首なし殺人事件の概要
「首なし死体発見いたしました」
うんざりしながら胴太のオヤジは背広を、がりがりと掻きながら
「それで、同一犯なのか」と、血だまりの死体を、見下ろしながら鑑識に聞くのであった
「それで、花子さんの本当の名前って言うのは」
時刻は、六時を少し過ぎていた
一人の少女が、ろうそく型のライトを中央に、一人怪談話を語っている
他に誰の姿もない
「それで、何か、手掛かりになりそうなものは」
「ナイ」
真っ赤な女が、真っ赤なペロペロキャンディーを、嘗めながらつまらなそうに
そう言い切った
こんな女が、鑑識の中でのさばっていられるのは
こいつがこの組織の中でかなりの実力を持っているせいだ
真っ赤なワンピースは、だぼついているような真っ赤な白衣に見えるし
赤いハイヒールも体操靴と言えなくない赤いが
メガネのフレームも赤い丸眼鏡
きっと前世は、処刑された奇人が芸術家に違いない
どうしてこの世界に侵入できたのか
それを知りたいとも思わない男は
「もう少し何か」とさらなる情報を、欲したが
「ナイ」
の一言に叩き落された
「首のない死体が、これで全国で101体発見されております
警察の見込みでは、さらに増えると予測されており
さらなる警戒が必要ですが
犯行現場は、さまざまであり
専門家の憶測では、すでに倍近い死体が、存在していると言ううわさもあります
どう思いますか、多島助教授」
湯葉よりも白い顔の色の悪いスーツ姿の男が
会釈をするが、どこかインキじみた動作であり
観客の中から黄色悲鳴が、それだけで上がる
「ええ、まずでずね」
酷い鼻声が、また客席で、悲鳴を上げさせた
「それで、犯人はどうしてこんなことをするんだ」
「それはあなたの仕事です」
「そこを何とか」
「プレデター」
「映画のか、そうか、分かったぞ、だから、こんなに大量の殺人事件を行う事が出来たんだ
そうかそうか、犯人は宇宙人・・」
冷めた目を、男に向けると
赤い飴を、妙に白っぽい舌で嘗める女であった
「ただいま」
「お帰りなさい」
ショートカットのかわいらしい笑顔で、エプロン姿の母親が
日本人形みたいと怖がられること五回体験した少女に言う
「うん」
彼女は、玄関を通り過ぎると
そのまま自分の部屋に入ると
鍵を閉めた
暗い部屋の中には、川の字に本棚が並び
びっしりと隙間なく書物が詰められていたが
どれも乱雑な種類編成であり
一見してその人間の性格を見抜ける理論を破たんさせてしまいかねない
ただ彼女は、迷うことなく窓の前の机の前の椅子に座ると
机から本を手に取り、表紙を開きニワトリのしおりを手に取った
「オカルト全集 頭の話」
「もういい加減にしてくれ」
先ほどからひっきりなしに来る検死のせいで
一週間ほど家に帰れていない彼女は
一人どなるが、一人なので、何の反応もない
ただ、後から来た男が
「いやー、困りましたね」そういって
背広の裾をガジガジ掻くのが目に入り
嫌に腹が立った
「くびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくび」
草むらに、そんな声が聞こえる
ただ、あまりにも長いこと言っているので
それは効果音のように当たり前に聞こえた
ただ、その音がやんだ場所には
五人の首のない遺体が横たわっていた
「あなたはどうして動かないの」
そんな言葉が聞こえるが答える者はいなかった
「犯人は、要らなくなったから捨てただけよ」
人形に、彼女は暗い部屋の中で
語りかけていた
目の前の人形は、微笑を続けるだけで答える事は無い
「そうよね」
彼女は、一人納得しているようであり
机の上には、オカルト全集 頭の話が、表紙を表に置かれていた
「マイク部長殿 これは、もはや我々の手には、余ると思われます」
「だそうよ、検死係長」
「知るか」
「部長」
「ぼくぁもうお手上げだよ」
そう言って実際に万歳の格好をする部長にあきれる部下と
見てさえいない女
「何かお困りですかー」
今までにないテンションの女が登場
チビでゴスロリ
驚かないのは
部長のマイクのみであった
「それで、お困りの部長さんは、この問題の方向を、どこら辺に向けようと言うんですか」
「そうですね、もう殺人が出ない状態で、犯人を捕まえられたら最高ですね」
「無理ですよ、私は、正体を暴くだけで、逮捕および犯罪抑制能力はありません」
「そこを何とか」
「無理ですよ、捕まえるのはあなたです」
黒い服の少女は、警部に指を突き付けた
「そう言えば、うちのマイクは、いつ帰ってくるのかしら」
暗い部屋の中、時代物の小さなブラウン管をつけた彼女は
マイクを前に、記者たちに必死に謝っている自分の父親を見て
そう微笑んだ
「何てことだ」
記者会見に出た後
またしても次の現場に向かった警部は
ビニールシートの中の死体を覗くと
呟きを漏らす
「一体、何だって、こんなに、人を殺さなきゃいけないんだ
どうして、何だって」
雨の降りだしたことも彼には何の意味もないようで
