Episode27:再会
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外出許可証を発行してもらい、ギルド・バッカスを出て東北東の方角へと向かう事となる。先程まで歩いた道のりとは少し外れた舗道を利用するようにプリスカから助言を受け、賭博で塗れる道とは違う別ルートから目的地までの地図を授かり、俺たちはこの地図を頼りにひたすら人気の少ない通りを進んでいく。
目的地であるテサロ二クス図書館は帝都の中でも随一の歴史の長い建物であり、それも戦前から大切に保管された本から現在にまで発刊された書物までが約七十万点も所蔵されている。一般の方にも簡単に本を読める施設である一方で、知識に秀でた学者が集まる研究機関の一部としても利用され、この国にとって大きな役割を果たしている。
そして、何よりもどの場所より厳重に警備されているために今まで蔵書を盗られるような事件が一度も起きた事がない、と。
まあ、その奪おうとした人間はたぶん余所の国から来た奴なんだろうけど。何せ、ここの国民の愛国心は肌からでも感じ取れるほどだし、少なくとも破落戸がいるかどうかは別として可能性は低いのかもしれない。
「ねえ、少し聞いてもいい?」
と、歩き始めて十分弱。並列しながら移動していたタミルが口火を切らした。
「そもそもどうして戦争以前の資料が多くある図書館に行こうと思ったの?今まで旅してきていっぱい昔の資料見てきたと思うけどさ。その場所に何があるの?」
「………そう言えば図書館の話はまだしてなかったか」
「メディオラ帝国に行くとしか聞かされてなかったし、具体的にここで何をするのかも私は知らないわ」
「そうだったか。いや、悪い。じゃあ歩きながらこれからの事を話す。あと、日輪教の頭領・アポロと話した情報も一緒に」
先の日輪教の暴走阻止してから落ち着くまで彼女に今後の方針を明確には伝えず、西に向かいたいと漠然とでしか伝えてない。ただ、俺の我儘に答えて何も言わずに付いてきてくれているから俺も今の今まで黙っていたのに後ろめたさは感じていた。
しかし、タミルから話題を振って来たお陰で話がしやすくなったわけだから、いま改めて彼女に何故この国を訪れたかを一字一句余すことなく説明していく。
「―――成る程ね。顕現者なんて言葉、今まで聞いたことないわ。それをあの頭領と貴方をそう称したのね」
日輪教の頭領・アポロとの戦闘を行った際に挙がった名前にタミルは深く考え込む。恐らく彼女の知識でさえ知らなかったワードだったんだろう。
「先天的と後天的と二分化させてるのにも気になるわね。オゼルと何が違うっていうのかしら」
「あまり詳しくは分からなかったけど、当の本人は気付いた時には既に能力が顕現していたって言ってたな。俺の場合は元々普通の人間だ。そこに人体実験を重ね続けた結果、同じ顕現者として発現したから、考えるとしたらそこだろ」
「つまりは生まれつき能力を顕現していたか何らかの原因で能力が顕現していたかの違いに過ぎないってわけかしら。と言っても、能力値の差にも違いはあったみたいね」
「ああ。特にアポロの再生能力がとにかく桁外れだった」
致死性レベルの攻撃をアポロが受けた際に発生した再生能力。頭を無くしても、心臓を抉っても、ましてや溶かし尽くしても直ぐに元の姿に戻るといった芸当を見せられ、恐怖を覚えた。俺にも似た能力を持ってはいたが、奴の場合は超速で再生を行っていた。はっきり言って、反則だった。
最終的に俺の奥の手であるムスペルで塵芥すら残さずに燃やし尽くして何とか勝鬨を上げたわけだが、
「そんな相手が果たして簡単にくたばるとは思えないわね」
顕現者の能力と俺とアポロとの戦闘の一部始終の説明を聞いてタミルはバッサリと否定を放った。それも一段と険しい表情を浮かべながら。
