Episode28:剣と屍術と
「な、何で師匠がここに? あ、いや。それよりも何で空から?」
色々と突っ込みどころが多くて何から聞けばいいのかさっぱり分からん。何なんだこの状況は。
脳内処理が間に合わず、呆然としている俺たちに首だけで振り返る女剣士―――ぺルゼラ師匠が歯を輝かせながら微笑みをかける。
挑戦的で吊り目がちな髪色と同じ琥珀色の瞳。ぷっくりと膨らんだ紅色の唇と健康的な小麦肌が良く映える。低身長で少し幼さが残る顔立ちではあるにも関わらず堂々たる佇まいに大人の妖艶さを醸し出している。芸術家が裸足で逃げ出すほど端正に整えられている美貌にますます年齢が読み取れない。
そんな彼女が依然と固まった状態で立つ俺たちをじっと眺めると、
「暫く見ないうちに大きくなったじゃないか。お姉さん凄く嬉しいぞ」
再会に対しての祝詞を再度笑いながら述べる。いやいや、今はそれどころじゃないでしょ。
「まず目の前の敵について何なのかだけでも教えてくださいよ」
「んにゃ、何? あたしもぶっちゃけコイツが何なのかは全然知らんし、どうでもいいんだけどね」
わざとらしく肩を竦めさせ俺の質問を軽くあしらう。
そうだった。この人マジで適当な性格してたわ。俺に剣の指導している際でも同じ真剣な質問を投げ掛けて、まともな答えが返ってきた試しがしない。本人はいわば超が付くほどの自由人だ。彼女の身勝手さに今までどれだけ振り回されてきたか、あまり思い出したくもない記憶がちらつきだした………。
「ぺルゼラさん………」
一方タミルは師匠の登場に驚愕はしたものの、傍若無人をそのまま擬人化した彼女に何か言いたげな顔を向けていた。
「何と言うか………その。相変わらずですね」
眉間を摘まみながら大きな溜息と諦観し切った台詞を溢す。タミル自身も彼女に散々な目に遭わされているからな。
「ハッハッハ! まあそう細かいことはどうでもいいでしょにね。タミルの嬢ちゃんもほら、ニッコリ笑って。リラックスリラックス」
タミルとは対称的に豪快な笑い声を上げ、宥めるように彼女を諫める。
もうどうにでもなれ。
「んま、感動の再会を祝して一杯やりたいところだけど………」
へらへらとふざけた態度を一貫している師匠は前を見て、自身に敵意をぶつけてくる黒ローブを見やる。その双眸から思い出すように目を細められ、
「ここ最近の殺人事件。殺された人間の多くが多量の内臓出血及び、まるで枯れ木のように搾り取られた謎の変死が特徴。―――それらを目の前で同じ手法で殺めたとなれば、アンタが一連の黒幕だってのは明白ね」
「さ、殺人事件?」
「なんだ坊主、まさか知らなかったのかい? 帝都内でかなり有名になってた事件さ。その犯人は一切不明、しかも神出鬼没で誰にも手が負えないとされていて、帝国を脅かすほどだってね。………と言っても、あたしもさっき知ったばかりだけどな。ハハハ」
「師匠………」
精一杯込めた憐憫の眼差しを師匠の背中にぶつけ、そんな俺の呟きにお構いなしに黒ローブを見据える。その視線に黒ローブは身じろぎし、大きく後方へ跳躍した。何かを察知したのか何か詠唱らしき声が響いて来る。
やがて、黒ローブは両手を前に出すと、
「❝死繰舞踊❞」
地面に斃れていたはずの憲兵たちが一斉に立ち上がり、それぞれの得物を取り出すと覚束ない足取りでこちらへと歩いて来る。
「トーテメンシュ………どうやらネクロマンサーだったとはね。超面倒臭い相手じゃんかよ。ったく、後で報奨金倍増しにしてもらうか」
相手の正体が分かった途端に少しだけか、師匠の声色が低くなり誰かに対しての軽口を叩く。
「ぺルゼラさん。私たちも加勢します」
隣に立つタミルが苦無を構え直して師匠に問い掛ける。
が、師匠は右手の斬鉄剣で斜め下に力強く薙ぎ払い、その斬撃が地面を切り裂くと、
