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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
23/35

Episode22:月影



 *** *** *** ***




 ―――無事に合流したオゼルとタミル。能力の使い過ぎによって意識を失ったオゼルを担いながらタミルはたった今逃げている頃。



 日輪教の連中と大暴れした二人によって町中の彼方此方で大騒ぎとなり、憲兵隊は一般市民の安全の確保の為に避難所へと誘導を開始する。小隊に分かれて原因の大元となったそれぞれの場所に向かえば彼女が捕縛したであろう部下たちを見つける。



 毎日彼らの悪事によって頭を悩ませられ、手を焼いていた集団をこうもあっさりと捕まえる奴は誰なんだと。憲兵が口を揃えて疑義の念を抱き始めると捜索の任務も同時に遂行されるようになる。



 連中のアジトであった荒廃した貧民街。観念した部下がアジトの居場所を吐き出し、その情報を頼りに幾つかの小隊が駆けつけていた。そこで彼らが見たのは、無残にも破壊された建物の瓦礫の山に地面の至る所に抉られた穴。何かを焼いた匂いが鼻を刺激し、目に見えない何かを含んだ粉塵が喉を痛み付ける空気が漂う。そして、地面と建物を纏めて刳り貫いたように熔解された巨大な痕跡。



 ここに居る全員が壮絶な争いが繰り広げられたのだと瞬時に理解した。



 慎重になりながら幾分か現場を捜査していても不可解な点が挙げられた。



 ❝頭領であるアポロの姿が見当たらない事を❞。



 アジトも崩れ去り、残されていたのが太陽のシンボルが刺繍されている旗と誘拐されたこの町の女性たち。幸いにも彼女らは崩落に巻き込まれたが命に別状はなかったが外傷よりも内傷が激しく、度重なる凌辱が精神崩壊を招き、廃人と化していた。



 他を探しても特に成果は得られず、これ以上は何も進展しないと判断した彼らは太陽の旗と救出した彼女ら、そして捕縛された日輪教の部下を引き連れて城へと引き返すのであった。



 

 結局、誰がこの騒動を治めたのかは当事者のみぞ知る。

 オゼル、タミルの二人が後々にこの町の英雄扱いされるのは、それはまた後のお話である。





 *** *** *** ***




 真夜中のクベラ大国首都にて。ジャラジャラと甲冑を擦り鳴らす音と共に急ぎ足で走り回っている憲兵隊は日輪教の部下を捕縛した事を端緒に城内から一斉に閑散とした町中へと溢れ出ていた。日輪教の残党が他に居ないかを子細に捜索活動を行い、途中逃げ出した輩は一人相手に三人体制で捕縛に徹底的に取り掛かる。



 頭領であるアポロの行方はいざ知らずと実質日輪教の壊滅を示唆させる会話を憲兵隊の中で交わされる。対して捕縛された日輪教の部下は「そんな事ない」と怒号を叫び暴れるのを力技で押さえつけられる。



 ―――そんな様子を光り輝く水晶を覗かせて窺う一人の男がとある路地裏でコッソリと佇んでいた。



 「………成る程、日輪教は遂に終わりを迎えましたか」



 柔らかな声には男性独特の艶のあるものだが、その口調はまるで他人事みたいに自身が所属していた日輪教の壊滅具合を軽々しく、あしらうような類であった。

 青髪のオールバックが特徴的である魔術師イェフダは魔道具である水晶玉を使用して、スライドショーのように捕縛されている部下たちの最期の姿を映し出しては冷静でいる。



 「うちのボスもどうやらあの少年にやられましたか。この少年の力は反則級ですね、塵芥残さず燃やし尽くしてしまうとは」



 次に映し出すのはアポロとオゼルによる激戦の一部始終を。自分の上官であるアポロを一方的に攻めるオゼルの姿にニヤリと含み笑いを浮かべる。



 「ボスも正直化け物じみた能力でしたけど、この少年はその上をいきますね。実に興味深いです」



 開眼された右目に焦点を定めるようにじっくりと見詰める。



 六芒星と男女を象った紋章―――❝神属紋❞と呼ばれる後天的顕現者の証でもあり、ポセイド帝国で人体実験された被検体の証であるそれはオゼル当人とルイゼーンと接触のあったアポロにしかその存在を認識されていなかった。勿論、策士であるイェフダも知らなかった。それ故に、彼は頭領を殺したその紋章に興味を掻き立てられるのだった。