「幾ら攻撃を与えても直ぐに再生してしまう、それも普通の人間なら死んでしまうような攻撃でも一瞬で。オゼルの黒炎、どんな生物でも命が尽きるまで一生燃え続け、溶かし尽くしてしまう、そんなオゼルの黒炎でも斃せなかった。けど、最後は何とか斃せたと、貴方は言った」
「あ、ああそうだよ。もう数え切れないくらいにぶちかましたが。それでも無事に何とか斃せた。アポロが再生してこないのも確認はした。それの何が―――」
「本当に攻撃は当たってたのかしら?」
「………は?」
タミルの推測に思わず声を出す。
いやいやいや。そんなはずない。確かに俺のムスペルはアポロをちゃんと捉えた。目視でも黒炎の海に飲まれていったのも分かった。攻撃が当たってないなんてことは絶対有り得ないっと頭の中で確信を得ていた。
が、
「アポロの能力で確か岩石を操る能力だったわよね。一度、バラバラにしてから溶かしたけど地中の溶岩を利用して再生能力を一気に促したみたいに、逆のことも出来そうじゃない?」
「逆?」
「❝分裂した。または地中と一体化した❞。………なんて可能性もあり得るってことよ」
「まさか………そんなわけは」
―――ない、と。そう強く否定しようとしたが、彼女の推測を聞かされて言葉の最後まで言い切れずに口を噤んでしまう。
アポロと対峙して彼の強さは今までの旅で闘ってきた相手なんかよりも格上だった。能力なんかも俺と同じ顕現者と呼ばれる存在で、しかも俺よりも能力を使いこなしてた。その気になっていればアポロは間違いなく殺すことが出来た。
それなのに、奴は闘いそのものに享楽を求めて、俺が一方的に攻めるように仕向けてからは嬉しそうに闘っていた。―――いや、遊ばれていたのだろうな。それに、一方的だなんて思い上がってたし、勘違いしてた。
今冷静になって考えてみればそうじゃないか。あの時、頭が回っていればタミルと同じ推測に辿り着けたかもしれない己の不甲斐なさが無意識に歯を噛み締めていた。
「万が一攻撃を受ける前に岩石で自身と似た人形を模倣して回避なんてことも出来そうじゃない?………まあ、あくまで可能性の話だけどね。オゼルの目でちゃんと斃せたのを確認出来たのなら、私は貴方の目を信じるだけ」
「………すまない」
「何謝ってるのよ? 別にオゼルの不注意さなんかを責めてるわけじゃないしただ単にそうだったら厄介だなって思っただけだからあまり考え込まないで。むしろ私の方に非があるから。その………ごめん」
ちらっと彼女は俺を横目にし、申し訳なさそうにうっかり口が滑らせたことに対して謝罪を述べる。別に俺はそう言うのを求めてこんな反応をしたつもりじゃないのに、と心の中で彼女に返答し、
「それに、過去にポセイド帝国のルイゼーン皇帝と繋がりがあったとは。そっちの方が驚きではあるけど、何よりオゼルの右目について知ってたなんて。―――神属紋か。これまた初耳だこと」
「他にも後天的顕現者が存在しているような言い振りしてたからもしかしすると俺たちがこの十年旅をしている間にもポセイド帝国から現れてもおかしくはない。その顕現者が敵味方かどうかすら分からない。そもそも後天的顕現者はこの神属紋だけが特徴なのかすらも定かではない上に他国にも似たような実験されていたとしたら対処しようがない」
アポロ曰く、ポセイド帝国の人体実験にて顕現された人間のことをそう呼んでいるらしいが実際アポロの身体には俺と同じ紋様のした神属紋らしき紋章は見当たらなかったから奴の言ってることが正しければアポロは先天的顕現者であっているのだろう。
また、少なからず顕現者かどうかは判断出来る方法は、
「アポロの時みたいに敵として現れたとなると限られ、何よりその相手を斃す場合に必要となるのが同じ顕現者の能力による攻撃のみってわけね。全く、つくづく不思議でならないわ。どうなってるのアンタたちの構造は」