「アンタたちはそこで見てな。この仕事はあたしがキッチリ片づけないと」
顔を動かさないままタミルの援護に制止をかける。そのまま師匠は前進し始め、
「殺した人間の命までも弄ぶ相手なんかに、遅れなんかとらない。あたしを誰だと思ってる?」
両手に持つ斬鉄剣を交差させながら、迫り来る操り人形と化した死んだ憲兵たちに視線を巡らせる。数は十を越える人数と最奥に立つ術師である黒ローブが師匠の動きに応じて攻撃指令を出すと千鳥足だった憲兵たちが息を吹き返したように師匠に目掛けて特攻していく。
交差させた斬鉄剣を前に突き出す姿勢に入り、やがて彼女の周囲から放たれる剣気が大気を震わせる。
「世界随一の剣の使い手―――ぺルゼラ・クローヴィスが一気に終わらせてあげる」
名乗り上げて一瞬、そこの場から師匠が姿を消すと再び目に映るのは憲兵たちを次々と容赦なく剣を振るう師匠の後ろ姿。
迸る美しい斬撃の嵐。双子の斬鉄剣は憲兵の甲冑も得物も紙切れの如く切り裂いた。刃と鋼の触れ合う擦過音すらせず、斬られた憲兵たちは再び血を噴き出しては斃れ込んでいく。
身の丈以上ある斬鉄剣は本来なら一本ですら容易に扱うことは難しい。それを二本同時となれば一気に難易度が高まり、熟練の剣士でも扱える数が限られてくる。それに加えて、筋肉量がどうしても男性よりも劣る女性という越えられない性別の壁がある。
―――しかし、ぺルゼラ・クローヴィスはそれらすらものともせずに容易に扱えるのだ。
「アンタたちに罪はないが、これも全て依頼のためだ。………赦せ」
懺悔を含んだ呟きを溢しながら最後の一人である憲兵を正面から横一閃に斬り捨てる。血飛沫を浴びた女剣士は半身を血に染めて、遠くに佇む黒ローブに愉快気に微笑みを投げ掛け、
「あとはアンタだけだよ。これ以上何もしないならあたしも危害は加えない。大人しく投降したらどう? んまぁ、やろうってんならあたしは別に構わないけどねー」
右の斬鉄剣の背を肩に乗せ、左の斬鉄剣の剣先を向けて余裕綽々と降参を促す。
師匠の動きに一切無駄がなく、全てに洗練されたもので、一連の動作に神々しさすら覚える。改めて師匠の剣術の凄さを垣間見た気がした。
「―――――――」
対して黒ローブは何も発しない。ただ戦意があるかと聞かれたら表情が読み取れない以上判断し兼ねるが。だが師匠はそれを戦意がないと判断したのか剣を下ろしたまま、無防備に歩み寄る。
自身の腕に自信があってこその行動だろうか。慢心しているからこそなのか。
―――嫌な予感がする。
俺の中で何かが警鐘を鳴らし、
「師匠それ以上は駄目だ!」
荒げて叫ぶも遅く黒ローブの身が跳ねるように動き、師匠の首に手が伸びていた。そのまま首を掴まれた師匠は何も抵抗せず、その場で踏み止まると掴まれた手からは禍々しい光が現れ、やがて師匠の身体を一気に包み込んでいく。
間違いない、あの攻撃の体勢。
憲兵の内側から何もかもを搾り取る能力が師匠にも降り掛かろうとする―――瞬間、
「だから何度も言わせるなよ坊主」
禍々しく覆われていたはずの光が消え去る。それも彼女の身体から放出される無数にも輝く斬撃によって根こそぎ斬り払っていた。
何も構え無しに、下ろされている剣からではなく、彼女自身から、だ。
煌きが乱舞し、掴まれていた手が離されると危険を察知した黒ローブが目に見えない斬撃に巻き込まれないように大きく後退する。目の前で起きた現象にただ呆然と立ち竦む黒ローブに師匠は剣先を向けながら笑い、
「あたしがキッチリ片付けるって、ね」
直後に斬撃の渦が一層と勢いを増し、周囲のありとあらゆる物象を悉く切り刻み、荒れ狂う暴風が発生する。その中心に立つ師匠は下ろしていた両手の斬鉄剣を両脇に腕を交差させるよう構え直し、極端に低い傾倒姿勢に移る。
師匠から湧き出る剣の嵐に堪え忍ぶように目を薄めつつ、彼女の身に起こる現象の正体を俺は改めて再認識した。
