一本の電話
その日はいつもと変わらない1日になるはずだった。いつものように仕事をして、いつものようにのんびりして、いつものように明日を迎えるはずだったんだ。
疎遠になっていた高校時代からの友人の連絡が複数件、着信があったのを覚えている。担任教師だった先生からの連絡もあり、嫌な予感がしていた。
仕事の昼休み、先生へ折り返しの連絡をした事をこの先感謝し続け、そして後悔し続けるだろう。
「もしもし、荒波です。お久しぶりです。どうしたんですか?急に」
「お久しぶりですね。荒波くんに伝えなければならないことがあります」
声色が暗い。先生が紡ぐ言葉が切れていく。それだけで自然と動悸が激しくなる。予感が確信へと変化していく。
「山下功君……覚えていますか?」
「も……もちろん。忘れるわけないじゃないですか。功君、もしかして入院したとか?」
入院?その程度で連絡をしてくる訳がない。それ以上に何かがあったから連絡してきたんだ。頭の中では分かっているのに、分からないふりをする。だって、この後に続く言葉が分かってしまったから。
「功君が先日、自動車の単独事故で亡くなった。今日、通夜があって、明日に葬儀をする。他のクラスメイトにも電話して、参加してくれる人を聞いている」
「は?え?いや、何を言ってるんですか?」
「信じたくないだろうけれど、本当の事なんだ。先生だって信じたくない!」
咄嗟に口から溢れたのは否定の言葉。それに対するように、泣き声で震える言葉を無理矢理我慢するかのように、強い口調で伝えられる事実。嫌でも信じろ……とでも言われているような感覚に陥る。
「今日の通夜……来れるか?来れるようなら皆にも伝えておくから」
その時、行きます!と直ぐには言えなかった。分かっていても信じようとしない自分が居た。やっとの思いで絞り出した声は酷く掠れ、とても自分の声だとは思えなかった。
初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。
この話は私が実際に体験したお話です。決して面白い話では無いと思いますが、この先も読んでいただければと思っております。