相手が顕現者だった場合にのみ起きる❝通常攻撃を全て無効化にする❞現象。これが武器による攻撃、魔法による攻撃などの物理法則を無視した顕現者に施された加護は先天的、後天的問わずに与えられている。顕現者かどうかの見極めはこれで見当がつくわけだが分かったとしても抜本的解決に繋がらない。
これらから本筋である部分の穴埋めについて図書館へと直結するわけだが、
「………ねえ、もしかして顕現者が私だと対応できないと思ってて今まで話さずにいたんじゃないの?」
本音を見抜かれてしまい、不服そうにじろっとこちらを睨み付けられる。相変わらず、勘が鋭いことで。
だが、ここで変にはぐらかすと却って逆効果になるしここは正直に言うべき―――、
「舐めるんじゃないわよ」
返答する前に辛辣な言葉を継げて叩きつけられる。
「ちょ、俺はまだ何も言ってねえだろ!?」
「言わなくてもアンタの顔見れば一発で分かるわよ。 何? もしかして今まで気を遣っていたつもりでいたの? そうだとしたらもう少し別の方向に気遣いを働かせなさいよ」
これまでにない嫌悪感で罵倒を投げ掛けられ、思わず委縮してしまう。
しかし、彼女の向けた感情の原因なんて考えなくても答えを導き出せる。彼女を無理やりにでも顕現者の戦いに巻き込まないように逸らした俺の傲慢によるもの。信用していたはずの仲間からそんな風に思われていたら誰もみな同じ反応するだろう。怒らないでくれたとしても、それは間違いなく見限られたときだ。
タミルにそんな思いをさせてしまったのは当然の報いだと、自分を卑下すると、
「私はね、貴方が思っているより柔な人間じゃないのよ。たかが顕現者ごときで、攻撃が通用しないごときで怖気づいてたら既にこの場には居ないし、ましてや旅なんて始めてない。私たちはそんなちっぽけな理由ごときで腹を割ることが出来ないほど安い関係だと言うの? だとしたらその考えは捨てなさい。お互いの目的のために、一緒に闘うって決めたじゃない」
顔は相変わらず厳しくはあるが柔和な口調になって窘める。気付けばお互い足を止めて、向き合う形でいた。
「――――――――」
「もしかして、そう思ってたのは私だけなの?」
急に怒り出したかと思えば、急にしたり顔になって顔を近付けながら意地悪にそう問うタミルに思わずのけぞる。微妙に頬が熱くなっているのを感じつつ、彼女の真っ直ぐに向ける黒い瞳を紅色の隻眼で受ける。その瞳からはいくつかの感情が迸るように伝ってくるのを感じ取り、
「………ふっ」
愚かな自分への信頼を寄せた言葉に自嘲気味に笑ってみせる。
「相変わらず、お前には敵わないよ」
「オゼルのちっぽけな悩みなんて瑣末程度よ。もし次に同じことで悩んだりしたら、ただじゃおかないから覚悟してなさい」
「ああ。心掛けとく。ありがとう」
「礼なんて言われる道理はないわ。………そんなことよりも、どうしてこの国の図書館に用があるのか聞かせなさい」
叱責をもらい感謝を述べる俺を受け流し、やや強い語調で説明を要求するタミルに縦に首を頷く。今一度仕切り直し、
「ラーヒズヤのオッサンに教えてもらったんだ。顕現者について過去に似たような事例があったらしく、でもその内容が載ってる書物が世界各国に数が限られてるそうだ。なんせ、暗黒の世界大戦中に大半は消失し、その後についてもまともに残されてなかったらしい」
「暗黒の世界大戦の前にも顕現者がいたっていうの? でも、確かにそのような書かれてた本なんて今まで読んだことないわね」
「そこで、戦前からの文明が根強く残っているメディオラ帝国には世界有数の図書館があるっと教えてもらってな。そこにいけばもしかしすると分かるんじゃないかって」
クベラ大国を出航する前にラーヒズヤと二人きりになる時間があった際に挙がった情報。
かつて存在していたとされる顕現者は現在の世界ではその名前を知っている者は殆どゼロに近いと言っても過言ではない。推奨してきた本人の地位ですらその名前を聞いてもピンときてなかったみたいだし。
