五日目 若き挑戦者
「到着です、ここがお二人の宿になりますのでお好きに使ってくださいね。」
賑やかな街並みを横目にソニアの誘導の元、一軒の二階建て家屋へと辿り付く。中に入ればリビングから寝室、キッチンなど生活に困ることはなさそうな準備が整えられている。
「わぁっ、すごいっ!立派なお家、こんないい所使わせてもらっていいの、ソニアっ!」
「はい~。二階はお部屋がいくつかありますので、寝室等はお二人でご相談ください。私は奥の個室で建物管理者として一緒にお過ごしします。お二人が神殿へ挑んでる間の建物のメンテナンスはお任せください~。」
「一緒に・・・。」
「ちょっとアル。今何考えてたのよ」
「い、いや・・・なんでもないよ?」
「ふふ、それよりお二人とも。今日は神殿へ初めて挑戦になるので、この街のショップで消耗品を買い揃えてきてください。昼には神殿へ潜っていただきます。私は入り口までの案内で中には同伴はできませんけど~。お二人の武器は私が入り口で預かっておきます。買い物が終われば街の奥で集合ですので~。」
「わかった、じゃあよろしく頼むよ、ソニア。」
「これ、おねがいねっ」
カチャ、と音を鳴らし、アルは自らの左腰へ備えていた剣を鞘ごとベルトから取り外す。帯刀している位置こそ同じだが、アルの剣は燻る様な群青色の柄に星空の模様が施された鞘の両刃の剣。本来両手剣として造られるはずの剣だがアルの剣は片手で扱えるように造られている。
アルに続く様にリラも腰へ帯刀していた剣を取り外す。アルの剣に比べ、半分程度の短いショートソード。しかしビジュアルの印象は正反対で、燃え盛る様な深紅の柄と、太陽の模様が彫られた鞘の紅い剣をソニアへと手渡す。
二人が差し出すそれぞれ印象の違う剣を受け取り、物珍しそうに受け取った剣を眺めながらソニアは頷く。
「確かに預かりました、珍しく綺麗な剣ですね~。このまま眺めていたいくらいです。」
「えへへ、そうでしょ?私達の大切な思い出なんだよ、それ。」
「また今度その話もするよ。じゃあそれよろしく、ソニア。」
「はい、お任せください~。入り口付近でお待ちしておりますので準備がおわったらお声掛けくださいね~。」
「わかった、行こうかリラ。」
「ん、わかった、じゃあまた後でねソニアっ」
小さく手を振り、大切そうに二人の剣を抱えるソニアに手を振り返し二人は商店通りへと消えていく。
しかしもともと準備は備えてきていたのだ、彼らの買い物はもはや予備の回復薬の準備程度の軽いもので済んでしまうのだ。
二時間もたてばすっかり日は昇った昼下がり、彼らはいよいよ街の最奥、見上げるほど巨大な大樹の根元へと到着する。商店通りの賑やかな喧騒はなく、もはやここにいるのは皆それぞれの願望を持ち、神が創った神殿へと挑戦する者たちなのである。
辺りを見渡すとソニアが近くのベンチに腰掛けて手帳の様なものを見ている様子だ。二人の視線に気づいたのか顔を上げこちらを見つければ、彼らに微笑み小さく手招きをする。
「お二人とも準備は終わりましたか?大丈夫ならすぐにでも神殿に潜れますよ~。」
「うん、元々僕たち準備はしてきてたからね。昼ごはん買ってきたくらいだったよ。はいソニアの分。」
「わぁ、私の分まで、ありがとうございます~。さて、では行きましょう、入り口付近の安全区域までは同行します。ここからは武器をもって警戒してくださいね。」
「ありがと、行こっか二人とも!」
アルが差し出した昼食を受け取り、嬉しそうに微笑みながらソニアは二人へそれぞれの剣を手渡しながら警告を告げながら立ち上がる。
剣を受け取り、腰のベルトへ帯刀しなおせば、ソニアの先導のもと二人はいよいよ神殿への入り口をくぐる。背後の入り口から射す光は遠ざかり、それに代わるように、壁に掛けられた魔力を宿した鉱石が光を発する。奥へと進むにつれ外の喧騒は小さくなっていき、やがて三人が歩く足音と武装の金属音がこだまする様になる。
誰も言葉を発さないまま歩き続ければふとソニアが歩みを止めてしまい、ソニアの背を二人はどうしたのかと眺めるだけになれば、彼女は振り向いて二人に小さく告げた。
「お二人とも、この大樹はあくまでも目印です、お二人がこれから挑む神殿は地下へ進んでいくものになるので、当然深層まで潜れば潜るほど帰還は困難になる一方です~、最後の確認です。お二人は神殿にこの先に挑む程の願いに悔いはありませんかぁ?」
いつになく真剣な眼差しで二人を見据える彼女の瞳は、どこか不安を隠している様にも感じられる。しかしそれを口にするほど彼らも野暮ではない。ソニアの真剣な問いかけに二人は強く、しっかりと頷いてみせ、はっきりと答える。
「もちろん、僕達は僕達の願いを叶える為にここに来たんだ。悔いを持つ様な願いじゃないよ。」
「もちろん、私達二人とも、それだけを夢にここまで頑張って来たから。心配ないわ、ソニア。」
「・・・わかりました、ではここから先は命の危険を伴います、先人達のおかげで道中安全な区域もあります、道具屋も点在しています、敵はそとにいるような甘い魔獣程度じゃありませんし。・・・なにより、挑戦者狩りなんて輩も存在しています~。お気をつけください、そして、どうか願わくばお二人が無事に願いを叶え、私の前に戻ってきてくれることを祈っています。では・・・頑張ってくださいね、アルファルドさん、リラさん。」
「あぁ・・・ソニア」
「うん・・・ソニア」
「「行って来ます!!!」」
案内役である彼女の説明と最後の言伝に二人の意志はこれまでにないほど昂ぶっていた、大きく声を張り上げ、ソニアを置いて二人同時に駆け出す、走り去る彼らの背に。手を振りながら、彼女は小さくつぶやく。
「いってらっしゃい、二人とも・・・」
今、二人の挑戦者が新しく駆け出した、未だ誰も踏破した事なく、攻略を成した記録のない神殿へ、たった18歳の少年少女たちが、願いと想いを同じくとする少年少女は自分達をここまで連れてきてくれた案内役の彼女への感謝と、ここまで自分達を育ててくれた今までの人たちへの敬意を胸に。今彼らは願いを果たすべく駆け出しだのである。