二日目 出撃準備
人々が同じ場所へ集えばそこはどうあっても賑やかな場所となる。
それは街の広場や、学校、商店が集まる通り。どこでも例外なくだ。
「はい、これに君たちの情報を記入して、終わったら私が居るカウンターに持ってきて下さいねぇ?」
「はーい、わかりましたっ!アル、一緒に書こっか。」
受付嬢から挑戦者名簿への登録書類とペンを受け取りにこやかに微笑む少女。リラ。その少女の隣で穏やかに少女に頷いて答える少年、アルファルド。二人の少年少女は[挑戦者の酒場]を訪れていた。
「一緒に書くって言ったって、名前と使う武器、パートナーの名前とかの基本情報だけ、なんだけどね。」
「もう、それでも一緒に書くの!アルったらそういうとこいつも無頓着というか・・・」
「・・・ふふ、ごめん。冗談だよ。」
煩い程の喧騒の中、彼らは互いに顔を合わせ、くすくすと笑いあう姿はまるで仲睦まじい姉弟のように。
「お姉さん、書けました!」
「はぁい、あずかりますねぇ。あ、もう一枚の紙はきちんと読みましたかぁ?読んでなかったら、今のうちに目を通しておいてくださいね。」
おっとりした口調で少年達を見て、そう告げると彼女は書類を持って奥の部屋へと歩いていく。
「ん?もう一枚の紙?あ、これかな?」
リラが手に持つのは二人が記入した書類ともう一枚、一緒に渡されていた紙。そこでは学校で彼ら挑戦者が常々教えられる規定が綴られている。
『挑戦者の規定
・その一:挑戦者は齢が十八以上であること
・その二:挑戦者は必ず自身、又は自身のパートナー、仲間を防護する術を最低限習得していること
・その三:神殿の攻略成功、失敗に関わらず、可能な限り挑戦者は生還を果たすこと。
・その四:神殿から持ち帰った功績、宝物は挑戦者の物とする。
・その五:他の挑戦者への略奪行為、殺傷目的の攻撃は禁忌とする。
以上を以て、挑戦者名簿への登録を規定に同意したものとみなす。
挑戦者の願望に幸があらんことを。』
この規定は人類が神殿への挑戦を始め、しばらくしてから人類の中ですぐに制定された、途中で危機を察知し帰還したものは多数居ても、未だに神殿の攻略を成して生還した者は居ない。
規定が制定された理由は、人類が少しでも生き残れるように、そして挑戦者たちが攻略を果たせるようにと、先祖たちが定めたものなのである。
そしてそれは、挑戦者を望むものが通う学校で、魔法や武器による戦い方とともに徹底して教えられるものであるのだ。
「改めて見るまでもないね、私たちはずっとこれを教えられてきたんだもん。」
「あぁ、そうだね、でも、今此処で挑戦の意識を改めて確認するには良いんじゃない?」
「うん、確かに。・・・ねぇ、アル?」
「ん?どうしたの、リラ」
「・・・私たちで、最初の攻略絶対に果たそうね!」
「・・・必ず、僕と君の二人で」
元気一杯といった明るい笑顔を見せる少女の表情を見て、自分の心の中に誰に向けたものでもない誓いを想いながら、優しく、しかしはっきり彼はしっかりと頷く。
「お待たせしましたぁ、お二人とも、登録はばっちりですよ~」
二人が改めた意識を確認していたところに、背後からおっとりした口調で声をかけられ、二人で顔をあげ、受付嬢のお姉さんを見る。
「挑戦者名簿に登録は完了しましたぁ、今日は・・・夕刻、日が沈んでからなら神殿に挑めます。それまでは必要なものの調達や、休養、お好きな様に過ごしてくださいねぇ。では、日没の頃、街の正門にておまちしておりますぅ。」
受付嬢の説明が終われば、彼らは酒場を後にする。昂ぶる気持ちを抑えられないといった様子で。
「じゃあリラ、また夕刻、僕の家で集まって、それから正門に向かおう。」
「わかった!じゃあまた後でね、アルっ!」
そう言って二人は、各々の帰路へつく、とはいっても二人の家はすぐ近くなので結局途中までは同じ道を帰ることになるのだが。それは言いっこなしだ。
二人はそれぞれに、準備を進める、武器のメンテナンス、所持品の確認、不足物の買い足し。
それは彼らが神殿へもぐる日没まで、念入りに進められていくのだ。太陽が沈み、夜の闇と月が顔を覗かせるその時まで——。