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はじまりはじまり

今日は友人に呼ばれここにやってきた。

親友と呼べる友人だった、高校の頃はいつも一緒で馬鹿やって笑っていたから。

それでも歳をとるにつれ会う回数が減り、会うのは数年ぶりだ。

久しぶりに会う友人はなんだか顔色が悪いように見えた。


「よぉ、久しぶりだな、伊丹」


「お前、同窓会にも来ないからな。

顔色悪そうに見えるのだが大丈夫か?鍵沼。」


「え?あぁただの寝不足だ、気にするな。」


「それならいいが。で、今日はなんのようだ?ここに呼びだして。」


「そうせかすなよ。」


少し笑った鍵沼の顔は昔のまんまだった。


「俺な、実家に帰ろうと思うんだ。」


「実家って長野だっけ?」


「あぁ、2ヶ月前親父が死んでさ、今母さんが1人で暮らしてるんだが親父が死んだことにまだ立ち直れてなくて、精神も不安定な状態でさ・・・やっぱりほっとけないだろ、今は姉貴とか従兄弟が交代で母さんについてるんだが姉貴も従兄弟もずっとはいられないし、母さんも東京には行かないって断固拒否してるしで俺が帰るはめになった。

幸い俺はそこんとこ自由がきくし、妻も了承してくれた。

ただ問題なのがここなんだ。ほら俺、ここで施設長してるだろ。」


それは知っていた。最後に会ったとき鍵沼自身が言っていた。

あの時は自分に施設長が務まるのかと相当悩んでいたみたいだが問題なかったのならよかった。


「この施設なぁ無くなることになったんだ。

で大半の子供達を里親に引き取ってもらったり他の施設に移したりしたんだが、4名行き先が決まってなくてな。

で、お前が引き取ってくれないかなと思って・・・」


「・・・なんで俺なんだ?」


その質問に鍵沼は言いにくそうに答えた。


「上原から聞いたんだがお前の奥さん・・・流産したって聞いて。

しかも子供はもう望めないとか。奥さん気落ちしたとか・・・。」


これは事実だった、もともと妻の頼子は子供ができにくい体質だった。

それでも諦めず、やっとできた子供だった。ある意味キセキだったのだろう。

だが子供は流産して・・・

医者からはもう望めないだろと言われた。

頼子はそれが相当ショックでいまだふさぎきっている。

それにしても上原と鍵沼がまだ連絡をとっていたとは驚きだ。

まぁ情報集めが趣味な上原のことだ、あいつに聞けば大抵の情報は知っているだろう。


「で、今なら引き取ってもらえると思ったのか、鍵沼

妻を元気だたせるためにってか。」


「それもある、あとは子供達のためだ。

あの子らは色々事情が複雑でな、暖かい家族というものに飢えているんだ、子供を失ったお前らだからこそ、あの子供達を実の子のように愛し、暖かい家族というものを味わせてあげることができるだろうと思っている。

