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神堕としの復讐譚  作者: 蒼井志伸
第1章 偽りの太陽編
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Episode11:突破


 「気を付けてオゼル。あの黒ローブの男、他の敵より格段と強いわ………現に私の影分身が一体やられてる」


 「………まじか」



 黒ローブの男はニヒリと口角を歪ませ、もう片方の手で顎髭を触る。



 「くすっ………あなたの分身ですか。生憎、あの程度の力でこの私に敵いはしませんよ」


 

 ごくりっとオゼルは唾液を飲み込むと小さく喉が鳴る。タミルの影分身一体一体の戦力は本体である彼女より少し劣るが、それでも幾人がかりで掛かって来ても難なく対処出来る位に強い。それをこの黒ローブの男は、余裕の笑みを浮かべていた。



 「私の仲間たちが随分とお世話になったそうですね。さて、どう遊んであげましょうか」



 すると黒ローブの男が持つ水晶玉が更に輝きを放ち、彼を中心に円形に光の粒が集まってきていくのを二人は目で捉える。この現象に、タミルの口が開く。



 「………❝魔術師❞ね」



 「ふふ、そうです。あ、そう言えば自己紹介が遅れましたね。私はこの❝日輪教❞でボスの側近をしておりますイェフダです。冥土の土産に覚えといても構いません」



 黒ローブの男―――イェフダと名乗る人物はどうやらこの組織で参謀の地位に属しているそうだ。そして彼の口からこの組織の名前、❝日輪教❞。



 「❝日輪教❞………強ち貴方のいで立ちから如何にも裏社会のカルト宗教を支配してそうな雰囲気が漂って来るわね」



 「おや、それは褒め言葉として受け止めてもいいのですかね」



 「百パー怪しい宗教の教祖様って感じだな。恰好からして趣味が悪いぞオッサン」



 「………ふふ、嬉しいですね」



 「おいあのオッサン喜んでやがる」



 「とんだ変態ね」



 シリアスが続かないやり取りではあるが二人はイェフダの途轍もない異様さから全くと言って程の隙の無さを感じ取り、周囲の教徒と比べ物にならない魔力と殺意の奔出に警戒を保っていた。

 



 「―――さて、冗談はここまでですよ。これ以上此方の邪魔されると困りますからね」



 今まで笑みを浮かべていたイェフダから一気に真剣な表情へと変わり、中心に集まっていた光の粒が全て水晶玉へと吸収される。直後、水晶玉から禍々しい黒い靄が溢れ出して周囲に蔓延していく。



 「死んで下さい。―――❝能力向上(ストレングス・エンハンス)❞」



 黒い靄は仲間たちの身体へと纏い始める。と同時に一斉に呻り声を上げ始めた。ある者は多量の吐血を、ある者は喉元に爪を立てて搔き毟り、ある者は腹を抑えながら蹲る。

 地獄絵図、阿鼻叫喚と表現した方が適切だろう。



 「な、なんだこいつら………苦しみ出したぞ? 仲間じゃないのか………?」



 目の前で起きた出来事にオゼルが訝しげに眺めやるも束の間、いくつものの悲鳴や苦痛の叫びが止まった。耐え切れず、死に絶えたものと思われたが、


 

 「………いや違う。この魔法は―――」



 「………くすっ」



 次々と息を吹き返したように立ち上がる白ローブの集団は武器を取り出し、二人に快楽と殺意で満ちた黒い凝視を浴びさせる。先程の黒い靄は依然と身体中に纏っているこれが能力を付加されている状態を表しているのだろう。



 「本来の力を一気に向上させる云わば補助魔法。今まで戦った時とは大間違いですよ」



 冷たい風に黒ローブをはためかせ、にこやかに笑みを浮かべると人差し指をタミルの方へと向け、


 

 「特にそこの黒い女の人。貴女の能力に興味が湧きましたよ。その分身と言う技と私の魔術。どちらが上か、はっきりしませんか?」



 イェフダのその発言は明らかにタミルへの挑戦でもあり、挑発を意図したものだった。彼女自身はこれが罠であるのは一瞬で理解はしていた。逃げ場のない危機的状況でこの複数の敵を相手となると間違いなく返り討ちにあう。魔術師の❝能力向上❞で強くなったのなら尚更である。また、この魔術師は自分の影分身を容易く斃している。一体どんな能力を使ったのか分からない。



 そんな圧倒的に不利な状況にも関わらず、彼女は、笑う。



 「良いわよ、受けて立つ」



 「タミル!?」



 彼女の返答に驚愕に染まった表情を浮かべるオゼルは声を荒げる。反対にタミルは肩越しに彼を見つめ、耳打ちする。



 〈ここは私に任せて、先に行ってオゼル〉



 〈先に、て。この囲まれた状況でどうやって―――〉



 〈あら、随分と弱気になったじゃない?まさか、❝いつものあれ❞が使えないなんて言わないでしょうね〉



 ―――❝いつものあれ❞。その言葉にオゼルは深く、溜め息を溢す。そして片目しかない真紅の瞳をゆっくりと閉じる。



 (これ使うと周りに気を使わなきゃいけないから、気が進まないんだけどな………)



 やむを得ない、と。短剣を腰の鞘に納めると、ゆっくりと前に歩み出る。その行動に不審に思い、前方の敵ら複数が一斉に攻めかかってきた。それでも、オゼルは足を止めない。握り拳を作った両手を腰辺りまで降ろし、力を込めている。



 (………何ですか、この途轍もなく嫌な空気は)



 イェフダは直感したのだ。



 先程までの空気が一気に変わったと。



 「………消し飛べクソ野郎ども」



 ゴオッと。両手から突如と燃え上がる赤く、そして黒い炎。掌を合わせ、花が開くような形で前へと突き出す。赤黒い炎は大きく、膨らんでいく。



 そして、



 「❝黒炎地獄(ルビカンテ)❞」



 狭い路地など関係なく広範囲に渡って放たれた赤黒い炎は容赦無く前方の敵らを焼き払ったのだった。


 

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