うなだれるように地面に膝をつく
「コーヒーでもどうですか」
黒いティーカップに、真っ黒の紅茶の匂いのする液体を注ぎながら
彼女は、男と女に言う
部下の姿は、次の現場に向かったようでいない
「・・・」女は無反応であり、一瞥した後に天井を見る
「頂こう」
汚れたスーツ姿の男は軽く会釈して、紅茶を受け入れた
それを信じられないと言う目で女は見るが
紅茶は、男の手の中で湯気を立てている
「さて」
黒い少女は、何かを始めるように、赤い唇を開く
「マイク」
彼女は、その言葉を出すと二人を見渡す
男は、紅茶に顔をしかめ
女は無表情で男を見て少女を見た
「私の知っている中で」
少女は喋り始める
「ねえ、あなたはどこにいるの」
暗い部屋で彼女は、しおりの先端を、おる
木で出来たそのしおりは、軽い音を出して
床に落ちる
「ねえ、マイク」
彼女は、父親の出ていた番組を、終了した今も
目を向けている
「ねえマイク」
「死体は、全て、死亡二十四時間以内の物ではなく
一日過ぎたものだった、そうですよね青木さん」
あっちを向いて、頷く女
「それが何か関係が」
紅茶をわきに置いた男は
少女に尋ねる
「ええ、あなたが犯人ですね、部長さん」
「またまた」
その顔は、青白いほどに無表情であり
女はマジでと言う目を向けた
「コロラド州Fruita(フルータ、フルイタ)の農家ロイド・オルセンの家で、1945年9月10日に夕食用として1羽の鶏が首をはねられた。通常ならそのまま絶命するはずであったが、その鶏は首の無いままふらふらと歩き回り、それまでと変わらない羽づくろいや餌をついばむようなしぐさをし始めた。翌日になってもこの鶏は生存し続け、その有様に家族は食することをあきらめ、切断した首の穴からスポイトで水と餌を与えた。
翌週になって、ロイドはソルトレイクシティのユタ大学に、マイクと名づけた鶏を持ち込んだ。科学者は驚きの色を隠せなかったが、それでも調査が行なわれ、マイクの頚動脈が凝固した血液でふさがれ、失血が抑えられたのではないかと推測された。また脳幹と片方の耳の大半が残っているので、マイクが首を失っても歩くことができるのだという推論に達した。
結果、マイクはこの農家で飼われることになったが、首の無いまま生き続ける奇跡の鶏はたちまち評判となり、マイクはマネージャーとロイドとともにニューヨークやロサンゼルスなどで見世物として公開された。話題はますます広がるとともに、マイクも順調に生き続け、体重も当初の2ポンド半から8ポンドに増えた。雑誌・新聞などのメディアにも取り上げられ、『ライフ』、『タイム』などの大手に紹介されることとなった。
1947年3月、そうした興行中のアリゾナ州において、マイクは餌を喉につまらせ、ロイドが興行先に給餌用のスポイトを忘れたため手の施しようもなく、窒息して死亡した。
マイクの死後、ギネス記録に首がないまま最も長生きした鶏として記録された
ひとたび名声が確立されると、マイクは双頭の牛といった他の動物たちと巡業を始めた。彼の写真は『タイム』や『ライフ』など数多くの雑誌と新聞に掲載された。農家の主人は首のない鶏を生かしておくことで多少の非難を受けた。
マイクの出し物の入場料は25セントであり、1ヶ月に4,500ドル(2005年の5万ドルと等しい)の収益を上げた。彼自身の値打ちも1万ドルであった。マイクの大成功は、これを真似た鶏の首斬りブームを巻き起こしたが、その中で1〜2日以上生きていた鶏はいなかった。マイクと一緒に、ホルマリン漬けにされた鶏の頭も展示されたが、それはマイク本来の頭ではなかった。もとの頭はすでに猫に食べられたということであった。後に、いくつかの動物愛護協会の委員がマイクを調査し、マイクに苦痛はなかったと断言した。
当時、以下のような童謡が生まれた:
“ Mike, Mike, where's your head? Even without it, you're not dead!
(マイク、マイク、お前の頭はどこだい? それがなくても、お前は死なない!)
マイクの故郷であるフルイタでは毎年5月の第3週末日を「首なし鶏の日」として、エッグレースなど地元民のお祭りにしており、首が無くても生き続けたマイクの生命力を讃えている。」
「それで、僕と何か関係が」
マイクは、そう言うと、少女を見た
「さあ」
彼女は首をかしげた
「私は、正体を突き止めるまでで、あとは契約範囲ではないので」
では
彼女は、紅茶の匂いだけを残して
部屋からいつの間にか姿を消していた
「あなたは生きられるかい」
男は女の背後に立っていた
「なぜ、マイクは、何か月も生きられたのか
そんなのは簡単だ、偶然
だから、求めるのだ
何万分の一でも
奇跡を求めて
そこに何があるか
奇跡だ
だから求めるのだよ
君こそが、奇跡だと
僕は信じている
真っ赤な女が
そこにはころがっており
男の
マイクの姿はそこにはなかった