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聖竜騎士と幼妻  作者: 外宮あくと
Ⅰ ヘタレ少年騎士と天然鉄壁少女の場合   一章 なんでこうなった?
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第2話 余計なお世話だ!

 ボーンボーンと廊下の柱時計の音が聞こえてくる。


――クソ忌々しい! 結局一睡もできなかった!


 レオンはガバリと身を起こす。もう外は明るいし、横になっていても眠れそうにはない。頭をガリガリと掻いて、ため息をついた。

 とんだ災難だとしか思えない。自分の寝室なのに一人ではなく、他人と一緒にいることが、こんなにも落ち着かないことだと初めて知った。


――いや他人というか、一応俺の妻なんだっけなあ……信じられんが。


 ぼんやりとため息をついていると、ベッドの上のシーツの塊がもぞもぞと動き、手と頭が生えてきた。

 ティーナだ。

 目覚めた彼女は、ここは何処かと驚ききょろきょろと部屋を見まわしていたが、レオンを見つけると途端に頬を染めて微笑んだ。


「お、おはようございます、レオン様……」


 彼女のはにかむ様子は、初夜明けの新妻ならばかくあらんといった、嬉し恥ずかし初々しい姿だった。寝乱れた髪や夜着が、いかにも秘ごとのあとを思わせる。

 あくまでも、思わせるだけなのだが。


 そんなティーナをほんの一瞬見つめただけで、レオンの心臓が激しく鳴り始め、身体が熱くなってくる。別に好きでもない女を見て、何を動揺しているんだと頭を振るのだが、普段の社交の場では決して見ることのできない、寝起きのあられもない姿を目の当たりにして、平静でいられるはずもなかった。


 それにしても、シーツを引き上げて胸を隠して照れるしぐさは、反則だと思うレオンだった。


――おい! こら! 俺は何もしてないだろうが! 何を全て捧げちゃいましたって顔してんだ! ああ、くそ! そんな顔するんなら、寝てるすきにコトに及ぶべきだったか……


 心の叫びは一切顔に出さず、むすりとしてレオンは顔をそむける。

 するとティーナが不思議そうな声を上げた。


「あの……なぜ、床に?」


 小鳥のように首をかしげていた。

 レオンがいるのはベッドの上では無かった。彼女の目の高さよりずっと下、絨毯の上にグシャリとシーツを敷いて、その上で胡坐をかいていたのだ。


――まあ、確かに不思議だろうな……って、ベッドの上が地獄だからだよ! わかれ!







「レオンハルト。どうした、目の下に隈ができているぞ」


 その男は椅子に座って足を組み、ひざまずくレオンを見おろしていた。薄ら笑いを浮かべているこの体格のいい美丈夫は、レオンの結婚を仕組んた張本人である。

 であるからして、当然レオンは恨めしげに彼を見上げている。

 レオンは朝一番に彼からの呼び出しを受け、この執務室に通された。そして、掛けられた第一声が先程のものだった。

 隈ができたのはあなたのせいです、と言いたいのをレオンは懸命に堪えた。


「寝不足か? なるほど、昨夜は随分と励んだようだな。新妻の味はいかがなものだった?」


 男の言葉に、レオンは内心舌を打つ。


 彼は、輝くような金髪に蒼い瞳、高い鼻梁に涼しげな目元、非の打ち所のない美貌の持ち主だった。

 爽やかに笑って朝から下品なことを言うのは止めてくれ、とレオンは思う。いや下品はいつものことなのだが、今日のからかいだけは頂けない。

 なにしろ、レオンは彼が想像したようなことは何一つしていないのだ。


――新妻の味だと? そんなもの知らんわ!


