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8/20

永倉新八、鬼になる。

池田屋事件以降、世間は再び幕府が勢力を取り戻し京都周辺での表だった攘夷運動も全盛期に比べれば著しく減り

街は再び活気に満ち溢れていた。


しかし、吐血した沖田総司の体調は回復する兆しもなかった。


沖田「・・・」


密かに起き上がって床を脱出しようとすると逃がすまいと目を光らせている永倉も今は大阪にいる。

だからと行って今がチャンスと抜け出す気も起きない。


沖田「・・・つまらないな」


沖田は開けてもらった襖の先にある庭を眺めながら再び目を閉じた。




目を閉じてからどれだけ時間がたったか、わからないが目を開けると襖先の軒下に腰を掛ける人がいた。


沖田「・・・永倉、さん?」


腰を掛けていた人は振り返りながらにっこりと微笑みかけてきた。


山南「残念ながら、私だよ」

沖田「山南さん・・・」

山南「体調はどうだい?」

沖田「これだけずっと寝てたら、治るものも治らないですよ」

山南「まぁそう言ってやるな。永倉君も君の事を想ってしてやっている事だ」

沖田「永倉さんめ・・・どうせ、僕が抜け出さないように見張っててくれって頼まれたんでしょ?」

山南「ま、そうだね。私も伊東君に仕事を任せたのでね。やることが無くなったから丁度いい」

沖田「チェッ、いいなぁー。永倉さんは、今大阪でしょ?」

山南「そうだね。ただ、いい話だけではないよ。谷三十郎が何者かに殺された」

沖田「えっ?谷さんが?」

山南「永倉君も岡田以蔵と戦闘をしたって話だ。何故かそこに高杉晋作もいたと言うから驚きだ」

沖田「永倉さん!大丈夫なんですか!?」

山南「フフッ、大丈夫だよ。君は永倉君の事になると凄く熱くなるね」

沖田「そりゃあの人は、僕に負けたまま死んじゃったら化けてでも出てきそうですからね!」

山南「それは君の本心かい?」

沖田「えっ?」

山南「今は私と君しかここにはいない。本当の事を言ってくれてもいいんだぞ?」

沖田「・・・な、何を言ってるんですか、僕がまるで嘘をついてるみたいじゃないですか」

山南「嘘も100回言えば真となる。嘘だと言うことも忘れてるんじゃないかい?」

沖田「・・・」

山南「沖田君。君はもう少し自分に正直になるべきなんじゃないかな?」

沖田「・・・僕は」


永倉「ただいまーーーーー!!!!沖田ーーーーー、ちゃんと寝てたか?お土産買って来てやったぞー!!」


沖田「!!!!」

山南「あちゃー・・・」

永倉「えっ?なんか、タイミング間違えた?」

沖田 ワナワナ・・・


沖田「永倉さんのバーーーーーーーカ!!!!」


永倉「な、何がなんだかわからないが、すまん・・・あ、お土産のたこ焼き」

沖田「たこ焼きって・・・冷めちゃってるじゃん!温めてきてよ!!」

永倉「温めるって・・・電子レンジとかねーじゃん」

沖田「あーーーー!!もぅ!いつも心配かけといて、ヘラヘラしながら帰ってくるんだからなーこの人は!!」

山南「私が温めてこよう。永倉君、沖田君のことを頼んだよ?」

永倉「アザーッス。よろしくです」

沖田「山南さん!永倉さんを甘やかしたりしたら駄目ですよ!!」

永倉「山南さん、なんで沖田のやつこんなに気が立ってるの?」

山南「永倉君が帰ってきたからきっと嬉しいんだよ」

永倉「ほほう?(。-∀-)なんだ、沖田ー。俺の事心配してたのかー?」

沖田「そ、そんなんじゃないもん!!」

永倉「そんなこと言って~、顔は正直だな。顔が火照ってるぞ?」(*´∀`)っ))Д`)グリグリ

沖田「うーーーーー!!こっちを見るな!!」バチコーン

永倉「フベラッ!!」














高杉「残念ながら斬れなかった」

お龍「いや、斬るなし」モグモグ

高杉「たこ焼きを食べていると言うことは奴も無事だったみたいだな」

お龍「一応は心配してくれてるのね」

高杉「奴を斬るのは俺だ」

お龍「あー、はいはい」

坂本「しかし、岡田も逃げたか奴も一体、どこに潜伏するのやら・・・」

高杉「奴もやはり強かった」

坂本「しかし、おまんもよく無事だったの」

高杉「俺は桂さんを取り戻すまではまだ死ねない」

お龍「あー、今長州に囚われてるんだっけ?」

高杉「奪い返すのは簡単。だが、正攻法じゃなきゃ、きっとあの人は動かない・・・」

