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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
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Episode17:顕現


 俺は目の前に起きた現象にどう反応すればいいのか、考える時間も猶予も無慈悲にも与えてくれない。確かに斃したはずの人間が―――いや、もうこれは人間として捉えていいのかすら定かではない。最早人智を越えた超常現象に近い。仁王立ちで何もない顔で此方をずっと対面した状態で約十秒後。足を前に踏み出し始めた。



 「ッ―――!?」



 反射的に、本能的に、俺はもう一度ルビカンテを放った。先程と変わらない力加減で、もう跡形もなく無くす勢いで。しかし、そいつは瞬時に横に移動し、攻撃を回避した。そして今も尚歩調は変わらず迫り来る。何も見えてないはずなのに、何故こいつは躱せた?なんて疑問を浮かべるも束の間、異変が起きた事に気付く。



 それは繋ぎ合わせるような構築する音。痛々しくも露出する血肉と骨から岩石が突出しては渦巻きながら顔へと形成していく。しかしぱっと見だと皮膚がないからかなり刺激が強い絵面でとても描写しにくい。



 「―――ァ、アァ~、あ、あ………」



 声帯も無事修復し、低い声を何度も発して喉の出具合を調整する。少し間隔を空けて皮膚、眼球、髪と。全て終わった頃には見慣れた白髪の男性へと元に戻った。



 自己再生。一応俺にも備わっている能力だけど、これはその比じゃねえ。俺の場合、軽い怪我を負えば機能するが、それでも時間が掛かる。致命傷といった命に関わる怪我となるとそれはもう何日、何週間掛けないと完治に至らない。最悪、機能せずに死ぬだろうな。一方こいつの場合、もう回復と速さが異常なくらいに桁違いだ。頭と心臓辺りの二か所は普通の人間だったらどちらかを消し去れば必ず死ぬのは………まあ、こんなのは常識だろうけど。



 でも、俺は纏めて消し去った。それでも、こいつは瞬時に再生した。ここまで❝化け物❞に近い存在を目の当たりにすると、もう驚くどころか寧ろ笑えてくるな。いや、笑えないな。



 「―――ふぅ~。これで、完全復活だな」



 と、一人で頭の中を整理していると溜め息と同時に爽快そうな声が耳に入ってきた。首を左右に振って骨を鳴らし、親指を片方の鼻の穴を塞ぎ、唾を吐き出すように鼻血を一回噴き出す。その表情はとても、恍惚とした法悦の輝きを帯びていた。



 「いやあ、その漆黒の炎。凄いね。たった一度食らっただけで❝一回死亡❞だ。予てから持ってるオレの❝特性❞ですら紙切れ同然にされるなんてね。君は矢張り、そうなんだな」



 「………何なんだ、てめえは………?」



 もう使い物にならない短剣の代替として黒炎を両手に纏わせて、握り拳を前に突き出す。嬉々として一人納得して喜ぶアポロとは反対に疑問を投げ掛ける。最初に出会った時からこのやり取りを何度も繰り返している気がするな。



 「ククク、失礼」



 すると、落ち着きを取り戻したアポロは俺の真正面まで来たところで歩みを止める。海底をも思わせる紺碧色の双眸がじっと見詰めてくる。



 「オレは君と同じで、❝特異稀な体質❞の持ち主でしてね。先程君に見せたこの❝身体中を岩石に変える能力❞もその一つだ」



 と言って両手を岩石の鉤爪へと変え、俺へと見せつけるように晒す。



 「その❝特異稀な体質❞には二種類存在しているのは知っているかな」



 「………なんだと」



 俺の反応にアポロは竜鱗のように凹凸した岩石の鉤爪の人差し指を伸ばす。



 「一つ、生まれ持った瞬間から得る❝先天的顕現❞は人間の想像を遥かに凌駕する異質な能力で、この世界で会得しているのは見てきた限りだとオレかもう一人くらいか。まあ、そこまで居ないな」



 そして中指を伸ばす。



 「二つ、元は普通の人間だが何かしらの引き金によって能力を得てしまう❝後天的顕現❞。これは知っての通り、君みたいな人体実験された人間等がこの部類に属するだろうよ」



 つまり、ここでいう能力ていうのは俺の黒炎、アポロの岩石といった人智を越えた力であり、ややこしいかもしれないがタミルの暗術やイェフダの魔術などはこれらに属さない。ここの違いは少なからず理解はしている。

 実際、彼女らの使う力は一族の伝統術法や魔術を集約した魔道具といった敵に対抗出来る術を自分たちなりに編み出した❝人間の知恵❞の賜物であって、元から所持している能力とは別である。



 「しかし、本来顕現するはずのない人間が先天的顕現に近い能力を引き出そうにも中途半端な力しか発揮できない。後天的顕現は謂わば、先天的顕現の劣化版。現に君が負っている傷が何よりも証拠だ」



