解決すると思いますよ?」


 「ですな。全く持ってその通りです。陛下ご自身の早急な対応で何とかしてくれるでしょうし」


 「陛下、どうかご決断を。農村にまで被害が出始めたら、安心して暮らせないです」


 「………」



 さっきまでいがみ合ってたのが嘘みたいに今度はティベリウス帝に向けて彼の意見を聞こうと聞き耳を立てる。対してのティベリウス帝は依然と黙り込んだまま冷静沈着さを保ち続けていた。

 やがて目を開くと、



 「すまないが、今はまだ出せない」



 ざわめきだす。

 それは帝国の実質トップに君臨する若き皇帝としての予想外な回答であったからだ。勿論、この発言を聞いて黙っていられる人はいなかった。



 「何をおっしゃいますか陛下! これは由々しき事態なのですよ? そんなんじゃいつまで経っても解決しません!」


 「ここまで会議が続いてやっと口に出した言葉がそれですか。流石にそれはないと思います」


 「そうですよ陛下。そんなんで私たちが納得できるとでもお思いですか?」


 「ですな。全く持ってその通りです。皇帝としてあるまじき発言かと思います」


 「らしくないですよ陛下。村の皆になんて伝えればいいんですか。このままじゃ皆に顔を見せられない」



 元老院たちは批判的な内容を口を揃えて言う。ティベリウス帝がこれまで国のために奔走し続けてきたのを知っているからこそ、彼の後ろ向きな物言いに動揺を隠せないでいた。

 


 「………皆さん落ち着きましょう。これでは陛下が次言いたくても言えないじゃないですか」



 そこに、玉座の隣に一人佇む者のため息交じりの声により飛び交う声がぴしゃりと止まる。



 「シェイラ………いたのか」


 「クス。ええ、最初から」



 シェイラ―――と呼ばれる女性はメディオラ帝国における唯一ただ一人とされる宮廷魔導士であり、ティベリウス帝の側近である。

 華美な装飾を施した服に、金髪を結った二本の三つ編みと葡萄に似た形の髪飾りを付けており、銀色の瞳を宿した垂れ目が印象で物腰柔らかそうな立ち居振る舞いをする。右手には赤い彼岸花を携えた豪奢な長杖を持っている。年齢的には二十代前半か、十代後半だろうか。若いながらもティベリウス帝が即位した頃から就いているため、彼にとってもかなり信頼のおける女性である。


 ただ、普段はティベリウス帝の側近である以外で彼女を見た者はおらず、忽然と姿を消しては忽然と姿が現れることから多くの者からは気味悪がられている。そして今回もまた同じである。



 「しらばっくれるとは。大事な会議があるというにも関わらず途中参加とはな。今まで何処で何をしていたんだシェイラ殿」


 「ここまでの道中で道に迷ってる人を案内してただけですよ?」


 「それは妄言ですな。貴女ほどの魔術師なら転移魔法すれば一瞬で終わるはず。嘘を付くならもっとマシな嘘を付いて欲しいものです」


 「あっははは。私信用されてないなあ」



 不信感漂う空気に耐え切れずに乾いた笑いで誤魔化すも、彼らは一向に口を止めない。



 「陛下の側近ならばもっとそれなりの自覚を持って行動欲しいですわ。全く、陛下もどうしてこんな女なんかを………」


 「ですな。全く持ってその通りです。我々としても貴女様の行いは目に余ります」


 「これが帝国の側近と考えると頭が痛い………この先不安ですよ陛下」


 「あっはは………手厳しいご意見痛み入ります」



 容赦ない猛攻に空いた左手を挙げて降参の意思を示す。

 ここまで酷い言われようだと側近としての地位を維持するのが困難になってくるが、そこを更に付け込まれるように元老院の市民代表は問い詰める。



 「この事件はどうやら神出鬼没で正体も一切不明のようです。また、内側からの攻撃に加えて体液を搾り取られたみたいな変死体が多く見つかったわけですが、これは普通の人間には出来ない芸当だと言うことは宮廷魔導士様なら理解されていると思いますが」


 「ええ、そうですね。ここまでやるにはそれなりの技術とセンスが必要になってきます。犯人は随分と手練れのようですし、私でも流石に深追いは避けたいわね―――」


 「そう、普通なら出来ない。それも並々ならぬ手練れじゃないとってことも」



 市民代表の男がシェイラに威圧を込めた声で鋭い目つきを向ける。



 「帝国の中でここまでやってのける可能性が浮上する人物は他なりません。………もう一度言います。❝今まで何処で何をしていた❞のですか、シェイラ殿?」


 「………」



 なかなか姿を見せない神出鬼没の宮廷魔導士。しかも、帝国における魔法使いとなれば彼女しかいないとなると元老院たちにとってこれは至極当然の疑問である。転移魔法によって背後を取り、操作系魔法を使用すれば同じ殺し方が出来る。そう元老院たちは考え始めた。