坂本「長州も桂を殺せば、どうなるかわかっているから殺さないのだろうな」

高杉「あの人は俺に任せると言っていた。だが、何をすればいいのか・・・」

坂本「なんじゃ、そんなもの。簡単ではないか」

高杉「???」

坂本「主のやりたいことをすればいいのじゃ」

高杉「やりたいこと・・・」

坂本「先程、申してたではないか桂を取り戻したいのだろ?」

高杉「しかし・・・」

坂本「頭の回らない奴が何を迷っちょる」

お龍「あ、高杉さんって面白い歌を詠んでるよね」

高杉「歌?」


お龍「面白き こともなき世を 面白く」


※高杉晋作の辞世の句と言われてますが実際は不明


坂本「ほぉ!主にぴったりな言葉じゃのー、いいセンスじゃ」

高杉「詠んでない」

お龍「あれ?まだ先だった?」

高杉「しかし、いい歌だ。今後使わせてもらおう。礼を言うぞ」


坂本「なんじゃ?もう行くのか?」

高杉「長州へ戻る。坂本、俺には不要なものだ。貴様にやる」

坂本「これは?」

高杉「ピストルだ。今後、貴様のような奴には必要な物だろう」

お龍「へー、この時代にリボルバーってあったんだ」

高杉「お龍殿。主もいるか?」

お龍「無理無理無理無理。怖くて持てない」

高杉「そうか(´・ω・`)」

坂本「ありがたく頂戴しておくぜよ」














永倉「・・・山南さん、遅くね?」

沖田「確かに、遅いですねー」

永倉「電子レンジみつかんねーのかな?」

沖田「だから、電子レンジって何さ」


伊東「あ、いたいた。二人とも、山南さんを見なかったかい?」


沖田「多分、台所とかにいると思うんですけど」

永倉「伊東さんは山南さんに何か用なんですか?」

伊東「いや、今後の活動資金について相談事があったんだが・・・」

永倉「じゃあ、俺が探してきますよ」

伊東「すまないが頼めるかな?」

永倉「わかりやしたー」





台所


島田「お?たこ焼きじゃないの。ラッキー」

永倉「ラッキーじゃねーんだよ!お前は!!」飛び蹴り

島田「オギャァァァァ!!」

永倉「なに勝手に食おうとしてんだよ!」

島田「永倉さんもいります?」

永倉「馬鹿!それは沖田へのお土産だ!」

島田「あ、永倉さん大阪行ってたんですよね?俺には?」

永倉「えっ?・・・あ」

島田「(・∀・)」

永倉「すまん。本当に忘れてた」

島田「マジっすか・・・(;∀;)」

永倉「そ、それよりも山南さん見なかった?」

島田「山南さん?そーいや、見てないですね」

永倉「あれ?たこ焼き放置してどこ行ったんだ?」

島田「あ、そー言えばたこ焼きの箱に置き手紙ありましたよ?」

永倉「置き手紙?どれどれ?」


永倉「・・・えっ?」


島田「なんて書いてあったんですか?」

永倉「おい、急いで山南さんを探せ」

島田「えっ?どうしたんです?」

永倉「お前は山南さんの部屋を見てこい。沖田の部屋で合流だ」

島田「わ、わかりました・・・」






沖田「それでね。その時、永倉さんがね」

伊東「君との会話は永倉君がたくさん登場するみたいですね」

沖田「あの人はどこにでも出てくる様な人ですよ」


永倉「伊東さん!」


沖田「うわっ!ビックリした」

伊東「永倉君、そんなに血相を変えてどうしたんだい?」

永倉「山南さん、ここには来てない?」

沖田「き、来てないけど?」

永倉「沖田、山南さんがこの街で行きそうな所とか検討つくか?」

沖田「あの、そんなに必死になって探さなくても」

永倉「必死になって探さないとまずい状況なんだよ」

沖田「えっ?」


島田「永倉さん!」

永倉「島田、どうだった?」

島田「それが・・・部屋から物が綺麗さっぱり無くなってるんです」

永倉「まずい、まずいぞ・・・」

伊東「永倉君、どういうことかね」

永倉「島田、辺りに人がいないか確認しろ」

島田「は、はい・・・」


永倉の真剣な表情に島田も応えた。


島田「永倉さん、周囲に人はいないみたいです」

沖田「何があったんです?」

永倉「山南さんの置き手紙があった。これを皆はどう捉える?」


永倉は皆に見せるように手紙を置いた。


山南『江戸へ帰る』


伊東「そんな・・・一体、何故?」

沖田「・・・嘘でしょ?」

島田「えっ?これの何がまずいんです?」

永倉「要するに、山南さんは新撰組から出ていったんだ」

島田「えっ?要するにお出掛けですよね」

