表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の中心で!  作者: 睦月 創
4/7

三日目 天の大樹

 夜の闇が街を覆う日没。民家や商店、酒場。空から静かに見下ろす月明かり、揺らめく街灯の炎。様々な光源がまるで、街が闇に侵されることを拒むかのように街を照らしている、太陽が見下ろす昼間程ではないにせよ、夜でも街には活気があふれる。

 そんな夜道を二人の少年少女が歩く。活気に満ちた通りとは真逆、街の正門へと歩みを進めていく。


「アル、準備とか忘れ物ない?大丈夫?」

「大丈夫だよ。というかリラ・・・その確認もう三回目だよ。」

「だって、神殿に入ったら簡単に戻るわけにはいかないんだもん、確認は大事だよ?」


 困ったように笑いながら隣を歩く少女を見やり、頷きながらも歩みを止めることはない。

 そうして歩く内、月が照らす街の正門がみえる、普段人が集まる事のないそこに、今日は人が幾人も集まっている。


「お待ちしておりましたぁ、アルファルド様、リラ様。お二人で最後です~。」


 緊張した面持ちの二人を待っていたのはリラとアルファルドの挑戦者名簿への登録書類を担当した、昼間の受付嬢だった、彼女の姿は酒場の制服ではなく軍服のような服装で鞘に収まった刀を片手に帯刀、淡い黄色のふわふわと緩やかにウェーブのかかった髪を夜風に揺らし、おっとりした口調をそのままに二人を出迎える。


「あ、酒場のお姉さん・・・どうしてここにいらっしゃるんですか?それにその剣は・・・?」

「ふふ、私は酒場の受付嬢でもあり、挑戦者の皆様の案内役なんですよ~、挑戦者一組には一人、神殿までの案内役が充てられるんです~。この刀・・・えっと、剣は私の武器ですよぉ。他の方々も、同じです。」

「へぇ・・・アルが持ってる剣とはだいぶ印象変わりますね・・・あっ、自己紹介が遅れました、私はリラです、よろしくお願いします!」

「僕はアルファルド、リラにはアルって呼ばれてます。よかったら貴女もアルと呼んでくれると。」

「ふふ、わかりましたぁ。改めて、私はソニアです。アル様とリラ様の案内役を担当させていただきます~。」


どこかほわっとした雰囲気を持つ案内役のソニアをみて、二人は無意識に感じていた緊張を解されるような感覚を受けていた。周囲のグループを見渡せば確かに挑戦者と案内役らしき人々がそれぞれ集まって話している。


「では行きましょうかぁ。詳しい説明は神殿周辺のキャンプで行いますので、そこまで盗賊や獣から護衛しつつ案内します~。お二人は学校の成績どのくらいで卒業されましたか?」

「僕たちは・・・二人で首席です、最終成績がまったく同じだったので。」

「それはすごいですねぇ。なら護られるのは私のほうかもしれないですね。」

「いえそんな、僕たちは死に物狂いで訓練して勉強して、ギリギリで掴み取った首席なので、歴代の首席を取った先輩方とは比べられませんよ。」

「そうですよ、確かに首席は取れたけど、私たち二人とも努力も死力を尽くしてようやく、でしたからっ。」

「・・・うふふ、そうですかねぇ、先輩たちが必ずしも天才だったとは、限らないかも知れませんよ?」


 どこか懐かしげな瞳を浮かべ、二人から視線を外すソニア、憂いとも、懐古とも取れるその表情にリラとアルファルドは顔を見合わせ、不思議そうな顔をする。

 ソニアの説明が終わり、三人でそんな話をしていると一人の男が声を張り上げた、ソニアと同じく軍服を模した様な服装だが、手に持っている武器はソニアと異なり両刃の両手剣。見るだけで重量感を感じさせるほどの大きな剣を背に背負った男はその場に居る全員に届くよう、大きく、芯の通った声を響かせる。


「皆の物、少し注目してくれ。たったいま今回神殿へ挑戦する挑戦者が全員集合した!これより私たちは神殿に向かい移動を始める、道中賊や獣など、不測の襲撃に遭っても対応できるよう、私たち案内役が同行させていただく、話は各案内役より聞いているとおり!ではただいまより出発だ!目指すはあの大樹だ!」


 人柄のよさそうな男の一喝に挑戦者たちは揃って引き締まった表情を見せ、男が指差した先を見る。その先にあるのは、雲に触れ天への架け橋になりそうな程巨大な大樹、名をその通り[天の大樹]。神殿は大樹の根元にある、太古の昔から枯れる事無く佇んでいる神樹である。


「各々、案内役とともにそれぞれのペースで進行してくれ!ここで私たちが顔を合わせるのは最後、次に会うのは挑戦者同士が神殿の中で会うかもしれない程度だ、では解散!」


「うふふ・・・では行きましょうかぁ、アル様、リラ様。案内役ソニア、神殿まで無事にお二人をご案内いたします。」

「「はいっ、よろしくお願いします!!」」


 おっとりした口調、しかし、凛とした表情を月明かりに照らされたまま二人の方へ振り向くソニアに、アルファルドとリラははっきりと答える。

 挑戦者達は案内役の先導を追いかけるように。月が静かに見下ろし、明かりも設置されず、道のみが整備された野原を街から飛び出すように駆ける。目指すは、無事に神殿がある[天の大樹]へ――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