 緊迫した空気が張り詰められるもものの数秒後、



 「………クス」



 シェイラの含み笑いによって崩れ落ちる。



 「何度もおっしゃいますが、私はただ道中で迷ってる人を案内していただけです。それ以上それ以下の回答はありませんよ」


 「なっ………ふざけるな――――!!」



 シェイラの一貫とした態度に市民代表の男は椅子から立ち上がり、青筋を立てて怒鳴り声を上げる。静寂が落ちた室内には怒声を放った市民代表の男の荒い息遣いのみ。

 全員から注視を受けながらは怒りで顔を真っ赤にして、白を切るシェイラに今でも殴りかかりそうになったところで、



 「止さないか二人とも。今は大事な会議の途中でこれからオレが話そうとしてるんだ」



 玉座に座るティベリウス帝から若いながらも低く、威厳溢れる声が掛かる。二人はこれを受けて一時的に収めることになる。



 「シェイラもあまり神経逆撫でするような物言いは避けろ、いいな」


 「はーい」



 叱責されても悪びれる気もなさそうに軽い返事をすると一歩後ろに下がる。

 立ち上がった市民代表の男が一度舌打ちをして、渋々着席する。それを視認してから円卓に座る元老院に向けて口を開く。



 「皆がシェイラを疑う気持ちは分からなくもない。普段の行いが悪いのが原因で招いた結果だろうし、そこは否定はしない。今後は二度としないよう注意しておく」



 後方で「そんなぁ」と落ち込んだ声が耳に入ってきたがそれを無視して「さて」と前置きし、話を続ける。



 「オレの言った言葉の意図だが、今の見て分かるだろう。頭に血が上ってしまって冷静さを失ってあまり良い流れとは到底思えん。内輪同士で貶し合っていて、そこからこの事件を解決へと導く何かが生まれるか? そうではないだろう。そんな状況でオレは蔑ろに決断は下せない」



 ティベリウス帝の言葉を聞いて、元老院たちは自分たちの愚かな言い争いを振り返り決まりが悪そうに俯く。

 現皇帝として威風堂々の姿勢を続ける彼はたとえどんなに困窮な状況でも誰よりも堅実でなくてはならない。皇帝を支える統治機関の混乱を止めるのもまた皇帝の務めといった持ちつ持たれつの関係でもある。



 「一度頭を冷やしてから出直すように。今日の会議は明日に持ち越しだ。………シェイラも明日は定刻通りに来るんだぞ」



 次々と部屋を退室していく元老院たちの表情は曇りがかっている。それは皇帝に諭されたから落ち込んでいるというわけでなく、現にシェイラという不安材料を残したまま解散させた皇帝の考え方に煮え切らないままでいたのだ。これには一部の元老院たちには受け入れられないようであり、不満と焦りがその表情から色濃く出ていた。とはいえ、これについて特に言及しようにも真正面から抗議することもなく、内側に思いとどませているが。



 

 *** *** *** ***



 会議室からティベリウス帝も退室し、くたびれ果てて疲労に染まる表情を浮かべながら宮殿の入り組んだ廊下をほとほと歩いていた。

 毎回開催される会議に出席しては、特に進展なく終わる。それが数週間も続いていれば誰しも彼と同じ反応をするだろう。



 「お疲れのようだね、ティーべ?」



 隣には元老院たちから疑いの視線を一斉に浴びていた側近であり、宮廷魔導士のシェイラが空中浮遊しながら平行移動をしていた。

 あまりにも他人事に言ってくる彼女を横目で見て、深い溜め息を洩らす。

 


 「お前を庇ったこっちの身になってみろ………それと、ここではその名で呼ぶな」


 「えーなんでよ。みんないないから別に良いじゃんか」


 「ここの宮殿にもたくさん人がいるのを忘れるな。言葉遣いにも気を付けろシェイラ」


 「………はいはい。善処しますよ、皇帝陛下様」



 大袈裟に肩を上下に竦めさせて、常に気を張り続けるティベリウス帝の苦言を生返事で返す。二人がどれほど仲が良い関係であっても彼は公私混同を許さない。

 


 「それにしても、元老院たちに好き放題言わせられていいのですか? 私はともかく、陛下にとってあまりよろしくない傾向かと」


 「問題ない。これまでの難航続きでオレ含めて皆も疲れてたからついカッとなってしまうのも分かる。まあ、少なからずお前の件でだいぶ悪化したのもあるが、あまり深く考え込む必要はない」


 「逞しい限りです。流石は陛下と言ったところでしょうね」



 パチパチパチッと称賛の拍手をする音が廊下に響き渡る。それを受けてもティベリウス帝の顔は依然と変わらず暗いままでいた。


 「だがそれも時間の問題だ。これが何週間も続けばいずれ内部分裂を生み、国が割れる。それだけは何としても阻止しなければならない」



 表面上は皇帝としての立ち振る舞いを国民に示し、先導してきた羨望の対象となっているが、裏では過去の皇帝たちよりも一段と若くして就任したが故に起こる圧倒的経験不足によって苦悩している。そんな欠点を埋めるべくどの代よりも政策に力を入れては自ら現場に向かうなど皇帝らしからぬ行動に移してきた。