 「―――素晴らしいッ!これ程の能力を持つ人間がこの世界にも居たのですか。欲しい、この能力が手に入れば、一国の掌握も夢ではありません………!」




 露わになった彼の本性。



 アポロに従い、部下たちに指示を与えていただけの魔術師の顔はそこには居なかった。



 「自由の解放だなど教祖だなど、正直私にとってどうでも良かったわけですし、丁度良かった。ボスが居ない今、私は好き勝手に動かさせて頂きます」



 日輪教が掲げていた自由の解放。それを嘲笑い、唾棄したイェフダは己の新たに示した野望の実現の為にこれから行う計画を練り始める。



 「しかし、あの黒装束の娘には手を焼かせました。難なくあの場から逃げ出せたから良かったですが、暫くあの二人に接近するのは避けた方が良いかもしれませんね。もう懲り懲りです」




 脳裏に浮かび上がるタミル。彼女が使用してきた東洋伝統の武器と忍術の数々。当初彼女の影分身の精巧さと冷静で知的な分析能力を見て侮っていたが、いざ戦った途端に逆転。荒々しい爆発や忍術の猛攻。それによって自分と日輪教の部下が痛い目に遭った。現に彼の身体は爆発による焦げた跡がたくさん残されていたのだ。



 苦笑に染まる顔で首を横に振り、顎に手を添えて呻るように考え込む。



 「さて、どうしますか。もうこの国には用は無いですし、何処か手掛かりとなる情報が埋まってる国はないでしょうか。でかい国となりますと、一番気になる❝黄帝国❞辺り行ってみましょうかね」



 東方で最も勢力を拡大の一途を辿る大帝国。名は❝黄帝国❞。嘗ては内部で派閥抗争が絶たず、群雄割拠していた弱小国家だったが、それが近年統一すると他国に侵攻を次々と進め、侵略された小さな国も植民地とされるなどと一気に地位と権力を総取りしたのだ。



 また、黄帝国は❝暗黒の世界大戦❞より以前から存在した長い歴史を有する国。それはつまり旧文明時代に存在した遺産も隠し持っている可能性が高い上にそれが勢力拡大に繋がっているのではないか、と。



 彼の悲願が成就になる手掛かりがそこにあると推測したイェフダは次なる目的地を定め、




 「生憎その国までの転移魔法は私にはないです。ほとぼりが冷めた時を見計らって船で移動するとしますか」




 仕方ありませんっと。部下が口が滑って自分の存在を暴露されるのも時間の問題。移動までに見付からない為に身を隠す場所を探そうと水晶玉を再び輝かせる。



 「しかし、あの少年は一体何者なんでしょうかね。ボスは何か知っていたみたいですし、もしかしすると彼はとんでもない子だったのでは―――」



 直接感じたオゼルの異能な能力。己の使用する魔道具による魔術とは規模が違う黒炎の威力は手加減されていた。アポロとの戦闘で本来の力を発揮した黒炎を間接的に水晶玉から見て本当に人間が成せる事なのだろうかと徐々にと慄き始めていると、




 「彼は重要参考人の一人ですよ、魔術師さん」




 後方から、突如と聞こえた女性の声に思考が一時中断される。



 水晶玉の輝きを止め、肩越しにゆっくりと向けるイェフダはその声主の姿を目で捉える。


 

 時が止まる、というのはこういう事だろうか。

 イェフダ一人しか居ないはずの路地裏に同じように一人の女性が立っている。



 美しい女性だった。

 腰まで届く長い緑色の髪を揺らし、キリッとした琥珀色の瞳が此方を射抜くように見据えている。大人の女性をそのまま形容したような、端正で整った顔立ちだった。身長はイェフダより少し高めで百七十五前後。黒色を基調とした軍服はシンプルに華美な装飾はなく、その存在感をより際立たせる。


