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ロースクールの律子さん~紫陽花の謎・解決篇~

作者: 若松ユウ

〇日時

平成三十年六月十九日午後二時から約三分間。


〇場所

東都府西京市赤坂区乃木坂にある一軒家の一室。


〇発言者

御法川律子(みのりかわ・りつこ)。二十三歳。国立大学法学部からロースクールに首席で編入した才媛。


〇推理全文

「みなさまにお集まりいただいたのは、他でもありません。行方不明者の安否が判明したからです」


 参列者のあいだに、どよめきが広がる。


「静粛に願います。すべては、あの紫陽花が教えてくれました」


 時雨の中、庭に咲き乱れる赤い紫陽花を指し示す律子嬢。再び、参列者のあいだに動揺が走る。


「順を追ってご説明いたしますので、どうか、お静かに。まず、私が気になったのは、紫陽花の花の色が例年と違うことでした。これは、そちらの家政婦さんから庭を写した総天然色の写真を拝見させていただき、一緒に確認いたしました。昨年までの記録では、どの一枚も例外なく青紫色でした。そうですよね?」


 律子嬢が部屋の襖近くで佇む中年女に声を掛けると、女は頷きを返す。


「ところが今は、ご覧の通り、薄紅色をしています。ご存知かと思いますが、紫陽花の花の色を決定づけるのは、地中深くの土壌のピーエイチ値です。青紫になるのは酸性、そして、薄紅色になるのは中性ないしアルカリ性である場合です。ここまでは、ご理解いただけたでしょうか?」


 律子嬢が言葉を区切って参列者を見渡すと、顔を見合わせながら一様に押し黙り、そのうち、上座で胡坐をかく壮年男が苛立たしげに先を促す。


「はじめは、誰かが石灰でも撒いたのかと思ったのですが、昨年に行方不明になった頃から、庭に手を付けることは禁じられたと伺いました。そうですよね?」


 律子嬢が上座に胡坐をかく壮年男に声を掛けると、男は苦みばしった顔をしながら頷く。


「それが何か関係があるのか、ですか? えぇ、大いに関係がございます。石灰を撒いたわけでも無いのに、地中のピーエイチ値がアルカリ性に傾いたこと、そして、庭に手を付けることを固く禁じたこと。これらの原因として導き出される結論は、一つです。――あの紫陽花が咲く土の下に、行方不明者が眠っています」


 参列者が騒然とし、壮年男が立ち上がって席を立とうとすると、律子嬢は、その男を呼び止めて断言する。


「くだらない妄言かどうかは、掘り返せば判明することです。遺体の他に、奥さまが行方不明になってから失くしたという指輪が見付かったとしても、あなたは否定できるのですか?」


 参列者の視線が壮年男に集まり、男は般若面のような形相を浮かべると、ガックリと膝を折って嗚咽しながら罪を認めた。


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