 だからこそ、代々受け継いできた栄華を誇る歴史の重圧によって苛まれてきたのだ。



 「気負い過ぎは身体に毒ですよ。もう少し肩の力抜いていないと、出したいときに出せなくなります」


 「お前に言われなくても分かってるさ。………はあ、お前の図太い性格が今だけ羨ましく思うよ」


 「失敬な。私の性格はそんなんじゃありません」



 万事でも楽観的な態度を貫く通すシェイラにティベリウス帝はジト目で睨み付けては、彼女の否定を吐息にして返す。だが、彼女の言ってる内容には少なからず一理あるのもまた癪ではある。

 生真面目であり過ぎるがために積み重なっていく気苦労を不真面目で他愛ない助言により解消されていくのも事実。ここは素直にその助言を受け入れる必要があると考えた。



 「………なあシェイラ」


 「はい、なんでしょう」



 おもむろに歩いてきた足を一度止めてはティベリウス帝は彼女の横顔に面を向ける。それによって、一緒に並行していたシェイラも問い掛けに応じて少し遅れて一時停止する。

 立ち止まり、振り返った先、ティベリウス帝を見詰めるシェイラの表情は変わらず微笑みを投げ掛けて彼の二の句を待っていれば、



 「………信じても、いいんだよな」



 それは思いがけない言葉であり、保っていた微笑みに一瞬の揺らぎが生じた。その問い掛けがどういう意味なのかは聞いて直ぐに理解したからだ。

 先程の会議にてシェイラへの疑惑が芽生え始めた元老院たちはおそらく犯人が彼女なのではないかと推測してきた。これまでの有耶無耶で不可解な言動から察すれば一つの可能性として浮かび上がるのはたとえ絶大な信頼を置いてきたティベリウス帝でさえも思うところはある。

 あの場では皇帝と言う立場を利用して場を収めたが、心の内を憚る白濁した感情を一個人として見逃せずにいた。そうして今、二人きりになった空間でその真偽を確かめるべく訊ねた。



 シェイラの口から何が出てくるのか。それが肯定か、否定か、はたまたそれ以外か。ティベリウス帝も自身が望む答えであって欲しいと、願いを込めて彼女の返事を待つ。



 「――――――」



 無言で、ティベリウス帝が見詰める力強く訴えかけてくる双眸を受けても尚、シェイラはじっと見つめ返す。

 沈黙の時間が長く続く。

 あるいは永遠とも感じ取れるほどの時間が、ティベリウス帝の心に緊張とともに走り抜けていく。


 そして、シェイラの唇が吊り上がり、口を開くことでこの時間に終わりを迎える。



 「ここが宮殿の廊下であることをお忘れですか? 無暗に口走っては誰かに聞かれてしまうかもしれません。陛下が私に注意したばかりじゃあありませんか」


 「………そう、だな」



 ニッコリと。ティベリウス帝の問い掛けを微笑みながら彼の浅慮さを注意するように受け流した。ティベリウス帝もまた己の軽率さを悔い改め、彼女に詫びる。

 結局、真相を聞き出せず仕舞いに終わってしまい、ティベリウス帝の内心はモヤモヤで渦巻いている。


 「お疲れのようですし、もう今日はお帰りになられたらどうですか? 陛下もまともに考えられるような状態じゃないですから」


 「………いや、それには及ばん。まだやり残したことがあるんでな」


 「?」



 疑問符を浮かべるシェイラだったが、後方から一人の兵士が走って来るのが目に入り、これ以上の言及するのを避けた。

 全力疾走してきたのか肩で上下に動かして、呼吸を整えるとティベリウス帝の近くに駆け寄り、跪く。迷路のような宮殿内で人探しするとなると軽く半日はかかるのだから、この兵士はよっぽど頑張ったんだろう。


 「申せ」


 「はっ!」


 頭を上げた兵士は懐から羊皮紙を取り出し、それを読み上げていく。そこに書かれているものはティベリウス帝にとって、メディオラ帝国にとって大事な報告内容であった。



 「――――以上が報告です。我々は引き続き調査を進めて参ります」


 「ご苦労。報告感謝する」


 「それともう一つありまして………」


 「ん? 良い、続けろ」


 「陛下にお会いしたいと言ってくる小柄の女性が居まして。それと同伴者二名もなんですが、どうなさいますか………?」


 「! ………分かった。その者らを謁見の間まで案内してやってくれ」


 「はっ!」



 兵士はすぐさま走り去っていくと再びティベリウス帝とシェイラだけになる。



 「すまないがシェイラ。このまま謁見の間に向かう。側近としてついてきてくれないか」


 「………仰せのままに」



 兵士からの報告を受けたティベリウス帝の表情が一転して、僅かに明るさを取り戻していた。奮い立って先に歩いていくティベリウス帝の背中を銀色の瞳で見据え、やがて瞑目するシェイラは、



 「………ごめんね、ティーべ」



 ぼそり、と。 

 彼には届かない距離で軽蔑とも憐憫とも言い知れぬぐらい交錯したその呟きが小さく、空気に紛れて消えていく前にシェイラは彼の後を追うように飛んで行った。

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