しかし、それほどまで知らされてない顕現者の秘密がその図書館に眠っているかどうかはあまり期待はしない方がいいかもしれない。が、行ってみないと分からんし些細な情報でも分かればそれだけでも大きな収穫だ。
「それに、世界有数の図書館なんてそう簡単にお目にかかる機会ありそうになさそうだし、いっぱい本読んでみようぜ」
「随分と楽観的ね。さっきまでのゴミ屑人間とは大違い」
「顕現者の他にも読んだことないお伽噺も読めるし一石二鳥。いや、一石三鳥か」
「分かれば私にも顕現者に対応できるし、オゼルに色々と試し撃ちできそうね」
「しかしまあ、ラーヒズヤのおっさんも粋な計らいを寄越したもんだよ。古代剣闘国家メディオラ帝国は娯楽が優れている国だし、街をずっと歩いてても飽きそうにないし、国民も活気づいてて見てるこっちまでも楽しくなりそうだ」
「まるで子どもね。少しは緊張感持ってたらどうなの?」
「さっきから酷い言われようだなおい!」
見事な三段落ち。しかし、このやり取りがあっての俺たちであるからこそ、安心感を覚えて頬がつい綻んでしまう。
再び歩み始め、地図の道筋通りに従い続けると気が付けばそこは大きな舗道に抜け出していた。賭博で賑わう店が並ぶ人通りとは違ってここは特に目立った店がない辺鄙な光景が広がり、平凡な日常に舞い戻ってきた気分にさせる。
とはいえ、昼下がりであるにも関わらず人が居ないというのもどうしてか疑問を抱きながら暫くずっと歩いていると、
「―――ん?」
向かう先に金色の甲冑を身に纏う人間が複数佇んでいるのが目に映る。それも道を塞ぐように統一性を保ちながらこちらの様子を窺っているようにも見える。
そのまま近くまで寄ろうとすると甲冑の―――いや、おそらくこの国の憲兵だろうか。その中心に立っていた男が歩み寄って来ては手を前に出し、
「貴様ら何の用だ。こっから先は通行止めだ」
行く手を阻むように俺たちの進行を止めた。恫喝混じりの制止と後ろに並ぶ憲兵の数を見て、どうやら緊迫した状況であるのを語らずとも一瞬で察した。
「何かあったのか?」
「貴様らには関係のないことだ。気にする必要はない」
「ここの道じゃないと行けない場所があるんだがどうしても通してくれないのか?」
「残念だがそれは出来ない。悪いが今回は諦めて引いてくれ。さ、帰った帰った」
頑なにこの道を通そうとしない憲兵が手をひらひらと振り、邪魔者は消えなと言わんばかりの仕草を示してきた。
あまりにも一方的で少し腹立つ態度に吝かではあるがこれ以上堂々巡りだろうと判断。俺らは仕方なく踵を返し、作戦を練ることに。
「どうする? ここが通れないとなると引き返すしかないけど、と言っても別の道はないんでしょ?」
「んー。地図を見る限りだとなさそうだし、ここを正面突破で強行なんて真似は出来ない」
「ならいっそのこと、影分身を使ってあいつらをおびき出せばいいんじゃない? そのすきに私たちは通れるでしょ」
「………タミル。それは悪人と同じ発想だぞ。流石に駄目だろ」
と言っても他に行く道がないし、屋上を渡って進むのも悪くないがなんせ白昼堂々と目立つ行為だ。あまりそれだけは避けたい。
ここはタミルの案に乗るのも一つの手だろうと気が進まないがタミルに告げようとすると、
「わっ、何だこいつ―――!?」
後方から叫び声が聞こえ、急いで振り向くと先程まで均一に並列していた憲兵が列を乱しては手にサーベルを持って何者かと交戦しているのが分かった。
その何者が何なのかを俺の隻眼で捉える。それは全身黒のローブを纏った人間だ。それも素早い速度で憲兵たちを往なして翻弄している。
「奴はたったの一人だ! 周り込んで攻めろ!」
