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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
14/35

Episode13:剔抉


 ――――――――

 ――――――

 ――――



 ―――西北・某貧民街―――



 正面突破が無事成功し、後方から交戦しているであろう日輪教の叫び声と途中途中で金属音が混じりながらも、爆発音が五、六回程連続で鳴り響くとさっきまでが嘘みたいに、急に静かになった。

 タミル、どんだけ派手に暴れてるんだよ。



 やれやれっと走りながら溜め息を洩らす。一応追手が来てないか常に警戒は怠ってはいなかったのだが、誰一人こっちに来なかったのが正直意外であった。

 あの変態青髪の男、イェフダの作戦なんだろうか。タミル一人に対して数百。徹底的に潰すつもりだ。しかし、何であの男はタミルにそこまで執着したんだろう?単純に女だから?いや、そんなはずない。………まあ、あの変態だからあり得そうか。



 そんな下らない事を考えている間にアジトがあると聞いた例の貧民街に着いた訳だが、どういう事か、人っ子一人も居ない。寧ろ生活感が一切見受けられない何とも不気味な光景だ。建物はあの中心街の木製で建築されたのとは違い、全て高価そうな大理石で構築されているのだが、所々に罅が入っており、人が住めない位にボロボロ。路上も昔の人が使っていた道具や洋服、玩具などが散在している。


 

 そういえば、嘗てこの貧民街は首都として多くの王族が暮らしていた、てここに来た時に何処かの資料に書いてあったな。それも今じゃあ、反社会組織・日輪教の縄張りだもんな………。



 「――――」



 ………。



 俺は❝また❞、彼女に迷惑を掛けてしまった………。



 毎回、毎度、一体いつになったら治るんだこれは。敵と戦っている時、俺はいつの間にか記憶が一瞬消える。それも曖昧な世界に閉じ込められて自分が自分でないみたいに、全てが黒く、暗闇の中を彷徨い続けていた。


 そして、そんな世界から抜け出すと気付けば敵の息の根を止め、相棒に叱責されていた、なんて事が。


 このやり取りがもう十年も繰り返している。ましてや、ここ最近頻度が多いのが突っかかる。



 ❝悪道に堕ちた人を正せる方法は幾らでもある。彼らの命をそう簡単に奪ってはいけない❞、と。


 彼女が昔に言った内容が頭ん中を過ぎった。

 彼女は昔からそうだ。シノビという他人の命を奪う東方伝統の暗殺部隊出身にも関わらず、彼女は敵にも同情したり、見逃したりとシノビらしからぬ言動が多い。彼女自身の性格ならではの台詞。確かにその通りだよ。簡単に命を奪ってはいけない。



 分かっている。分かってはいる。でも、俺の心の底に潜む❝これ❞にどうしても抗えないんだ。


 

 「―――くそ」




 吐き捨てるように自分自身の不甲斐無さを痛感する。そして、誰一人返答出来る者はおらず、不穏な空気とともに霧散していく。



 現在時刻は丁度十一の刻。戦いが始まってもうそんなに経ったのか。俺は手元に携帯していた銀時計を確認しつつ、今まで硝子破片と砂利を踏んでいた音が鳴り止んだところで足を止める。



 「ここが………」


 


 他の建物とは一際デカい円筒形の建築物が目の前に立っていた。



 開放されている入口からは今まで会ってきた敵より遥かに強い、肌を鋭利な刃物で突き刺されているようなオーラを感じる。先程のイェフダも中々のオーラを放っていたが、それ以上で桁違いだ。



 生唾を飲み込み、一度深呼吸。俺は腰から短剣を抜き、今まで以上の警戒態勢で建物の中に進む。






 *** *** *** ***



 「―――中に入ったのはいいが、何だここは………?」



 今にも崩れそうな外装とは真反対に内装はかなり綺麗になってる。家具もしっかりと揃っており、生活感漂う室内を見渡してはいるが明かりが灯ってないせいであまりはっきりとまでは見えない。


 床一杯に散らばってるゴミを避けながら前に進んでいくとふと、壁に視線がいく。そこには白ローブたちの象徴である太陽の紋章が書かれている旗が吊るされ、その真下には祭壇が置かれており、周りに黄色い蝋燭と血生臭い何かの供え物が立てられている。ここでおそらく日輪教が敬う太陽神様を祀る儀式が執り行われているのだろう。



 「間違いない………ここが日輪教のアジト」



 改めて確信を得た俺は足音を消しながら慎重に階段を上へと昇る。全部で何階まであるんだろうか。外から見ただけだと、十階はありそうだった。



 数百以上いる教徒が住むからにはそれなりの巨大な本拠地がいるだろうに。元々王都だったからにはこの建物も昔はたくさんの王族が暮らしていたのかもしれない。ただ、今や町はおろか国全体にまで恐怖に陥れようとしてる邪宗の根城にされているなんて皮肉な話だけど。




  ………それにしても、上に行けば行くほど臭ってくる、何だこの鼻が曲がる程の悪臭は?