「❝斬裂陣❞―――。久々に肌で感じたけど、とんでもない能力だわ」
―――固有能力、❝斬裂陣❞。
自分自身から無数の刃を波状にして解き放ち、そこに触れたものを倍以上に跳ね返し、切り刻む能力。それが例え、物理攻撃だけでなく精神系統魔術であろうとも関係なく全てを無効化する不可侵の加護。
つまり、この戦いの結果は火を見るよりも明らかである。
「―――――――」
ようやく自身が不利な状況だと認識したのか黒ローブは少しずつ後方へと後退り、そして背中を向けては全速力でこの場から撤退しようと地面を強く蹴り出す。
だが、
「逃がすとでも思った?」
その行為を師匠は許さない。
「すう………」
深く息を吸い込み、そして―――、
「――――――――!」
乱舞する不可視の刃が次第に収束していくかと思えば、それらは双子の斬鉄剣へと力が吸収されていく。力が蓄積された斬鉄剣はこれまで銀色に刀身を煌めさせていたのが、淡い薄紫色の光を帯び、切れ味を抜群に引き上げる。そう、これも❝斬裂陣❞の能力の特色である。
一切侵し入れない防御を攻めに転じるのは、師匠が本気で相手を仕留める時にしか用いらない戦法だ。
一度発動されすれば、相対した者はお気の毒だが死を覚悟した方がいいだろう。
「―――❝弐舞裂❞」
息を吐き出すと同時に踏み込み、地が抉れるほどの蹴り上げをもって師匠の身体が前へ飛ぶ。
黒ローブが異変を感知し、顔を後ろへ振り向きながら禍々しくも蠢く光を手に纏わせ必死の抵抗を試みる。この行為はただ同様の悪足搔きではなく、斃されたはずの憲兵のうち二人をトーテメンシュで操ることで肉壁となり迫り来る刃を防ぐ。
そしてさらに、その遮蔽物とは真逆の師匠の背からも三人ほど不意打ちを狙い、徹底的に包囲させて自身の逃亡の時間を伸ばそうとする魂胆だ。
「………壱」
しかし、師匠は止まらない。
身を捻り、委ねるように前方に回転させながら左の斬鉄剣を振るい、包囲した憲兵を斬撃が生む衝撃波によって薙ぎ払う。そのまま推進力として華麗に空中を一回転。目標地点である黒ローブまで突進しながら残り一刀の刀身が再び薄紫色の輝きを帯びる。
一人狙いの的となった黒ローブはそれでも手に纏う禍々しい光を師匠の体に手を伸ばそうとする。触れればどこでもいい。そのようにも伝わってきた。が、それも―――、
「弐ィ―――!」
右の斬鉄剣によって左脇腹に横一閃食らわされその目論みが不発で終わることとなる。
斬られた黒ローブは力なく後ろへと倒れ込み、動かなくなると復活させていた憲兵も糸の切れた人形みたいに崩れ落ちる。
とどめの一撃を与えた師匠は標的を通り過ぎ、約十メートルほど遠くの地点で豪快に開脚させて見事着地を成功させた。態勢を整えて刀身に付着した血や汚れを振り落とし、腰の鞘に斬鉄剣を滑り込ませると舗道一帯に敷き詰めていた緊迫感に終焉を告げることとなる。
大きく溜息を溢しながら俺たちの居る方向に身体を向き直すと、
「な。言った通りでしょに」
幼さが残る顔に皺が寄るほどの満面の笑みを浮かばせ、誇らしげにサムズアップで自身の有言実行を表明してきた。
何ともまあ。
変な厄介事に巻き込まれてみれば空から師匠が降って現れたり、久々に師匠の剣捌きをもう一度目に焼き付けることが出来たりで。
心の中が色んな感情が交錯してもう訳が分からん状態ではあるけども。
とりあえず、
「事件解決、てことかな」
「………そうみたいね」
傍観者としていた俺たちは苦笑交じりに師匠の活躍具合にただ感嘆と感想を述べることしか出来なかった。
*** *** *** ***
戦闘が終わってからものの数分後には別動隊の憲兵らが現場に駆けつけてきた。亡骸とされた同僚らと荒縄で縛り付けられている黒ローブを目に遣り、取り調べに重要参考人として師匠と俺とタミル三人が事の顛末を説明する。と言うより、全て師匠が全部話したんだけどね。