 彼女の羽織っている紺碧色のコートに入った❝彫刻されたような肉体に立派な顎髭を蓄える男性❞の紋章を象った刺繍。



 その刺繍を見てイェフダはおもむろに口を開く。




 「―――ポセイド帝国の者ですか」




 「そうです。私はポセイド帝国からやって参りました、エミリーと申します。以後お見知りおきを」



 右手の掌を豊かな胸に当て、お辞儀をする女性―――エミリー。その様だけでもあまりの荘厳さでつい見惚れてしまう程のものだった。しかしイェフダはそんな事にも目もくれず脳内で状況を整理していた。

 何故、彼女がここに現れたのか。この路地裏まで迷子になったなんて都合良過ぎる解釈を取り払い、ここはクベラ大国首都よりかなり離れた誰も入る事の出来ない路地で閑散とした建物が並び立つ場所である。

 それどころか一番彼を驚かせたのは、彼女は❝一切気配を感じさせない❞で彼の背後を取ったのだ。




 (私が遅れを取った?いや、そんな事はない。常に周囲の警戒を怠らず感知魔法を張り巡らせていた。なのに、この女性は………)



 身体を向き直して、動揺を見せまいと平静を保った表情で微笑む。




 「これはこれは。初めまして、ポセイド帝国の麗しいお方。私はイェフダ。こんな場所に何用ですかね?」




 「イェフダさん。いいお名前ですね。あ、名前覚えるの苦手なんですぐ忘れますけども。それにしてもここは素晴らしい国ですね。活気盛んで、我が国とは段違いといった印象です」




 しかし噛み合わない会話に少しぴくッと目尻が引き攣るイェフダはコホンと咳払いをして、改めて質問を投げ掛ける前に、




 「さて、私は貴方に用があるのですが、質問に答えて頂けませんか?」




 矢継ぎ早にエミリーが答えたのだ。柔和な口調ではあるもののその言葉には幾分かの威圧感を与えさせるものだった。

 ニッコリといいですよ、と返すイェフダは右手に持つ水晶玉に意識を向けている。

 

 何時何が起こるか分からない。未知な存在である彼女の行動を常に神経を巡らせる。




 「では、貴方は彼を―――オゼルという少年について何処まで知りましたか?」




 「………この少年の事ですか?」




 投げ掛けられた聞き覚えの無い名前に一度考え込むも水晶玉を輝かせてオゼルの顔を映し出すと彼女は首を縦に振る。

 その反応を見て再び黙考するイェフダ。この女性と彼とはどういった関係なのかについて。しかし、思い当たる節がなく、情報も全くない。これ以上は堂々巡りだと判断し、



 「―――いや、接触しただけですので、お役に立てる情報は持ってません。すみませんね」



 「そうですか」




 己の手を組み、エミリーは瞑目して彼の答えた内容に暫し黙り込み、数秒後にすっと瞼を開けると、




 「嘘ですね」




 バッサリと切り捨てられた。




 「………え?」




 あまりにも唐突過ぎる返事と予想だにしなかった反応に思わず唖然とする。イェフダの態度にも一切気にせず言葉を紡ぐ。




 「貴方は特にないと仰いましたが、少し虚誕かと思います。正確に言えば❝彼の能力も知っている。しかし見知らぬ私にその存在を無下に知らされてはいけないから適当に誤魔化そう❞。そんな感じにも読み取れました」



 「―――ッ!?」




 少し違う内容の答えで鎌をかけたつもりがそれを見抜くどころか心の内も截然と暴かれた事に、流石のイェフダも二の句が継げない。

 そして必死に頭の中を回転させる。

 この能力は何だと。心を見抜くメンタリストの類なのだろうかと。

 そうであれば、イェフダの魔術によって見抜く事も可能である。日輪教といった反社会的勢力に属していたといえど彼は一介の魔術師であり、相手の能力の探知や行動を先読みする魔術も得意としている。そんなイェフダをしてもエミリーの気配や能力何もかもが感じ取れなかった。