永倉「・・・あー、言葉選びが出来ない!!だから!山南さんが脱走したっていってんだよ!!」

島田「ええっ!?」

伊東「島田君。新撰組は許可無く外出することを禁じてる。部屋から物が無くなっていて、加えて置き手紙」

伊東「・・・脱走と考えるのが妥当だろう。しかし一体、何故」

沖田「そんな・・・そんな素振り無かったですよ」

※実際、厳しいルールに縛られ、新撰組からの脱走者はかなりいた。脱走者は捕らえられると切腹を命じられた。

永倉「とりあえず、近藤さんと土方さんにバレたらまずい。なんとかしないと・・・」

伊東「まさか・・・山南さんと君達は古くからの付き合いだろ?とても腹を切らせるとは思わないが?」

沖田「・・・」

永倉「・・・」

伊東「おいおい・・・冗談だろ?付き合いよりも隊の規律を守ると言うのか?」

永倉「付き合いが古いからこそ、あの人達は斬ることを選択すると思う」

沖田「僕も・・・そう思います。付き合いが深ければ切らなくていいとなれば隊から反感を買うことになる」

伊東「そんな・・・山南さんは新撰組の総長だぞ?」

永倉「総長だからこそですよ・・・示しがつかない」

伊東「・・・くそっ」

永倉「とにかく、俺達だけでまずは探そう。藤堂も呼んで構わないかな?」

沖田「藤堂さんなら大丈夫だと思います」

島田「俺、呼んできます!」



藤堂「山南さんが脱走!?」

永倉「馬鹿!声がでかい!!」

藤堂「ご、ごめん。けど、一体、なんで?」

永倉「理由はわからんがとにかく、探すのが先決だ。見回り強化と言って京都をとりあえず探しまくるぞ」

藤堂「でも、今日の見回りって三番隊の日だよね?他の隊が出ていったら怪しまれるんじゃ」

伊東「それは私の方で話をつけておくから安心しなさい」

藤堂「わ、わかった。とりあえずあの二人にバレたら本当にまずい。とりあえず俺は先に行く!」

沖田「僕も行きます!」

永倉「沖田、お前は」

沖田「寝てろとか、言わないでよ!!山南さんは大切な仲間だ。絶対に行く!」

永倉「・・・台所に温まったたこ焼きあるから食ってから行けよ?」

沖田「うん!」


伊東「永倉君。話を作るのは恐らく一日が限界だ。隠していた事がバレたら我々も処罰の対象になりかねん」

永倉「タイムリミットは一日か・・・」

伊東「頼んだぞ?山南さんを見つけ出してくれ」

永倉「わかりました!」









永倉「くそー、どこにいるんだよ・・・」

沖田「永倉さん、そっちはいました?」

永倉「駄目。全然見つかんない」

沖田「もう京都を抜けてるのかな?」

永倉「だとしたら、まずいな・・・」

藤堂「おーい、そっちはどうだ?」

永倉「駄目だ」

沖田「僕、馬を借りてきます!」ダッ

永倉「しかし、なんで脱走なんか・・・」

藤堂「そこだよ。なんでだ?そりゃ意見の対立はあったかもだけど、脱走するほどなのか?」

永倉「わからん・・・」

藤堂「くそっ、近藤さんの野郎・・・」

永倉「落ち着け、藤堂」

藤堂「だって、あの人最近意味わかんねーんだよ!谷とか訳わかんねー奴と仲良くしたりよ!!」

藤堂「それに!!山南さんの件であの人なら斬りかねんって俺達が考える程、あいつはおかしいんじゃねーの!?」

永倉「藤堂!!」

藤堂「・・・悪い。ちょっと熱が入った」

永倉「とにかく、俺達も馬を取りに屯所に一度、戻ろう」

藤堂「・・・わかった」











土方「遅かったじゃないか」

永倉「土方さん?」

土方「休みの日にまで見回りをするだなんて結構な事じゃないか」

藤堂「なんで入り口で待ち構えてるんだよ」

土方「いやなに、お前達もそろそろ戻ってくる頃だと思ってな」

藤堂「今、土方さんと話してる暇は無いんだ。退いてくれ」

土方「脱走した山南を探しに行くのか?無駄なあがきだ」

永倉「なんでそれを!?」

土方「お前達の隊にも山崎と繋がってる奴等はいるんだよ」

永倉「くそっ、山崎か・・・」

藤堂「退けよ!!土方!!」

土方「貴様、誰に向かって今の言葉を吐いた?」

藤堂「テメーに決まってんだろ!!」

永倉「止せ!!藤堂!!」

藤堂「うるせえ!!俺はもうあんたも近藤さんもが信用ならねーんだよ!!」

土方「副長である俺と近藤局長に対し今の発言は宜しくないな」

藤堂「だったらなんだってんだ。俺を斬るか?」シャキン

土方「ほぉ?いい覚悟だ」シャキン

永倉「止せ!!二人とも!!」

藤堂「土方ぁ!!」

土方「藤堂!!」


ガキィン!!!!