あっけらかんとした態度で師匠が取り調べに応じ、時に憲兵を困らせた際には補足として俺たちが付け加える役割に回っているから徒労感が余計に増えていく。
ある程度聴収を終えると後頭部を搔き毟りながら首を巡らせ、他の憲兵らが死者を手厚く担架で運ばれていく様子を見届ける。
話によれば、今回の襲撃でだいぶ最小限に抑えられることが出来、幸い師匠が居たお陰で優位に立っての犯人捕縛だ。以前から帝都各地で被害報告が国に伝えられており、負傷者も含めれば軽く六十件ほど出ている。被害の遭った現場に憲兵を配置させて奇襲に備えてはいたものの、それでも阻止出来ずにいた。
「何でこんな真似を………」
心の内から湧き出る苛立ちを抱いて、俺はちらりと露店の端へと目を送る。そこには縛られた黒ローブが捕らえられており、憲兵たちが変な行動しないか監視役として厳重に五人体制で配置されている。
警戒心全開な監視とは対照的に黒ローブはというと、師匠に斬られて呆然自失の体となってからはずっと下を向いていて、ずっと大人しくしている。
クベラ大国で暴動を起こした日輪教の大規模とまでには及ばなかったのが何よりも救いだと安堵で胸を撫で下ろすが、自分自身があの場で即座に行動に移していれば憲兵たちを死なずに済んだかもしれない。そんな感情が渦巻いてくると、無意識に俺は拳を強く握っていた。
そこに、
「おりょ? オゼルの坊主。随分と恐ろしい顔してんじゃないの」
「………師匠」
横で相変わらずの飄々とした態度でいる師匠が声を掛けてきては俺の顔を覗き込むようにじっと見詰めてくる。
「な、何ですか………」
「ふーん………なるほどねぇ~」
独りでに納得してる師匠が小さく首を縦に振りながら薄ら笑いを浮かべてくる。
彼女の反応が何なのかさっぱり分からない。
「い、言いたいことあるなら言って下さいよ。勝手に顔を見てニヤニヤされると腹が立ちます」
「―――いやあ、ごめんごめん。んなに、あまり深い意味はないからそんなに怒んないで。お詫びにご飯奢るからさ。好きでしょお肉?」
「食い物でご機嫌取りするのはやめて下さい。俺もう十七歳だから貴女が思っているほど子どもじゃないんです」
いつまで経ってもこの人は俺を子ども扱いしてくるのだけはやめて欲しい。
一見すれば俺の方が年上で師匠がかなり年下に見えてしまうけど、実際のところ師匠の方が大人何だよなあ。
そんな俺の抗議も「まあそれはさておき」と一蹴して黒ローブの方に歩を進め、俺とタミルも遅れて後を追うように小走りする。
「オゼルの坊主、タミルの嬢ちゃん。あたしが何でこの国にいるのかについて知りたいんだろ? なら、その理由はこの黒ローブにあるのさ」
「黒ローブに?」
「………」
タミルが師匠の言葉を反芻し、俺は一連の事件の元凶である黒ローブの姿を無言で睨み付ける。
「あたしとてこれでも忙しい身で依頼内容次第では依頼主を恐喝で金額をかさ増しにさせてから適当に終わらせようなんて考えてたさ。他国の諍いに介入なんてもってのほか。ほら、あたし高額な報奨金重視で働く人間じゃん? 面倒事避けて生きてきたし」
「さらっと酷いことぼやきますね。それでも世界最強の剣士ですか」
「くぅー! 相変わらずの毒舌ねタミルの嬢ちゃん。そんなんじゃ嫁の貰い手がいつまで経っても現れないぞ」
「いつまでも遊んでばかりで一生未婚の人に言われたくないです」
「くっ、今のは流石に堪えるな。トホホ………」
「何でもいいんでさっさと説明して下さい師匠」
微妙に話の方向性が逸れたのを軌道修正を促す。
「やれやれ冷たいな二人は」っと小言を呟いては再び本題に戻る。