 「驚かせてすみません。しかし、貴方も困ったお方ですね。正直に話せば良かったものの、あろうことか私を前にそのような嘘を付くなどとは致し方ありません」



 言い終えると彼女の雰囲気が急に変化する。穏やかとはかけ離れた―――憐憫と怒りの表情。



 「―――お仕置きが必要ですね」




 突如と、彼女の右手の甲から目を瞑ってしまう程強い輝きを放たれる。

 イェフダは我に返り此方も水晶玉に魔力を溜め始める。彼は彼女が放つ光を訝し気に見詰めるとそれは恐らく自分と同じ魔術の類だと推測した。


 しかし、



 「………何ですか、その魔法は?」




 明らかに魔術とは違う、異色で膨大な魔力。今まで感じた事のない能力にイェフダは疑問を吐露した。

 


 そして警鐘を鳴らす。この攻撃はまずい、と。




 「―――くっ!」



 水晶玉から四つの魔法陣が現れる。紫電の稲妻。黄銅色の岩石。白銀の氷柱。そして真紅の火炎。それらが交互に回転しながら彼女に標準を定める。




 「❝四重魔術(カトル・ド・マジ)❞!!」



 四属性の魔術が螺旋を描きながら放たれる。まともに直撃すればただでは済まない威力であろうそれらは激しい轟音と共に四色の色彩豊かな攻撃でまさに四重奏をも想起させる。


 狭い路地裏で避ける余裕がなく、そんな迫り来る攻撃を迎え撃たなければならない彼女は依然と構えたままだった。それは何故か。理由は単純なものだった。 



 「!!?」




 イェフダの目には明らかに物理法則を無視した現象を確認した。

 一直線に向かう四属性の魔術―――その全てが別方向へと軌道を変え、彼女の身体を逸れて無人の壁や上空へと外れた。



 特殊な魔術を使った訳でも、彼女が目にも止まらぬ速さで全て払い除けた訳でもない。自然と起こり得る人間の智恵を遥かに超越した理不尽な能力の一つ。彼はその光景を何度も見た事があったのだ。

 



 「まさか、❝貴女も❞だったのですか………ッ!」




 同類にしか攻撃が通らない顕現者特有の能力。他の攻撃は身体をすり抜けるといった現象だったが、彼女の場合軌道を変えて無効化する。

 アポロとオゼルを知っているイェフダにとっては、あまりの反則振りに手も足も出せない。

 つまり、負けは確定されたのも同然なのだと。



 逸れた自分の攻撃の行く先を見届けてから、彼女の手の甲に目を向けるとそこで発見する。




 「彼と同じ紋章………!」



 「ふふ、そうですね。あの少年と同じ❝神属紋❞ですよ。と、言ってもまあ。❝私は少し違います❞けど」




 六芒星と男女を象った紋章、通称❝神属紋❞。オゼルと同じ証が刻まれている彼女はイェフダの反応を見て取ると人差し指を天に突き出すように腕を上げる。

 雲一つない夜空に浮かぶ大きな月。それをバックにエミリーは一筋の光を指先から上空に放たれる。



 不可解な攻撃に新たに水晶玉を光らせる。それは❝転移魔法❞。自分が一度訪れた場所に瞬間移動出来る魔術の一つ。一際光り輝く強光はイェフダを包み込み、光が消えた時には彼の姿はなかった。

 そう、イェフダは逃亡を図ったのだ。自分の野望を達成する為に例えその逃げる背中が無様であろうと彼には関係ない。


 ―――ただ生き抜く為に、最期の足掻きを見せる。




 姿を消したイェフダにエミリーは依然と変わらず。しかし、彼女の氷のような冷たい声がポツリと零れる。




 「………無駄です。例えどんな遠くの国にまで逃げようが、地中深くまで掘り起こし身を隠そうが、私には無意味です」



 すると、夜空に変化が訪れる。

 先程放たれた光線は闇に飲み込まれたかと思いきや、星がなかった空一帯に爛々と輝きを放つ光の数々が出現。それらが一点に集合し始め、みるみるうちに月と遜色ない程巨大な光となる。



