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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
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Episode15:復讐



 


 言葉を詰まらせ、不意に顔を伏せてしまう俺は深呼吸で一度気持ちを整理する。すっと瞼を閉じて今までの事を振り返ってみる。この時不思議にも崩れかけていた脳みその機能が回復し、冷静に考える事が出来ている。



 確かにまあ。この男の言う通りだ。否定はしないよ。



 俺は理不尽な世の中に何度恨んだか。何度憎んだか。数え切れない程に。



 ❝三天神❞が一度壊れかけた世界を一瞬にして破壊し、その後人間が二度と同じ過ちを犯さまいと自分達なりに復興してきた。でも、結局は完全な平和にならなかった。俺はふざけるなと怒ったり、仕方ないと諦めたりと両方が入り混じった感情が逃亡中常に心の中を彷徨っていたのを、ふと思い出す。





 そう、だな。




 このふざけた世界をまた、作り直すといった大それた野望など掲げるつもりはないし、そんなのは虚言で虚妄に過ぎないだろうな。

 ………ただ、俺は一度願った。

 誰かがこの世界をまた良い方向へと導いてくれる先導者を。力が無かったからこそ、果てしなく無謀に近いその願いを、監獄の中で、ずっと祈り続けていた。



 でも、そういう事じゃないとも考えた。

 誰かに任せるなんて、それは考え、行動するのを放棄してしまうのに等しい。



 いつか、自分の手で変えていきたい。もう弱いままで、逃げるだけの人間にだけはなりたくない。

 そう思い、この十年間自分に施された❝これ❞の制御する為に四六時中汗水、血もたくさん流して修行に修行を重ねて、粘り強く生きてきた。そこに何の後悔も未練もない。



 そして何より、逃亡中に出逢ったタミル。彼女の存在は大きかった。今もこうして………って、まあさっきもだけど迷惑を掛けっぱなしだから、常日頃から感謝しか出てこないな。

 まあ彼女とは時々喧嘩もするし、下らない冗談を交わしたりと切っても切れない関係になりつつある。俺の自慢の戦友だ。



 ―――そう。そうだ。だから。俺は決めたんだ………。



 「………ははっ」




 自嘲気味に笑い飛ばし、固かった表情が綻ぶ。今しがた困惑していた俺は何だったんだ。こんな簡単な問いに何を焦っていたんだが、つい笑ってしまったな。この男の勢いで押されてしまって自分の本当の❝生き方❞を見失うところだったが、もう迷う必要ない。



 視線を鋭い眼光を放つ白髪の男に戻す。俺は少しずつ前へと歩を進み、短剣を前に突き出すと刃を平行に構える。



 「―――ふう、深く考えるなんて俺らしくなかったよ全く。しっかりしろよ、オゼル。前を見て生きていくって決めたじゃないか」




 俺の発言に反応し少しだけ眉間に皺が寄った白髪の男。そんなのお構いなしに俺は強い思いを持って、答えた。



 「そんな事どうでもいいだろうがよ、日輪教の頭領様よ。どう生きていこうがそんなの決まってる。俺の思うが侭に、最終目的を果たす為にも、俺は立ち止まる訳にはいかないんだよ。まずはこの町の人々の安寧の為にも、俺は剣を振るう。俺の生きていく過程の上でお前らのように立ちはだかる存在が現れたら、全て薙ぎ払うさ」




 「………ほう。君は只管ポセイド帝国の追手から逃げ続けながら、ずっと生きていくのに何とも思わないのか?」



 「俺らはただこれまでずっと何も考えずに逃げ続けていた訳ではない。力をつける為に、コントロールを身に付ける為に身を隠しながら鍛錬を積んできた。ずっと弱かったし、大人数相手にまともに対抗してもすぐ捕まっちゃうと思ったからな………んまあ、まともに❝この力❞が使えるようになったのがここ最近で気付けば十年もかかっちゃったもんで、我ながら遅すぎたなと自負してるよ」




 もう片方の掌から暗闇にも似た、漆黒に染まった赤黒い炎を放出して手首から上を纏うように覆う。この力は望んで手にしたモンじゃない。この炎はある意味自分自身の心象を顕在化したのかもしれない。




 「そうやって過去に囚われ、復讐の鎖に縛られても尚、都合のいい解釈を一生して自分を誤魔化し続けていくんだぞ。実に滑稽で、哀れな子どもよ。君みたいな子を見てきてはいたが、君はその中でも上位に入る」




 「そいつはどうも。でも俺はこの生き方が一番性に合ってるし、今後も変えていくつもりはない。俺は必ず成し遂げてみせる」



 

 掌を力強く握り締める。猛々しく燃え盛っていた赤黒い炎は空中に塵となって霧散していった。両手首に嵌めている鉄の手枷に一瞥し、今一度決意を改めて、宣言する。




 「ポセイド帝国の皇帝ルイゼーンをこの手で殺してやる。そして誓うんだ。一生苦しむ事のない幸せな国へと変えてみせるとな!」




 力強い咆哮が迷いを、跡形も無く消し去った。モヤッとした気持ちが綺麗さっぱり無くなった。まるで清らかな水で汚れを洗い流し浄化された気分。恐らくだけど顔も幾分か柔らかく、口元も緩めているのが自分でも分かる。



 「………そうか、人間ていうのはなかなかどうして思い通りにいかない。だが、思い通りにいかないのが面白いのも事実」



 嘆息。それは言葉巧みな口車で俺を屈服させようと失敗した事に対しての溜め息なのか、それとも憐憫の思いなのか。ただ分かる事は声色とは裏腹にこの男も不気味にも口角を吊り上げている。




 「ふふふ、いいだろう。さあ、ぶつけてくるがいい、君のイカれた想いをこのオレに、この日輪教頭領・アポロが相手になる!!」



 依然と腕を組んで仁王立ちでいた白髪の男―――アポロは構えを崩し、片手を前に突き出すと❝それ❞は起きた。

 バキキッ、と奇妙な音を立てて内側から生えてくる骨………いや、たぶんそれは❝岩石❞。気付けば一瞬にして真雪のような白肌が不気味な灰色の岩石で形成された鉤爪へと変貌した。



 そして、狂気にも満ちた表情へと一変する。

 それは例えるなら、血に飢えた凶悪な戦闘狂そのもの。




 俺も短剣の切っ先をアポロに剥け、戦闘態勢に移行する。



 俺の中の何かが報せてくる。この男は、今までの敵の中でも特に危険だと。



 それでも、この町を脅かす大元を絶たなければ一生苦しませてしまう事に変わりない。タミルも日輪教の輩を相手に一人で戦ってくれている。

 それに、俺はしっかりと答えあげないと駄目だな。



 ―――さぁ、始めるか。




 「………いくぞ、アポロ」

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