 ここで何もしていないと言っては、女を前にして臆したと取られかねず、口にすることはできなかった。それは自分のプライドに関わる。

 決して臆した訳ではない。臆してなどいないのだ。

 ティーナが夜伽を全く理解していなかった為、やむなく断念しただけなのだ。


 ならば手とり足取りお前が教えてやればいいと、この男なら簡単に言うだろうが、レオンにそんなプライベートレッスンをする余裕などあろうはずもない。

 なにを隠そう、レオンはまだ一度も経験がなかったのだ。

 スキルゼロを本能と若さとやる気でカバーするつもりが、マイナススキルの前に儚く敗れ去ってしまったと言うわけだ。


「殿下……一体何のおつもりでこのようなことを仕組まれたのですか?!」

「いや、そろそろ童貞卒業時期かと……」

「要らぬお世話です!」

「ほっといたら、貴様は剣ばかり振り回して、一生独り身のまま大賢者になりかねないと思ってな」

「何が大賢者ですか! 本物の賢者に失礼です。殿下!」

「昔のようにクリストフと呼んではくれないのか? それから、貴様はいつも突っ込み所がずれている。ここは、童貞なんかとっくに捨ててやったぜ、と叫ぶところだぞ? まあ、私に突っ込みを入れるよりも新妻に突っ……」

「殿下ぁぁ!!」


 レオンは、顔を真っ赤にして遮った。腹が立っていた。


――この超女好きのエロ魔人め! あんたにボケツッコミを教えてもらうつもりなんかないわー! 


 目の前でニヤニヤしているこの男は、見た目の良さと地位の高さを利用して、三桁に迫る数の女を、それこそ侍女から町娘、貴族の令嬢に夫人まで、手当たり次第に食い散らかしているというどす黒い野獣なのだ。

 そんなやつに自分の将来、主に下半身関係を心配されたくもない。


 尊大に足を組んでレオンを見下ろしているのは、王弟クリストフ、聖竜騎士団の指揮官だった。レオンの上官にして、叔父にあたる人物でもある。


「で、レオンハルト。貴様はさっきから何を怒っている?」

「だから! 昨日、いきなり結婚させられたことです!」

「ああ、それはだな、例の半魚人が目障りだからだ。知ってるか、ヤツら商船だけでなく、戦船にも手をだしてきた。被害が拡大する一方だ」

「それは聞いています」


 レオンはとりあえず、冷静に答える。

 だが、話しが見えない。まるっきり見えない。ムカつくほど見えない。

 こっちは結婚を押し付けてきた理由を聞いているのだ。半魚人のことはどうでもいい。


「で、本格的に妖怪征伐にでることにした! 貴様もついてこい」

「はい……」


 この聖竜騎士団の指揮官閣下が、騎士となったレオンに命令を下すのは当然である。だから、返答に否やはない。


――だが、今は半魚人ではなく結婚のことをきいてるんだ! まったく、いつもいつも、ポンポンと話を飛ばして……話題を逸らそうってつもりか? 


 そうはさせるかと、レオンは質問を繰り返す。


「……で、それと俺の結婚になんの関係が」

「分からんのか?」

「分かりません!」

――エロ魔人の考えることなんか、分かってたまるか!


 クリストフはわざとらしく大きなため息をつき、身を乗り出してレオンを覗き込んた。


「半魚人だぞ? 魅惑の歌声で男を水底に引きずり込む妖怪なんだぞ?」

「だから?」

「童貞が餌食になるということを、貴様は知らんのか?」

「……ああー、なるほどー、それでー」


 レオンはへえぇと無表情で台詞を棒読みする。

 途端に、キラキラと無駄に華やかな笑みを浮かべるクリストフだった。


「貴様を案じる、この親心をやっと分かってくれたか」


――あんたいつから俺の親になった! 俺の為に……って、そんな訳ないだろうがぁ! 老若男女関係なく被害にあってることくらい俺は知ってるぞ! 嘘をつくな、嘘を!


 ギリっとクリストフを睨みつけた。


「殿下……お気遣いはありがたいですが…………童貞云々は全くの迷信です」

「しかし、リスクは減らしておくに越したことはないだろう? で、昨夜はちゃんとヤった?」


 クリストフにヘラっと笑われて、レオンはビクリと肩を揺らした。

 王族のくせに、どうしてこうも下品なのか。勘弁してほしいと思うのだった。


「そ、そのようなこと、殿下に申し上げることではございません」

「ああ、そう。じゃ、今夜こそ(・・・・)ヤっとけよ。明日、出陣するから」


――…………何故、バレてる。


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