 「―――❝審判の刻。汝は許された。不浄なる魂から我らが神の御加護より、救いの光を示し出せ………❞」




 両目を閉じ、詠唱が紡がれると彼女が立っている地面を中心に六芒星の紋章が顕現され、薄暗い路地裏を淡い光で包む込んだ。

 一方で転移魔法によって遠く離れた場所にまで移動したイェフダはこれまでにない焦燥感に駆られ、何度も転移魔法を繰り返す。

 上空に浮かぶ光を横目に、攻撃が当たらないようあらゆる死角に身を隠すように、逃げ続ける。

 


 「私はッ………死ぬわけにはいきません!」



 まだ、やり残した事がある。まだ、野望が達成できていない。



 「こんな………こんな事が………!」



 顕現者の力を手に入れて、世界征服を目指す。


 

 「あってなるものか―――!」

 


 叶わぬ願いを悲痛の叫び声で表し、そして己の不運な人生を見返す時間もなく、




 「―――❝月審(ディエティティス)❞」




 夜空から降る一直線の極光は標的であるイェフダに目掛けて障害物諸共一瞬にして飲み込んだ。地面を激しい地鳴りを起こし、大気を震わせる一撃はそこだけが切り裂かれたように空間を歪ませる。

 世界の終わりを思わせる光景は落とされた遠い場所を白く塗り潰され、極光が晴れた直後は元の薄暗さへと元通りになる。



 しかし、ただ元通りになる訳ではない。



 歪んだ空間が元に戻ろうと周囲に暴風が発生する。我楽多や木材などを巻き込んで暴れ回ると、吐き出すように遠く彼方へと飛んで行った。

 極光の的となった場所からは黒煙を立てる。その中心となったイェフダは無慈悲にも黒炭となっているのを彼女は能力で感知すると、



 「これにて、神罰終了です」



 哀れみを宿した双眸をゆっくりと閉眼し、手を合わせて祈りを込める。

 彼女が放った光は収束を迎えた今も空気を振動させ続ける。それは彼女が誇る人間の領域を逸脱した威力を持つ能力によって全てを物語っている証拠でもある。


 黙祷を捧げる彼女は目を開け、あっと声を出して、




 「また、殺しちゃったじゃない………聞いてなかった質問もあったのに。………ハア」




 先程までの冷酷無比な彼女は居ない。そこに居たのは己がしでかした過ちに憂い目に感じ落ち込む残念な女性の顔だった。暫し自責の念に駆られ、壁に手を付いてどんよりとするがまあいいかと開き直る。



 「本当だったら❝あの男❞についても知りたかったけど。まあ、しょうがないわよね。それに、今はその時じゃないし、今回はただの偵察が目的だもん」



 崩れた口調で自問自答して自分自身を奮起させる。この場所に駆り出された理由を思い出し、イェフダの審問も含め、これまで手に入れた情報を整理する。



 「あの子―――オゼルという少年の安否確認。そして、彼が顕現した能力の成長過程と分析も無事に入手出来た。これ以上面倒事に巻き込まれたくないし、さっさと陛下の元まで帰るとしますか」




 羽織っていた紺碧色のコートを靡かせながら踵を返すエミリーは歩を進めながら上空に浮かぶ月を見詰める。魅入られる程に美しい月にも劣らない彼女の面貌には少し曇りが掛かっていた。

 この先に向かうのは多く枝分かれした険しい道のり。そのどれを選ぼうとも待っているのは混濁とした未来。



 彼女は見据えている。これから何が待っているのかを。どれを選んでも変わらない―――負の連鎖。



 あの少年に課せられた運命の悪戯。その意味が分かるのがいつになるかなんて、誰にも分からない。唯一答えを知っているのは言うまでもなく―――オゼル自身。



 ポセイド帝国皇帝ルイゼーンと憎悪の復讐者オゼル。



 二人を中心に巻き込まれていく人たちは何を思い、誰を信じ、どれと戦えばいいのだろうか。



 どちらに付いても、行き着く先は屍を踏み倒し、犠牲から成り立つ偽善とした未来。



 その未来を正すのは藻掻き続ける哀れな人間なのか。将又、人間の皮を被った化け物なのか。それとも、弱者の願いで再び降臨する❝神❞なのか。




 いずれ相対するその時に向けて。そんな幾許の願いを交差させ、彼女は闇の中へと消えていったのだった。

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