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龍神様は引っ張り出されたくありません  作者: 夜野 天
第一章
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6



『まったく! 千世様が呑気に長風呂している間にも、事態は急展開ですよ!

 千世様が知らないってことは、千世様の目が離れた隙に計画されたってことだとは思うんですが、今、滝津御嬢様は、仲間達と学園に来ているんです』


 現時刻は夜の七時を少し回った所。


 滝津様も部活には入っているが、こんな時間まで活動しているのは(まれ)であるし、何よりも滝津様の帰宅に合わせて千世子も帰ったのだから、滝津様はわざわざもう一度、学園に戻ったことになる。


 けれど、何故?


『……仲間と計画……? 何を?』


 仲間と言えば一つしか無い。四家それぞれの彼女の婚約者候補達のことだろう。


 千世子は風呂から上り、急いで服を身に付けながら、先程の河子と交わした会話を反芻していく。


『こっからじゃあ、良く聞こえないんですけどそれぞれの手の中に、愛用の呪具があるんです。それに宝円の弟のテンションが異様に高くて……推測ですが……』


『……自主練、とでも言うつもりか。宝円の弟め……、兄に何か吹き込んだな』


 きっと言いだしたのは宝円兄弟の弟の方、宝円紅火に違い無い。

 まったく、余計なことをしてくれる。


 よりによって学園に戻るとは。


『どうしましょうか。今のここには……』

 

『ああ。ったく、こんなことになるとは……、下校時刻何て気にせずに、さっさと彼女(・・)と話をしておけば良かった』


 感情の制御の効かない思春期の子供達が通う学校は、思念の温床と言っていい。

 普段であれば別にここまで焦ったりもしないし、彼等には少々温くとも低級霊などもいることから、この程度の練習など。河子をつけたまま放っておくだろう。

 けれど、今のあそこには……。


 しかも現在は夜。暗闇を取り込んで、闇は大きくなる。


『このまま、彼等が彼女にちょっかいをかけなければいいんですが……、今の私では彼等全員を庇い切ることは出来ませんし、かと言って、目を離すことも出来ません。このまま千世様に解放してもらうにも……』


『遠距離の解放なんてしたら、じぃじの術がまた綻ぶ。ただでさえ人の身体なんだ。媒介の無い身体だけの移動もしないようにしているって言うのに……、解放も移動も……、リスクが高すぎて気後れするね……。

 彼等は今、どこにいるの? あそこには近づきそうなのかな?』


『今はまだ、校舎に入ったばかりです。もっと早く連絡すればよかったんですけど、まさか本当に入るなんて思わなくて……』


『いいよ。本来ならそうそうに入り込めるような所じゃ無いさ。吾都万の夜の校舎なんて。

 裏で手を回したのは、さて、宝円か廉条か……。どちらにしても、まだ入ったばかりなら時間はある。特別棟?』


『いえ、……まっすぐ普通校舎に』


『……普通に、入口に近い所から見て行くと考えたいけど……、時間が足りなくて手付かずとは言え、盛塩と水張りはして来たから、気付いてはいないと思うし』


 千世子の住居から学園まで、本来なら車で三十分はかかる。けれども、さすがに四家と関わりの深い学園、というべきか。学園の少し前に千世子の分社。水神の(ほこら)があるのだ。


 住居から祠の御神体まで繋ぐ(・・)ことが出来るので、千世子はいつもそこから学園に通っていた。


 けれども、祠からも徒歩十分。


 祠から学園まで半分で走り抜けたとして、玄関から例の教室までは頑張っても十分~七、八分はかかりそうだ。


 一応、学園に向かうということでチョイスした制服、オレンジと白のチェック柄の入ったスカートのホックを留め、臙脂色(えんじいろ)のジャケットを羽織り、白の靴下を履いた千世子はローファーに足を入れる。


 瞬時に水気を飛ばした肩までの黒髪をヘアゴムで一本に括り、愛用の百五十ミリリットルのペットボトルホルダーを腰に吊るす。


 何にでも使えるようにと、日々神気を貯めている水瓶の中に道を繋ぎながら。


「まったく、内の御姫様もやってくれる……」


 本日何度目かの不満を口にするのだった。



◆◇◇



 まず、一番初めにやってきたのは音楽室。噂の内容は夜中に勝手に鳴り出すピアノ、というお約束なもの。


 ノリノリな紅火とは反して、眉唾な怪談に各々が渋面を作った。


「……何と言うか、良くある話、というか……」


 眉間を揉みそうな勢いで、彼方が眼鏡を指で抑える。


「紅火君、お兄ちゃんは一気に不安になって来たよ。本当に今日、ここまで来た意味はあるのか、と」


「……、照兄(てるにい)。本当のこと言い過ぎだよ……、取り敢えず、僕は眠い」


「……」


「なんだよー。せっかく僕が集めてきた噂だって言うのに! それに爽太君はいつでも眠いでしょ! 遥に関しては喋ってもいないし」


 もー! と頬を膨らましむくれる紅火に、まぁまぁと滝津が宥める。


「卯木さんの言う通り、一番胡散臭いのがコレってことでしょう? 何も無ければそれに越したことは無いんだから、こういうことを確認して行くのも大事な生徒会のお仕事なんじゃないかな? ねぇ、照明君」


「さすが滝津! 言うことが違うね。僕も、実はそう言いたかったんだよ」


「いや、それは……」


「諦めろ、照」


「……僕は、紅火のお兄ちゃんだよ……」


「どういう意味かな!?」


 滝津に被せもっともなことを言った照明にかかった由紀と、卯木の冷たい言葉に照明は悲しく項垂れた。



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