藤堂「・・・何やってるんだよ。永倉」ギギッ

永倉「止めるんだ。藤堂・・・刀を納めろ」ギギッ

藤堂「・・・けど!!」

永倉「馬鹿野郎!!少し頭を冷やせ!!」バキッ

藤堂「グワッ!」ドサッ


永倉「副長。八番隊の組長を抑えられなかったのは二番隊の組長である俺の失態だ。処分は俺が受ける」

藤堂「永倉!!」

永倉「だから、剣を納め今あったことを忘れてほしい。頼む」

藤堂「・・・くっ」

土方「フン、いいだろう。俺も全てを語っていなかったからな」

永倉「全て?」

土方「捜索は続けている」

永倉「だったら俺達も!」

土方「ただし!捜索は沖田のみだ」

永倉「なんで!」

土方「もしも山南が抵抗してきたら抑えられるのは沖田のみだ」

永倉「そんなことねーだろ!!それに山南さんは刀を・・・」

土方「最後まで聞け!!」

永倉「・・・」

土方「あの二人は兄弟のような仲だ。山南も抵抗するとは思えん」

永倉「なんで沖田に行かせた」

土方「訳なら先程申しただろ?」

永倉「あいつは結核を患ってるだろ!」

土方「だからこそだ。あいつには山道の手前まで行くことを命じた。そこまでなら馬ですぐに着く」

永倉「・・・なるほどね」

土方「そう言うことだ。お前達を行かせない訳はそこだ」

永倉「わかったよ。俺達は屯所で大人しくしてるよ」

藤堂「はぁ!?なんで!!」

土方「話は以上だ。永倉、処分については追って連絡する」

永倉「わかった」


藤堂「なんで納得してるんだよ!」

永倉「ん?」

藤堂「だから!」

永倉「近藤さんも土方さんも山南さんを見逃す気なんだよ」

藤堂「えっ?」

永倉「山道にまで山南さんが行ければ勝ちと言う事だ。そして沖田の事だ。見つけたとしても見逃すだろう」

藤堂「でも、それなら俺達でも」

永倉「俺もお前も山道まで行けたら、いいと言えるか?結核を患っている沖田だからこそ山道手前で引き返せと言えたんだ」

藤堂「・・・」

永倉「近藤さんも土方さんも人が悪い。正直に言えないから遠回しに俺達に伝えたんだ」

藤堂「けど、もしも捕まったら?」

永倉「・・・恐らく斬ることになるだろうな」








馬で追いかける沖田。そして、取り逃がそうと考える近藤と土方の思惑も虚しく、山南は茶菓子の前で沖田を待っていた。

山南「追いかけてきたのは沖田君だったか・・・待っていたよ」ニコッ

沖田「・・・なんで?待ってるんです?」

山南「沖田君の剣から逃れることは出来まい」

沖田「そんなことない!!僕は山道手前まで行って山南さんを見なかった!!それでいいじゃないですか!」

山南「逃走してから時間もそれほど経っていない、徒歩で山道まで行くのは時間的に不可能だ」

沖田「だったら、僕を斬ってください!手負いになり取り逃がした!」

山南「今の私に剣を握れる力も残っていないよ。それに、私は君を斬りたくない」

沖田「・・・なんで?逃走なんてしたんですか?」

山南「これが今の私に残されている最後の仕事なんだよ・・・」

沖田「仕事?何の事です?」

山南「沖田君。私はね、新撰組の事が好きなんだ」

沖田「それは僕だって!」

山南「しかし、今、近藤さんは幕府に忠義を尽くすのか尊皇に忠義を尽くすのか迷っている」

山南「このままでは新撰組が二手にまた別れてしまう。私にはそれが耐えられない」

沖田「・・・芹沢さんの件ですか?」

山南「そうだね。私はあの悲劇を起こしたくない。だからこそ、伊東君を呼び私の想いを託した」

沖田「でも、それなら逃走する必要なんて・・・」