 鼻をつまみながら悪臭の出処を探す。上の階に進むにつれてその臭いが濃くなっていくのが分かる。最上階に近いところまで昇ると、とある大きな部屋があるのに目がいき、そこに足を踏み入れる。

 


 「うっ………!?」



 そこで俺は目を疑う光景が目の前に広がっていた。部屋は下の階と変わらず床やテーブルに食べ物や飲み物が散らばっている。しかし、それらと同じような扱いされているボロボロの服を着た傷だらけの女性たちが複数倒れている。

 俺は急いで一人ひとりの元へと駆け寄り、安否を確認していくと幸いにも意識があった一人の女性が居た為、事情を聴く。



 ここの女性たちは日輪教の連中によって攫われ、欲求を満たす為に毎晩玩具みたいに扱われてきた。連中は絶えず弄んできた所為で多くの女性たちは耐え切れずに次々と息絶えていった。中には自害した人も。それでも死んでも尚遊び続ける連中はこうして肉体が腐敗するぎりぎりまで残しているのだと。




 あー、成る程。ここの連中は、そこまで堕ちていたのか。

 人間がする所業の範疇を逸脱してる。

 そんな奴らを束ねる頭領を、早く斃さなければ。




 「ありがとう」と女性に感謝すると、羽織っていたローブを彼女に掛ける。ゆっくりと立ち上がり亡くなった他の女性たち一人ひとりに静かに瞼を閉じ、黙祷を捧げる。


 提供された情報によると、上の階にここのボスが居るとの事。悪者は高い所が好きっと何処かで聞いた決まり文句があるみたいだけど、まさに今の状況がその通りなのかも。



 暫くしてから目を開けて最上階へと繋がる螺旋階段へと足を運ぶ。見上げれば深い闇に飲み込まれそうな程何も見えない。ただ、入り口付近で感じたオーラが溢れんばかりに降り注がれているのが伝わってくる。恐らく相手も既にこっちの存在に気付いているに違いない。



 俺は黙々と螺旋階段を大理石とは不釣り合いであろう鋳鉄の手摺を掌で移動させながらゆっくりと昇り始める。コツコツと高らかな足音が塔内に反響する現象がより臨場感を与えてくる。



 昇り切ると光が漏れている開放された扉が俺を待ち受けていた。そして警戒しつつ部屋の中に短剣を前に出したまま中へ。


 ―――と。



 「ようこそ、我が居城へ」



 男の、艶のある低音が耳に入って来る。部屋の奥側に硝子の無い大きな窓が開いている為にそこから月の明かりが差し込み、暗い部屋全体を照らし出す。



 そこで分かる。奴のいる場所とその姿が。



 部屋の奥に横長のソファが一つ。そこに背凭れに深く座って此方を見つめている白髪の男性。見た目は年齢不詳過ぎる位に綺麗な顔立ちで日が明るくなくても分かるほどの美丈夫ぶりであった。




 「ふーん、お前が内の部下たちを誑かしてると噂の男………実際見てみると案外若いんだな」



 ボスと呼ばれる男は、顎に手を添えてじっくりと俺を見てくる。何か見定められてる気分だ。



 でも何故だろう、こいつに見つめられると何か不思議な気持ちになるな。なんかこう、恐れ多い感情が湧いてくる………。



 「………お前が日輪教のボスか」



 「ああ、そうだよ。それにしても君はたった一人で来たのか? 一緒にいた女の子はどこだい」



 「お前の部下たちだが生憎俺の相棒が全員まとめて相手してるよ」



 「ほう。それはなかなかどうして。イェフダもいたはずなのにね、それを君は彼女一人に任せたのかい? 随分と信用しているようだが、果たして君の仲間はあの数相手に勝てるとでも?」



 「ふん、お前ら程度に後れは取らないさ。アイツはそこまで柔じゃない」



 「へえ? その相棒とやらは凄い強いんだな。やるね、一度是非会ってみたかったけどな、残念だ」



 眉を顰めて肩をわざとらしく上下に動かす。

 さて、と腰を上げて立ち上がると鋭い紺碧色の双眸が俺に向けられる。



 「まあいい。それよりも―――オゼル君、だったかな。会いたかったよ」



 「!!?」



 敵意を感じさせず、無防備な状態でゆっくりと此方へと歩み寄って来るこいつは一度も教えていないはずの俺の名前を嬉々として呼んだ。


 こいつは何故俺の名前を知っている。

 何処でこいつは俺の名前を知った。

 そもそも普段から俺は名前を伏して行動してるから良からぬ噂の対象にならない限りは知られる事はまずない。

 

 




 「なぜ、て顔しているな。まあそれもそうか。君はここ最近―――いや、ここ十年姿を晦ましていたはずだが、どうだ?」



 「………さあ、どうだか」



 精一杯抑えた声で反論するが多分動揺が隠しきれてなく、ポーカーフェイスすら保たれていない。

 頭が追いついていない俺に矢継ぎ早に話し掛けてくる。



 「イェフダがお前たちの姿を見せてきた時にオレは心の何処かで君を見たことがあってずっと考えてたけど、漸くさっき思い出した。―――君はとても面白い子だね。あの国から逃げ出した貴重な実験体で特例中の特例だった」



 「………何が言いたい」



 我慢出来ず、反射的に返事をしてしまう。



 こいつのペースに合わせてはいけない。適当に受け流しとけばいい。



 その、はずだった―――。





 「だってそうだろ?君はかのポセイド帝国第三代皇帝・ルイゼーン・サイカの実の息子なのだから」

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