 アポロはもう片方の手で俺を指差す。未だにこの男に斬り裂かれた傷口から脈々と流れる血が治まらない。久々に感じる痛みと僅かに朦朧とする視界と懸命に闘いながら俺は目線を維持してみせる。



 「我々❝顕現者❞は普通の攻撃だと傷は付かないどころか透けて通れば攻撃を別方向へと逸らすのもまた能力の一つ。しかし、一見不死身で無敵な能力だがこれには一つ欠点がある。それは―――」



 「―――❝同じ能力者の攻撃にしか通用しない❞。そうだろ」



 俺の出した答えに微笑みを崩さず肯定の頷きをする。敵の問い出した問題に冷静に受け答えしている自分に何よりも先に驚いている。窮地に立たされている状況なのに、何を冷静を保っているんだろうか。自分自身でも分からない。



 「ルイゼーンはこの後天的顕現の人体実験で大量生産させて世界征服でも目論んでいるんだろうよ。だが逆に逃げ出した実験体を野放しにしてはいずれ報復が来た時に滅亡の脅威に成り兼ねない。君を今でも血眼にして探すのも頷ける。勿論、君が実の息子だっていう理由を除いても」



 両手を降ろし、更に言葉を続ける。



 「しかしまあ、劣化版とは言ったが君は我々に限りなく近い特異中の特異だ。正直オレをここまで食らわせたのは君が初めて、いや、❝二人目❞か」



 「❝二人目❞………?」




 「………いや、何でもない」



 ………何だ、今の間は?


 自分から吹っ掛けといて引っかかった箇所を問うと嫌な雰囲気を一瞬だけ醸し出したぞ。言って後悔していると表現した方が良いのか、それすら微妙なラインだが。端正な表情が苦虫を嚙み潰したように歪みはしたけど、直ぐに微笑みに戻った。



 釈然としない気がするが、そんな俺の思考を余所にアポロは引き続けて述べる。




 「この能力てのは、何か不思議なモノだとはオレは思うんだよな。他の人間たちとは違って誰にもこの能力は持っていなく、限られた者にしか得ていない、これってどうなんだろうか」



 「………さあな、少なくとも俺は良いモンではないと思ってる」



 「クク。まあそうだろうよ。オレが昔、誤ってこの能力を同僚や国民、そして国王にまで晒してしまった事があった。その時に何て言われた、分かるか?」



 「………」




 俺は、答えない。そして、白髪の男は間髪入れずに答えた。




 「❝奇跡❞だってよ。どいつもこいつもまるでこの世とは思えない者を見た顔をしてたな。でもオレも馬鹿だったからこんな一言だけでも嬉しかった。………そんな単純な話じゃない、てのに調子乗ってた」



 思い出しながら己を嘲笑うかのような笑みを含み、溜め息を洩らす。その双眸には微かにだが悲壮感も混じっているような気がした。



 「でも」っと前置きする。



 「それからの生活は一変したよ。今まで友達だと思ってた奴からは避けられるようになり、逆に忌み嫌われていた連中からは媚び諂って来る。そして尊敬していた国王ですらも、オレの事を人間扱いしてくれなくなった。オレは思ったよ、人間ていう生き物はここまで変われるのかとな」



 「………」



 「だからオレは、❝全て壊した❞。何もかも。ありとあらゆる残虐の限りを尽くした結果、国は滅んだ。今じゃあこうして陰でノウノウと生きる羽目になっちまったがな」



 国が滅んだ背景にはこの男の人間不信によって生み出した悲劇、と言ったところなんだろうか………。普通人間の身体から岩石が出てきたら誰しもが驚くし、恐怖するだろうよ。俺ですら黒炎を晒した事がない。でもこの男は、ちょっとした出来事で全てを失い、奪い、そして捨ててしまったのだと。そう、悲しげに雨粒のようにポツポツと語った。



 「………君はこの能力は少なくとも良いモンではないと言ったが、確かにそうなのかもしれない」



 開放的に崩壊した窓から乳白色の月明りが広がり、それによって一層この男の紺碧色の双眸が輝きを放つと今まで向けていた俺へのそれを月へと動かし、自然と首も上へと傾ける。



 「要は使い側の勝手次第だ。一国を滅ぼす事も出来れば、一国を護る事も出来る、奇跡に近いこの力を。良いモンであって良いモンじゃない。顕現者は謂わばコインの裏表のようにどちらにも転じられる」



 

 月へと今度は語り掛けるように、低く鋭い声が耳に響く。




 「奇跡………何て、そう言えばひと昔前にも似たようなのがあったような………んまあ、いいか。この能力は、そうだな。それに因んでこう呼んでいる」



 

 ゆっくりと瞼を閉じ、呟くようにしかし、俺の耳に鮮明に確実に聴こえる声で。



 「❝神の贈物❞だと―――………」



 そう、呼んだ。

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