「そんなあたしにティベリウスの兄ちゃんから直々に連絡が来て何だろって思ってみればこの依頼よ。アンタたちも見ただろうけどこれを一介の憲兵や傭兵で解決できる問題じゃない。既に帝都民にも目撃されてたし、これ以上被害を出さないためにもあたしがこうして呼ばれたわけさ。こればかりは真面目に受けないといかんでしょに」
ティベリウスの兄ちゃん? ってことはこの国の現皇帝が師匠に懇願して依頼するほど緊急を要する事態だったのか。
確かにこれは師匠に頼んで正解だろう。師匠の腕だけは信用に値するし、実力も申し分ない。
つか、師匠は皇帝に兄ちゃんって呼んでるんだ。怖いもの知らずというか、肝が据わってるというか。
「こうして黒ローブをひっ捕らえて全ての事件は無事解決。あたしは莫大な報奨金を頂いてパアっと愉快にのんびりと暮らして遊べる―――と、そうであったら良かったんだけどね………」
ほとほと困ったという風に眉を顰めて意味深な発言する師匠に首を傾げていると、
「―――おい、こら! 動くな!」
声を荒げているのは捕縛された黒ローブの監視役に当たっていた憲兵。何事かと思って目を凝らしていると目が覚めたのか荒縄を解こうと暴れ回っており、憲兵たちによって取り押さえられている。
「この程度であれば正直あたしじゃなくても十分解決出来るし、アンタたちでもその気になれば問題なく依頼は完遂出来るはずよ。でもこの依頼の本質をどうやら見誤ってたみたい」
「どういう意味ですか師匠?」
「まあ、見てろっての。―――おいアンタたち、そこをどきな」
腰から一刀だけ斬鉄剣を抜き取り、取り押さえている憲兵たちに退去の命令を指示する。一体どうするつもりだ?
「し、しかしぺルゼラ殿。それではコイツが―――」
「死にたいのなら一緒に斬られて死ぬか?」
師匠の冗談には到底思えない気迫に押され怖気づいた憲兵たちは蜘蛛の子散らすみたいに即座にその場から離れていく。
取り残された黒ローブが地面を野垂れ回っているのを師匠は一瞬で間合いを取り、剣先が胸部に突き刺す。
そのまま背後の壁に叩きつけられ、串刺しにされた黒ローブは身体中をびくびくと痙攣させ、やがて力尽きた。
「単純に力量を見込んで、ではなくティベリウスの兄ちゃんは何にも縛られず自由に動いていけるような人じゃないと頼めない依頼を、ましてや皇帝という立場でありながら自国の問題を❝あたしごとき❞に頼まなくてはならないなんて、ね―――!」
突き刺した剣を抜き取り、覆い被さってる外套のみを一振りで斬り離した。豪快に斬られた箇所から犯人の正体が明るみに出る。
「なっ!? こ、こいつは………」
「嘘だろ!? こんなことって」
黒ローブの正体を見た憲兵たちにざわつきと動揺が走る。俺とタミルもその正体を見て、あまりにも意外過ぎる❝それ❞に愕然とする。
一方剣を納めた師匠は自身の中で推察していたであろう考えとどうやら合点がいったみたいでふっと鼻で笑い、
「実際対峙してこれまでの違和感にどうしても分かんなかったけど、やっぱりそうだったんだねぇ。これはまたこれはまた、長丁場になりそうだな。―――トホホ」
当初の目的が完全におさらばしたことと予想を本当なら外れて欲しかった希望的観測が見事に打ち砕かれたことへの嘆きで深く肩を落とす。
師匠が落ち込んでいる傍らで憲兵たちはこの事態の重大性に焦燥感に顔を染め、別動隊に分かれて駆けていった。
俺たちの図書館でゆっくり本が読みたかった予定もたぶん、この事件でおさらばなんだろうな。
毎度厄介事には慣れっこだ。致し方ないし、割り切るしかないけど、
「ちょっと悪ふざけが過ぎるんだよ。どこまでもふざけやがって」
眼前の壁に寄りかかっている犯人がどこか生気を感じさせるほど巧みで隙の無い風采であり、より人間に限りなく近い形の目が俺には嘲笑ってるように映り、思い浮かぶ怒りを込めた罵倒をこいつにぶつけた。
タイトル二文字に限界を感じたこの頃