声を大に指揮を取っているのは俺たちに警告した憲兵でおそらくリーダー的存在だろう。しかし、彼の指示通りに連携がとれているかと思えばそうではない。思いっきし相手のペースに飲まれて狼狽えている。
その中で冷静さを完全に失せた一人の憲兵が謎の黒ローブに目掛けて特攻していくと、
「がっ―――?!」
全身から血を噴き出してその場から崩れ落ちる。僅か一瞬の出来事でこの場にいる誰もが目を疑い、手と足が止まると黒ローブの猛攻がそれを許さない。
一人ひとり、次々と正体不明の攻撃に命の灯火を刈り取られていく。遂に一人だけになったリーダーは震えたサーベルで待ち構える。
「おおおお!!!」
無謀にも斬り掛かろうとサーベルを振るうも虚しく黒ローブは回避し、彼の首根っこを鷲掴みする。窒息するほど力強く握られ、息苦しそうに悶えながら必死に抗い続ける。
が、
「おお、お………ぉ…、―――」
声が徐々にか細くなっていくと同時にまるで搾り取られたように憲兵のリーダーが萎んでいった。全身に纏う甲冑もサイズが急激に変化してダボっと垂れる。命が尽きたのを確認した黒ローブはそのまま首から手を放し、憲兵のリーダーは地面に力無く倒れ込む。
何なんだ。こいつは。
得体の知れない敵に思わずないはずの短剣を抜こうとする姿勢に移っていた。タミルも同様に苦無を指に挟み、警戒する。
対し黒ローブは俺たちの方に顔を向けると暫く動こうとせず、膠着状態が続く。
「………どうする?」
「相手の能力が分からない以上無理に手が出せない。ここは様子を見て動くしかないだろ」
相手の内側からの攻撃となると操作系の魔法と考えるべきか。だとすると、かなり厄介な相手だ。
ここで無理に突っ込んで憲兵たちと同じ過ちを犯すほど馬鹿ではない。タミルに告げたとおりにここは慎重に相手の出方に注意を払っていくしかない。
しかし、こいつは何故憲兵たちを襲ってきたのだろうか。しかもこんな昼下がりの人が多く通る場所で(まあ、通行規制されてたから幸い、一般市民が誰も通ってない)。誰かに依頼されたのか? だとすると依頼主に何の利益になる。この国関係だとすると面倒臭い話になってくるが。
短剣がない以上手荒な真似はしたくないがここは俺の黒炎を解放するしかないか………。
右手に力を込めてレイヴァティンを形成しようと動こうとした直後、
「「「!!?」」」
俺たちと黒ローブの間に突如と上空から何かが衝突し、轟音と共に巨大な土煙が立ち上る。そこから激しい暴風が発生し俺たちの膠着状態に終わりを迎える。
何が起きたというんだ。次から次へと。頭の中が事態の収拾に追いつけず混乱の渦で思考を遅らせる。 向かって来る暴風を両腕で防いでいると、
「―――おいおいおい。こいつはどういうわけだ? 頼まれて来てみればオゼルの坊主とタミルの嬢ちゃんじゃないの?」
そして眼前、もうもうと埃と噴煙をたなびかせる中に、一人の女性が立っていた。
「あ、あんたは………」
その姿がはっきりと現すのにあまり時間を有さなかった。
まず何よりも目に惹くのは、太陽光の如く暖かい琥珀色のした長髪が残りの風に靡かせている。およそ百六十もない小柄な身長に身に纏う仕立ての良い赤と白の服、その両手に持っているのは白銀色のした身の丈以上の長さを誇る双子の斬鉄剣。後ろ姿からでも伝わって来る威圧感を放つこの女性に俺は―――いや、俺たちには身に覚えがある。
相対する黒ローブは大きく飛びずさり、低い姿勢となって飛来した女性に警戒する。
「何でアンタたちがここに居るかは置いといて、まずこの黒いのを捕縛するのが先としますか」
俺も、タミルも、黒ローブでさえも表情を凍らせる威容さ。前後からの視線を一斉に浴びても尚、何も動じずただひたすら純粋な、目の前の敵に向けた獲物を狩る高揚とした笑みを浮かべるこの女性は、
「ぺ、ぺルゼラ師匠!?」
旅の途中に出会った剣の達人にして俺に剣を指南してくれた師匠―――ぺルゼラとこんな形で再会することとなった。




