四日目 新たな街
「リラ様、アル様、少し急ぎますねぇ、近くにどうやら魔獣の群れがいるようですぅ!」
「わかりましたっ!アル、いけるよね!?」
「勿論っ、ソニアさんがちょっと速いけどね・・・っ!」
「会話する余裕があるなら大丈夫ですねぇ、行きますよ~」
街を出発し、街の明かりが遠くへ遠ざかり見えなくなり、丁度街と大樹を直線で結んだ中心を過ぎた頃で声を上げたソニアの宣言にアルとリラが答える、ソニアはほんわかした見た目のイメージとは逆に雷の如く草原を駆ける、その背を追うようにアルとリラも駆ける。
「にしても魔獣って・・・本当にいるんですね、私先生に借りた資料でしか見たことないなぁっ」
「街周囲には魔獣はいませんからねぇ、ここみたいに街と大樹の中間くらいに来ないと遭遇しませんよぉ。」
「そういうことですか、なら納得ですっ!」
足を止める事無く、草原を全力でソニアを追いかけながら、リラとソニアが会話をしていると三人の視線の先が開け、そこでふたたびソニアが声を上げ、同時に走っていた速度を緩める。
「見えましたよぉ、あれが大樹の麓にあるキャンプですぅ」
「はぁ・・・っ、あれが・・・?」
「わっ、すごい、小さい街みたいですねっ!」
立ち止まったソニアの視線の先を隣に追いついたアルとリラが見る。眼下のキャンプを見下ろせば魔獣対策なのか、柵で覆われた、キャンプというには建物が充実している、それこそ街が一つ大樹の根に寄り添う形で造られていた。
ここまで来れば魔獣は簡単には現れないから、と言って歩きだすソニアをまた追うように二人も坂を下り街へと歩む、街の門に近付くに連れて街の賑わいと喧騒が自然と三人の鼓膜を揺らす。
「お、ソニアちゃんじゃねぇか!今回は案内役かい?」
「ふふ、はい~、彼らの案内役ですぅ。」
「ほう、また若い子達を連れて来たな、ようこそ兄ちゃんと嬢ちゃん!ここは挑戦者のためのキャンプだ!永い歴史に伴ってキャンプの規模もでかくなって、今じゃ一個の街だ、まぁ遠目に見て思っただろうけどな!そんで俺はここの立ち入りの管理をしてるもんだ。街の施設は自由に使ってくれていいぜ!さ、入んな!」
ソニアの自己紹介を聞き、豪快な笑顔と気前の良い雰囲気で話しかけてくる門番の男に、ペコリと二人で会釈をしながら門を通りすぎていく。
立派な街がそこに在った。街行く人々の様相はアル達の育った街にいた一般人と違い、商人や職人らしき人物達が多く行き交っていた、そして街の中にはそれぞれに合った武器や防具をつけた「挑戦者らしき者たち」も。
「あれ?あの人たち・・・今から神殿に潜るのかな・・・?」
「いえ?彼らはきちんとした挑戦者の方々ですよぉ?今はたぶん必要なものを整えに戻ってきてるんだと思います~。」
「えっ、神殿からは簡単に帰還できなんじゃ・・・!?学校の先生が『挑戦者は簡単に戻ってこれないから気をつけろ』って常々言ってたのに・・・!」
「あー・・・それはですねぇ、最初にいたあの街に帰れない、という意味だと思いますよぉ、このキャンプ街には、引き返せば帰ってこられます。街のほうまでは距離がありますからね~。」
「なんだ。そうだったんですね・・・僕達てっきり一度神殿に潜ると出てこられないと思ってました。」
「そんな事はありませんよ。このキャンプに限ってですが帰還する事はできますよぉ。」
意外な事実による、短い時間の疑問と安堵の連続に二人で驚きながら納得をする、なるほどと頷きながら今一度街を見回す。
吊られた看板を見れば武器や防具を扱う商店から宿を見つける場所まで幅広く点在していることが見て取れる。
「お二人が使われる宿はすでにこちらで手配しておりますぅ、今日はこの街で最後の確認をしてから、神殿に潜ってくださいね。」
「はい。わかりました。」
「あ、言い忘れていましたぁ。お二人とも私には敬語は必要ありませんよ。」
「わかりまし・・・、わかった、なら改めてよろしく。ソニア。」
「よろしくね、ソニアっ!でも、それなら私達に様付けもやめにしましょう?」
「はい、よろしくお願いしますぅ。リラさん、アルさん。では、このまま宿にご案内します~。」
いつの間にか夜が開け、朝日が昇る。白く染まる光は新たなる挑戦者達を歓迎するかのように大樹から顔を覗かせ小さな街を照らす。
これから自分達が拠点とする街を見渡しながら、二人はソニアの後ろをついていく、これから始まる挑戦への緊張と高揚を密かに胸の中で昂ぶらせながら。