山南「・・・逃走することに意味はないよ。意味があるのはその後だ」

沖田「どうしても連れて帰らなきゃ駄目ですか?」

山南「沖田君、君には辛い想いをさせるね・・・さ、屯所に帰ろうじゃないか。昔話に華でも咲かせてね」














伊東「山南さんが見つかったらしい」

永倉「・・・はぁ!?なんで!?」

伊東「わからん・・・今、近藤局長と面談中だ」

永倉「なに考えてんだよ。山南さん」

伊東「近藤局長はやはり斬らせるのか?」

永倉「・・・そうだとしても、させねーよ」

伊東「そうだね。私も酌量の余地有りと局長に掛け合ってみよう」

永倉「お願いします」


しかし、伊東の説得も虚しく近藤は山南を明日斬ることを選択した。


永倉「くそっ・・・」

伊東「山南さんをもう一度、逃がすしかない」

永倉「俺もそう思います」

伊東「手伝ってくれるかね?」

永倉「もちろんです!」




山南「襖の裏に隠れているのは、永倉君かな?」

永倉「山南さん、裏手の門番には伝えておきました。逃げてください」

山南「すまないが、それは出来ないよ」

永倉「なんでですか!何故、山南さんが腹を切る必要があるんですか!」

山南「フフッ、私は脱走者だよ?切るのは必然だ」

永倉「山南さんが何を考えてるのかわからないですよ!」

山南「そうだね・・・私は、必要悪で有ることを望んだ」

永倉「必要悪?」

山南「組織の拡大の為、近藤さんは鬼となった。組織の団結を強める為、土方君は鬼となった。・・・しかし、私にはそれが出来なんだ」

山南「例え、反感を買われようと私も鬼にならねばいけなかった。けど、それが出来るのは私ではなかったんだ」

永倉「山南さんは人格者だ!それも組織には必要でしょ!」

山南「それは伊東君がやってくれるさ。永倉君。私はもう一人、鬼を作りたいんだよ」

永倉「・・・鬼?」

山南「辛い思いをさせるかも知れないが、それは、私が死ぬことで成り立つ鬼だ。だからこそ、私は死なねばならない」

永倉「そんなことの為に死ぬなんて馬鹿げてる!!それが士道だと言うんですか!!」

山南「その通りだ!・・・人それぞれ士道を持っている。それは例え、死ぬことになろうとも曲げることは出来ない!」

永倉「・・・どうしても、駄目ですか?」

山南「沖田君と同じことを聞くね。すまないが、私の士道を貫かせてくれ」

永倉「・・・明日の執行。俺も立ち会わせて頂きます」

山南「ああ、よろしく頼むよ」







次の日

永倉、藤堂、伊東の抵抗も虚しく山南の刑の執行が為されることとなった。

立会人は試衛館の面子、島田、伊東。そして介錯人は沖田がやることとなった。


白装束に身を包んだ山南は真っ直ぐと前を見据えていた。

山南「沖田君、辛い役を負わせてしまったね」

沖田「・・・」グッ

山南「私の最後の姿をしっかりと見届けてくれ」

沖田「・・・はい」


山南は迷うことなく自らの腹を切り、見事な一文字を書ききり、それを見届けた沖田が介錯した。

山南の死に立会人の多くが目に涙を浮かべたという。







伊東「・・・」

永倉「伊東さん」

伊東「私は非力である自分が許せない」

永倉「伊東さんは山南さんの為に全力を尽くしたと思います」

伊東「その結果がこれだよ・・・事の流れを変えるのは難しいものだな・・・」

永倉「俺が無理矢理にでも山南さんを連れ出せばよかった・・・」

伊東「フフッ、そしたら今度は君も腹を切るかね?山南さんはそれを許さないぞ?もちろん、私もね」

永倉「・・・」