それにお前、高校のときどんな父親になりたいかって話したとき嬉しそうに語ってたじゃねーか。」


確かに高校の頃そんな話しをした。

父親になることなんてほぼ当たり前として考えていて父親という存在に憧れていた。

鍵沼の話しを聞く限り、皆が得をするように思えた。

頼子は子供がいることで前のように戻り、俺も父親に憧れていた。

それにその子供達も家族に憧れている。

鍵沼の言葉には説得力があり、それでいいんじゃないかとおもってしまう自分がいる。


『お前、営業のほうが向いている気がするわ。』


どーいう進路に進もうか迷っている鍵沼に相談されたとき、鍵沼に言った言葉を思い出し、笑いが込み上げてきた。

やっぱりそう簡単に人は変わらないものだなと安心した。


「わかった、妻と話し合ってみるよ。」


「そうか、伊丹ならそういってくれると思っていた。

でだ、もしあれなら今日お試しということで泊まらせてあげられないかな。なにしろ時間がないもので。」


「まぁお泊りくらいなら。」


「よかった。これ子供達の資料な。」


渡された書類には子供達の写真、施設にいるかの経緯、性格が書かれていた。


「おい、鍵沼この1番年上の子はお前が引き取らないのか?」


「そうだな、第1、凜が一緒じゃないと納得しないしな。

さすがに2人は無理だから、一応俺3人子供いるし。

じゃあ、今子供達よんでくるから。」


数分後、鍵沼は4人の子供を引き連れていた。


「さあて、皆自己紹介しなさい。」


最初に答えたのが1番年上の子だった。


鍵沼優全(かぎぬまゆうぜん)、10歳です。

よろしくお願いします。、ほら凜、ご挨拶は?」


「ほ、本田凜(ほんだりん)、はっ、8歳で、す」


凜という女の子は震えていて優全という子の後ろに隠れていた。

よほど怯えているらしい。


西山綾葉(にしやまあやは)、5歳です。」


岡崎奏(おかざきかなで)、5歳です。」


鍵沼はこっちを見ていた。

少しして、そーいうことかとわかった。


「えーと私は伊丹冬吾(いたみとうご)。今日はよろしくね」


子供達を車に乗せ自宅へ帰った。


「ただいま。」


「お、帰りなさい、早かった、わね。」


頼子の顔色は悪かった、それにやつれているように見える。

食事も喉を通らないのかほんの少ししか食べていない。


「あれ、その子たちは?」


俺の後ろについている子供達に気づいたらしい。


「今日泊まることになった、いいだろう?」


「ええ、構わないけど。」


「こんにちは!今日はよろしくお願いします!」


そういって優全は小さな花の束を頼子に渡した。


「あら、可愛いいお花ね、ありがとう。えっと・・・」


「優全です、こっちは凜、綾葉、奏です」


「頼子です、よろしくね」


頼子の顔つきが優しくなったように見えた。


「さぁ上がって、お茶とお菓子持ってくるから。」


子供達を連れてリビングにいく頼子。

ここでわかったことがある。

優全は人懐っこい、初対面であった俺や頼子にもハキハキ笑顔で話すことができる。

凜は相変わらず優全の後ろで怯えている感じだ。

特に知らない人が傍にいると優全の服を力強く握っているように見える。

綾葉と奏は最初は人見知りするようだが時間が経てばすぐに慣れるようだ。


「ねぇおじちゃん」


「奏ちゃん、なんだい?」


「あのね、おじちゃんは、かなでのパパなの?

あのね、鍵先生がね、パパになるかもしれないから仲良くしなさいって言ってたの。

でもね、かなでのパパとママはねいつかかなでを迎えに来てくれるの、だからママとパパはいらないの」


岡崎奏

3ヶ月前両親が交通事故で死亡。

両親が駆け落ち同然だったので引き取り当てがなく施設にいくことになった。


と鍵沼に渡された書類には書かれていた。

そうか、この子は両親が迎えに来てくれると信じているんだ。

多分死んだことが分からないのか、はたまたわかりたくないのか。


「おじちゃんはね、奏ちゃんのパパとママに頼まれたんだ。

奏ちゃんが元気に楽しく過ごせるよう協力してやってくれって。

奏ちゃんのパパとママは奏ちゃんと一緒にいられないから、おじちゃん達に頼んだんだ。

おじちゃん達はね第2のパパとママなんだよ。」


「第2のパパとママ?」


「そうだよ、奏ちゃんのパパとママの代わりにおじちゃんらが奏ちゃんを助けるんだ。だからなにも心配いらないよ。別に無理しておじちゃんらをパパとママって呼ばなくてもいいんだよ。

いいたいことがわかるかな?」


「うん!第2のパパ!!」


「あー、話しが難しかったかな。

まぁいいか、奏ちゃんがいいなら。」


「奏ちゃん、ジュースとお菓子あるからこっちおいで!」


「うん!」


玄関には頼子と二人となった。


「冬吾さん、さっきの話しどーいうこと?」


「それを頼子に話そうと思っていたところだ。」


俺は施設のこと、あの子達の書類を見せて、話した。


「頼子、俺は子供達を引き取ろうと思っている。

あの子らには施設じゃなくて親が必要なんだと思う。」


「・・・凜ちゃんがね、話しかけるたびに優全君の後ろで震えているの。

なんだか悲しいわね。

わかったわ、私も賛成よ、私達であの子達を守ろう!」


頼子は笑った。

そうだ、これが俺の好きな頼子だ。

やっと帰ってきた。


「どーしたの?冬吾さん、泣いているの?」


「泣いてなんかない、さ」






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