伊東「もっと私も強くなればいいのだ。事の流れを変える程のね」

永倉「伊東さんなら出来ると思います」

伊東「ありがとう。・・・私は大丈夫だよ。君は私よりも、もう一人の方に行くべきなんじゃないのかね?」

永倉「・・・はい、ちょっと行ってきます」



伊東「藤堂君、いるかね?」

藤堂「・・・」

伊東「君は私と同じ思いかな?」

藤堂「きっとそうだと思うよ・・・」

伊東「では、私のお願いを聞いてほしい」

藤堂「もちろんだ」














沖田「落ちない・・・落ちない・・・」バシャバシャ

永倉「・・・やっぱり、ここにいたか」

沖田「永倉さん・・・・血が落ちないんです」

永倉「落ちてるよ。それ以上、水浴びをするな」

沖田「・・・もう知ってる人を斬るのは、イヤだよ。永倉さんもいずれ斬ることになる?」

永倉「・・・」

沖田「僕は、あと何人知ってる人を斬ればいいんですか?」

永倉「沖田、落ち着け」

沖田「もう斬りたくない・・・もう斬りたくないよ・・・」

永倉「お前はもうそんなことしなくていい。そんなことは絶対にさせない」

沖田「でも、近藤さんは僕にお願いしてくるんだよ!」

永倉「・・・俺に任せろ」

沖田「永倉さん?」

永倉「俺が話をつけてくる」







土方「・・・」

永倉「近藤さんはどこにいる」

土方「所用で出ている」

永倉「ずいぶんとまぁ急な用事だな」

土方「あの方は忙しいんだよ」

永倉「そんなことはどうでもいい。どうせ、奥の襖で息を潜めてるんだろ」

土方「・・・それで?用件はなんだ?近藤さんへの言伝てなら俺が聞こう」

永倉「わかった。なら言う。何故、沖田に斬らせた」

土方「・・・近藤さんの判断だ」

永倉「兄弟のような仲の人間に何故、斬らせた」

土方「切り損なっても困るのでな。沖田を使った」

永倉「チッ・・・腑抜けが」

土方「なんだと?」

永倉「ハッキリ言えよ。芹沢も山南さんも何故、沖田に斬らせたのか・・・あんた等が弱いから斬らせたんだろ?」

土方「おい、永倉。言葉には気を付けろ」

永倉「そっちも返答に気を付けろ。言葉なんて選んでられるほど今は余裕がねーんだ」ギロッ

土方「・・・」

永倉「芹沢も山南さんも、あんた等だと切り損ねる。だから、沖田を選んだんだ」

土方「・・・」

永倉「・・・今度からは俺を使え」

土方「なに?」

永倉「沖田にこれ以上、汚れ仕事をやらせるな。俺を使え」

土方「本気で言っているのか?」

永倉「今後は汚れ仕事は俺と島田でやる。島田には俺が話をつける」

土方「・・・本当にいいんだな?」

永倉「これ以上、仲間を苦しめられて堪るかってんだ。俺が全てを受け持つ」

土方「わかった。今後は永倉に頼むこととしよう」

永倉「ただし、少しでも仲間を傷つけるような事をしてみろ?」

土方「もしもその様な事があったらどうする?」


永倉「・・・その時は、俺があんた等を斬ってやる。必ずだ」


土方「・・・肝に命じておこう」

永倉「話は以上だ。失礼する」




土方「・・・近藤さん、今の見たか?」

近藤「あぁ、まったく恐ろしい男だ」

土方「まさか、山南さんの言っていた鬼というのは・・・永倉の事だったのか・・・」

近藤「山南さんも恐ろしい鬼を作ってくれたもんだ」

土方「いつでも俺達を食ってやると言った感じだな」

近藤「我々も食われぬよう、気を付けねばならんな」





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